第137話 青葉の正体
「お前、青葉を何だと思っているんだ」
「何でそんな事をするの? 確かに違和感は感じていたわ。両親がどこか冷たかったり、この世界に来てどこか懐かしさを感じたり」
今まで青葉が感じていた違和感。それが今にして理解できた。
幼いころは記憶が全くなく両親は自分にどこか冷たい。ひっぱたかれたり暴力をふるわれる事もあった。
だから子供のころは親しくしてくれた幸一とよく遊んでいたのだった。
そしてこの世界に来てから、どこか懐かしいという感情を感じていた。
フィリポは自慢げに語り出す。まるで青葉は自分が成り上がるための道具にすぎないと思っているように。そして今度はサラがいつにも増して怒り叫ぶ。
「どうしてそんな事をするの!! 青葉ちゃんはあなたの勝手な欲望のために動く人形じゃないのに」
「だからなんだよォ──、貴様たち奴隷どもは俺達が成り上がるために都合よく動いてくれればそれでいいんだよォ」
「そんな……」
「だってわざわざひ弱でどんな人格かもよくわからない、素質があるかも不明な別世界の人間を送る必要ある? そんなのは馬鹿正直な奴がする事よ」
「いいこと教えてあげる青葉、あなたは自分自身で今までこの世界のために戦って来たと思っているでしょ。でも違うの私がレールを敷いたの。素質のあるあなたをあの世界に送り込みわざわざ偶然を装ってこの世界に送り込んだの。そして裏方の仕事をあなたにさせ、相談と称して私に伝えさせることでこの世界の事を私に教え込む役目だったの」
「そ、そんな……。ウソよ、あんなに優しくて親切にしてくれて、頼りにしていたのに──」
青葉には今起きている自分が慕っていた天使が裏切り者だという事実。それが頭では理解していても彼女の心がとても受け入れられなかった。青葉は自分が信じていた物がガラガラと崩れていくような気がした。
「青葉ちゃん、ありがとうね。私にたくさんの情報をくれて。本当に役に立ったわ。あなたが教えてくれた情報のおかげで私がこの世界を支配するの。ねえどんな気持ち? ねえどんな気持ち? ねえどんな気持ち?」
青葉は必死に涙をこらえる。自分が信じていた大切な者が偽りで全て崩れ去ったような気持ち。全てが壊れそうな想いを必死に我慢する。
「わかったわよ、あんたが敵って事は──。けどネタばらしをした以上もうあんたのスキにはさせない、守り切って見せるわ。この世界を」
「甘いわよ。この世界は守られることはないわ。魔王様と私の奴隷になってもらうの。この国も崩壊するわ、一人の人物によってね」
「──変にもったいぶらないで言ってみなさいよ。他に仲間がここにいるってことでしょ」
青葉の必死の反論に邪険な笑みを浮かべながらフィリポが言葉を返す。
「あれれ~~青葉ちゃん物忘れ激しくな~~い?? 私は青葉ちゃんを勇者としてこの世界に送り込んだのよ、青葉ちゃん以外にいないわ?? あなた、結構鈍いのね」
フィリポの言葉に青葉はとうとう怒りが爆発、高らかに感情を激高させ大声で叫ぶ、。
「そんなことするわけないじゃない!! 確かにあんたが私をこの世界に送り込んでくれたことには感謝してる。でも魔王軍に手を貸して幸君達と戦うなんて絶対にいやだわ」
「アマちゃんね~~青葉ちゃん。あなたの意見なんて聞いてないの。もう宿主のあなたは用済みだわ」
「宿主?」
その言葉の意味を青葉は理解していなかった。そしてこの意味を瞬時に理解していたのはユダであった。
「見越していたんじゃろ、人間の人格ではどうしても感情と言うものが出てきてしまい作戦の遂行に支障が出てしまう。だから別人格のようなものをあらかじめ作っておいたのじゃろ」
フィリポはユダの自信満々な口調からやれやれと言ったポーズで余裕の笑みを見せる。
「素晴らしいわユダ、敵ながらその洞察力、さすがね。仲間にしたいくらいだわ」
「別人格……。どういう事?」
明らかに青葉の様子がおかしい。身体がびくびくと震え恐怖の感情が彼女を支配しようとしているのが分かる。
「じゃ青葉、今までお疲れ様。これからは自我なんかいらないから私の奴隷として人形になって頂戴」
トマスの横からの声。その言葉に青葉の顔が見る見るうちに青ざめていく。そしてフィリポはコッコッと青葉に歩み寄る。
「いや、やめて……」
「青葉!!」
幸一はようやく体が動くようになりよろけながらも青葉のもとに駆け寄る。青葉の心の中に恐怖心が侵食し始めまるで助けを請うかのように彼の服の襟をギュッとつかむ。
「そんな、勝手なことしないでよ」
「あんた、いい駒だったわ。今までありがとう、ここまで強くなってくれて。その力、魔王軍と私たちの栄華のためにたっぷりと利用させてもらうわ」
それにあらがうかのように心の中で幸一やこの世界への気持ちを強くする。
瞳から涙がしずくのようにこぼれ始め必死に抵抗する。
(嫌、嫌、殺したくない、幸君達と一緒にいたい、戦いたくない!! イヤ、イヤ……)
「うわあああああああああああああああああああああ」
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