第138話 さあ、どうする? 幸君

「そんな、勝手なことしないでよ」


「あんた、いい駒だったわ。今までありがとう、ここまで強くなってくれて。その力、魔王軍と私たちの栄華のためにたっぷりと利用させてもらうわ」


 それにあらがうかのように心の中で幸一やこの世界への気持ちを強くする。

 瞳から涙がしずくのようにこぼれ始め必死に抵抗。


(嫌、嫌、殺したくない、幸君達と一緒にいたい、戦いたくない!! イヤ、イヤ……)


「うわあああああああああああああああああああああ」


 青葉の頭がズキンズキンとひき裂かれるような痛みに襲われる。

 そして自身の脳裏から何かの意思を感じ始める。

 頭を抱え膝を屈し倒れこむ。








 青葉は顔をひきつらせて心のそこで叫ぶ。自分は幸君達と戦いたくなんてないと──。


 無駄な抵抗だった。



 決死の抵抗は一瞬で排除される。代わりに魔王軍として人間たちを皆殺しにするという本能が青葉の自我を鎖のように縛り上げる。

 そして彼女に刻みつけられていた魔王軍の魂が脳裏に流れ込む。


 青葉は自分が刻みつけられていた使命を認識し人間としての青葉から人間たちを皆殺しにする魔王軍へと変わっていくのが自覚した。


 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。




 青葉の心がその言葉で満たされる。




「フフフ──」


 フィリポは静かな笑みを見せながら冷静に言葉を返し始める。


「戦いの勝利それは大きく分けて二つあります。一つ自分たちの勝ち筋を通す事、二つ自分たちの負け筋をふさぐ事」


「幸一さん、あなたの勇者としての実力ご存じております。どんな時でもあきらめずに戦いぬきいかなる魔獣も突破してきた。たが強い魔獣を召喚してもあなたならきっと打倒してしまうでしょう」


「俺に青葉と戦わせる。それが作戦か──」


 重くのしかかる真実。まさか青葉とここで戦うことになる何て予想していなかった。その事実に胸が重くなる。


「そしてあなたはただの人間。身体は一つしかない、同時刻に二つの脅威があった場合あなたは一つしか対応できない」


「どういう事だ?」



「こういう事です」


 ピッ──。


 幸一がにらみつけながらの一言に対しフィリポは冷静にニヤリと静かに笑いを浮かべ指をはじく。そして5秒ほどの時がたつと……。



 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!



 外から天を引き裂くようなとてつもなく大きい音が聞こえ出す。



 伝令係兵士らしき人が扉を開けるなり血相を変え走ってやってきた。息も絶え絶えに彼は国王に向かって衝撃の言葉を叫ぶ。


「た、た、た、大変です国王様。街のはずれに大型魔獣出現です。それもかなり巨大で、今までに見たこともないほど大きい魔獣です」


 その言葉にこの場にいる兵士や国王全員が沈黙。突然の事態に互いがきょろきょろと


 誰かが幸一の服の裾をつかむ、幸一は後ろを振り向く。そこにいるのは青葉だった。今までに見たことが無い暗く殺意に満ちた目。


「行かせはしない、幸一、あなたを消滅させる。殺す。今すぐ戦え!!」



 彼はいない、青葉もいない。イレーナだけではあの魔獣はさすがにきついだろう。彼女と一般冒険者だけで大型魔獣を倒せるのかどうか分からない。



「うぅぅぅ……」


 ここでようやくイレーナの目が覚める、彼女にとっては後頭部に強い衝撃が走ると同時に目の前が真っ暗になり次に目を開けた時には今の状況になっているという感じだ。


 何がどうなっているのか理解できずキョロキョロと周りにを見始める。それを見たサラがこの場で何があったかを説明し始める。


「そ、そんなことがあったの!!」


「はい……」


 確かにイレーナにとって青葉は恋のライバルとして考えていたフシがある。しかし一緒に旅をして戦って来た戦友でもあった。


 そんな青葉が自我を失い殺意と憎悪に満ちた状態になっていること、そして戦わざる追えない状況になっている事に激しく肩を落とす。


「青葉ちゃん……、そうだったんだ」




 しかし外には超大型魔獣、どうすればいいのか、青葉を放置すれば彼女が黙っていない。破壊の限りを尽くし暴れまわるだろう。手がつけられない強さで──。


 どうすればいいか幸一が考えこんでいるその時だった。



「貴様こそ誤解をしている」


「そうです。もうあなたたちの思い通りにはさせません」


 背後から誰かが話しかける。こっこっと二人の人物の足音。ここで話している幸一やフィリポ達がその方向を向く。


「ルーデル、シスカ、どうして?」




 それは幸一がこの世界に来たばかりの時に出会った人物。一人は小柄で茶色の毛耳をした少女シスカ。もう一人は幸一より頭一つ大きい身長、黒いコートを着た大人びた人物、紫色で蟹とヒトデを足して2で割ったような髪型で幸一と同じくらいの年齢をした男性。ルーデル・ラインハルト


「何だァテメェラ──、ここは貴様のようなボンクラが来るところじゃねェんだぞォ」


「フン、まだ俺達の実力を貴様は知らないはずだ。その油断と甘さが貴様の命取りになるとも知らずにな」

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