第114話 イレーナの過去

「ちょっとまって、どういうことなの? ここに帰ってくるって何? 理解できないよ」


 すると背後から叫び声が聞こえる。


「イレーナ、私が話そう!!」


「人質は黙ってな!!」


 聞き覚えのある二人の声に幸一とイレーナは後ろを振り返る。


「しょごりゅうについての情報。教えてもらおうか!!」



「やあ、お二人さん。アツアツな恋愛ごっこはここまでだよ!!」



 ペドロが柱の陰から何かを二人に見せる。一人はアリーツェ。

 年配で長身、整ったヒゲ。厳格なまなざし。縄で拘束されている国王の父イレーナの父親であるダウニング=ミッテランであった。

 たまらずイレーナが叫ぶ。


「お父さん!!」


「駄目だ、こいつが殺されたくなかったら今は下がんな!」


 ペドロは持っている剣を国王の首に当てる。仕方なしに下がるイレーナ。


「こいつにはちょっと人質になってもらうよ」


 ペドロが指をはじく、すると彼女の背後からスカーレット色をした無数の触手が出現し始める。

 そして触手がうねうねと国王の方へ向かっていく。



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 国王が悲鳴を上げる、赤い触手は国王の服の中に入り込みまとわりつく。


 触手がヌメヌメとした粘液を出し始め国王の肉体が粘液まみれになっていく。そして国王は粘液まみれになり触手に拘束された状態となる。


「お父さん!


「くっ、殺せぇぇぇぇぇぇぇ」


 国王は拘束された中でもがきながら叫ぶ、しかし触手達は国王の身体にぬるぬると巻き付きどうする事も出来ない。


「貴様を凌辱と恥辱まみれにしてさらしものにしてやるよ、生き恥をおもいっきりかいてもらおうか」



「イレーナ、そこの壁画に描いてある文字を読むんだ──。あんた、読めるんだろ」


「もういいよお父さん」


 イレーナは国王のために文字の解読を始める。

 そして涙ながらに今の気持ちを訴える。どこか距離を置かれながらも育ててくれた父さんへの気持ち。


「それでも、育ててくれたお父さんだもん、見捨てられるわけないよ!!」


 そして10分ほどたっただろうか。イレーナは複雑な表情を見せながら口を開き始める。



「……今終わったわ」


「じゃあその意味を説明しな」


「この世界に文明ができる前、未開だったこの地に文明を天使たちは与えたの。それが七つの龍」


 ここにはそのうちの一つ、言葉を作った龍。初語龍。彼がこの世界に言葉を与えた後力を使い尽くしてしまいこの遺跡に眠っている。そして邪な者が現れこの力が必要になった時。一人の子にその力を与え運命に導かれし者とともにこの世界を正しき方向に導くって……。




「つまり、その力を与えられたのが私──」


「そうです。御名答です」


 アーネルが無表情で再びお辞儀をする。

 イレーナが自身の運命、生まれに気づき、無数の触手に拘束され粘液まみれになった父の方向を見る。


「イレーナ、今まで黙ってて済まない。実はお前に伝えなければならないことがある」









 それはちょうどここの部屋に初めて到達した時だった。

 初めてこの遺跡の存在が知られ、その遺跡がこの国、世界にとって重要なものであると分かった。国王と側近、さまざま学者達をごぞっとついてきてこの遺跡にたどり着いた。


 そして最深部のこの場所にたどり着いたその時。



 ふええ……ふえええん──。


 何かの泣き声、それに気づく国王とその周り。

 そして中央の幾何学模様をした机。そこに泣き声の主はいた。


「な、何故赤ん坊がここに……」


 豪華な装飾品に彩られた透明に光る揺り籠、その中に白髪の小さい赤ん坊の姿。

 国王がその場にたどり着き見とれていると──。


 突然その上が光り出し始める。


 シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ。


 そしてその光から一人の幼い女の子が現れる。


「こ、この女の子は……」


 国王とその側近たちは突然の出来事に驚愕しつつも落ち着きを取り戻し状況を把握し始める。


 そして同行していた歴史学者やこの遺跡の関係者が言い伝えや文献などをもとに遺跡とこの小さな女の子の正体を推測し始める。


 老人の遺跡の関係者が国王達に話し合いの結果を離し始める。



「国王様、遺跡にはこのような言い伝えがあります。ここにはこの世界の言葉を作ったとされる龍(初語龍)しょごりゅうが伝説として眠っています。その龍は平和のため邪なる力が現れしときに現れると言われています。そしてその龍の力を持つ少女が現れると言われています。つまりこの少女は「初語龍

しょごりゅう

」を操る力の持ち主かと思われます」


「御名答です、あなたはこの王国の中でも地位があるお方のようですね」


 手のひらサイズの小さな女の子がぺこりとお辞儀をしてしゃべり始めた。


「私はこの遺跡の番人アーネルと申します。このたびははるばるこの遺跡に来ていただきありがとうございます」


「あ、ああ……。それでこの赤ん坊はどういう子なんだい? 初語龍に関係する持ち主なのか?」


「はい。ただしそれは成長してからです。今はまだ子供ですが成長すれば必ず初語龍の持ち主になります」


 アーネルが今の会話につけたすように口をはさむ。彼らの話しを要約するとこの少女は今はまだただの子供だが成長するとこの遺跡に眠る龍「#初語龍__しょごりゅう__#」を操る力を手に入れるという。


 そして彼女を誰に預けるか国王は考える。条件として彼女を守り切る力があること、彼女を悪用しないこと。

 懸念もある。そしてたどり着いた結論は──。



「わかった、私が引き取る。ミッテラン家の養子と言う扱いにする」


 国王の自ら考え出した答えだった。権力闘争のあるこの国では特定の勢力に特殊な力を持つこの子をゆだねるのは危険だからである。


 また、妻が病弱でもう子供は作れそうもない。跡取り息子達に何かがあった時の保険として血筋を継ぐ者は多い方がいい。

 そういった打算的な考えもあったが──。


「もしこの遺跡から出現したことが周囲に漏れればこの子はこの遺跡の力を悪用しようとする邪な者達に狙われてしまうだろう。それならば我が子として扱った方がいい。そうして私はお前の父になる選択をしたのだ」


 だが、国王の妻が産んだ子供ではないため国王の後継者争いに加わることができない。

 また、血の繋がっていないということで他の息子や娘からはどこか他人のような扱いを受けてしまっていた。

 つまりイレーナはミッテラン家の中でも何処か距離を置かれたような存在になってしまっていた。



「イレーナ、私の話しを聞いてくれ」

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