第104話 レイカとアリーツェ

 それでも何とか少しずつノーム共和国の魔法使い達が進軍を進め最果ての村にたどり着いた。



 そしてそこで見た光景に魔法使いたちは絶句する。

 それは一言で言えば地獄だった。


 良くも悪くものどかさを持っていた風景は打って変わって廃墟となっており人々の屍が乱雑に転がっていた。



 うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ


 どこからともなく少女の声が聞こえる。しかしそれは助けを求める声ではなく感情のままに怒り狂い叫んでいる声。




 涙ながらにデュラハンに槍を振り回す一人の少女。



 涙を流しながら魔獣たちに駆け寄り、消滅していく魔獣たちの胸ぐらをつかみながら叫ぶ。

「家族を、村人を、みんなを──、返せ返せ、返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


 粗だらけの乱撃、獣のような本能むき出しにふるまわれる槍さばき。

 彼女の周りには打ち倒された魔王軍の兵士たちの残骸。


 怒りに震えたレイカの攻撃。戦術も何もないただ感情に任せた攻撃。

 それが「モリンフェン」に直撃する。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!


 一瞬で掃滅。その姿に言葉を失う魔法使い達。


「ひるむな!! 私たちも戦うぞ!!」


 魔法使い達の反撃が魔王軍の残党へ向かっていく。

 その後、魔王軍たちは多数の犠牲を出しながら何とか消滅した。


 そしてその強さが魔王軍対策を考えていたイレーナの父の耳に入り魔王軍討伐の依頼を始めたのであった。



「魔王軍への怒り、それは私や幸君の比じゃないはずよ」


 イレーナの今の言葉が幸一の胸を深く突き刺す。確かに幸一にも彼らに対する怒りの感情はある。だがそれは街を守ると言った使命感や正義感など理性的な感情から来るものでありレイカが持っている感情とは根本的に異なるのだろう。


 魔王軍によってすべてを失った悲しみ、幸一には想像もつかない。恐らくレイカが抱いているのはもっと感情、本能から来るものであるだろう。


 そしてレイカは全てを失い彼女アリーツェの所に来た。

 言葉を失う幸一。彼女の強さとそれを求める根源が想像できる。


「つまり心の底から魔王軍に対して憎しみを抱いているということだな?」


「うん」


 イレーナもそれは理解している。レイカの魔王軍に対する本能的な怒りや憎しみ、それは幸一には想像もつかない。


 幸一の魔王軍に対する怒りというのはどちらかと言うとみんなを守りたい、救いたいと言う使命感や義務感と言ったものであり、レイカが持っている本能的な物とは違ったものだ。




 そんなことを話していると、周りがどこかざわめき始める。


 政府の高官の一人が国王に詰め寄って叫び始める。

 その人物は軍務大臣であり普段から教会に対して懐疑的な態度をとっていると有名だった。


「言ったでしょう国王様、彼らに融和するるのはやめましょうって」


 彼は過激派達のテロで部下ともいえる兵士たちを失っており国王の過激派に対する消極的な姿勢に不満を持っている。もっと距離をとって対立路線をすべきだと主張していた。今回も巡礼のタイミングが終わったかのように魔獣が現れたことについて教会と魔王軍

 疑いの目を配っていた。


 国王が何とか落ち着けとなだめるように説得する。大臣は不満げな顔つきをしつつも何とか落ち着く。


「ねえねえ幸君、さっきの私見た? 強いでしょう~~、もしかしたら幸君今回出番無いかもしれないわ? だって私が全部倒しちゃうんだから」


 レイカはアリーツェの姿を見た瞬間を変えて小走りで接近する。フッとした心からの笑み。


 それを見て幸一がイレーナに質問する。


「レイカ、あの人と何か関係があるの?」


 青葉もレイカのことが気になり始めた。


「あ、それ私も思ったイレーナちゃん。レイカの事、知らない?」


「うん、話すと少し長くなるんだけどね……」


 そしてイレーナがレイカの事を幸一や青葉、サラに話し始める。

「まずね、レイカの故郷が魔王軍によって全滅させられた時のことね──」


 レイカの村が魔王軍に襲撃され全滅した時のことだった。その後、レイカは孤児院で暮らしていた。中には彼女の事を考えてレイカに慈悲の言葉をかける信者たちも現れ始めた。


 信者たちは心は優しく故郷が全滅した少女ということでレイカに何人もの信者が詰めかけた。


「あなた、レイカちゃん──。だっけ。かわいそうねぇ」


 しかし、訪れる人達はみな彼女に対して同情の声をかけるばかりで何処か腫れ物を触るような扱いが許せなかった。



 当然信者達はレイカに何人も、レイカ自身が呆れるくらいに歩み寄る。


「だから、私たちと一緒に祈りましょ??」


「これはあなたのためなんだから。これはあなたのための試練なの」



 彼ら自身は決してレイカを貶めようとしているわけではなく、レイカのために言っていた、一緒に亡くなった人達のために祈ろうと。


(──チッ)


 その言葉にレイカは憤激した。

 何故そんな気まぐれのようなことで目の前で親友も、家族も皆殺しにされなければならないのか。


(お前たちに私の何が分かるんだ? 何故犠牲になった人たちを貴様たちの勝手な布教の道具にするんだ!!)


 彼らの無責任で安っぽい気遣い、それによってレイカがどれだけ傷ついたか、怒りを覚えたか──。


「貴様たちに私の何が分かる!!」


 レイカが感情的になり神を否定するとやつらは手のひらを返したように時には殴りかかりながら憤激し叫ぶ。信者もそれに反応してレイカに対してまるで親を殺されたかのように表情も口調も怒りに満ち始め叫ぶ。


「貴様も地獄に落ちるぞ!!」


「貴様がそんなんだから天使たちは怒りあんな事件を起こしたのだ!!」


 何度殴り合いになったことか、レイカは時には信者を半殺しにしてしまうほど暴れまわり心を荒ませていった。


 そんなところへ一人の人物が現れた。灰色のストレートの長髪、年齢的にはレイカより一回り大きいくらい。落ち着いた素振りと表情をした女性の大教皇であるアリーツェであった。

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