第82話 不公平感

 アルマントはうつむきながらどこかほっとしたような様子であった。

 彼は協力して魔王軍と戦うことに抵抗がなく幸一達に好意的であった。問題は彼の父親なのだが──。



 再び街を歩きだす4人。


 無法地帯となった街を散策しながら次はどうするかと幸一達が考えているとイレーナが何か思いついたで提案する。


「とりあえずギルドに行ってみよ、こっちの冒険者たちと合ってみようよ」


「そうですね、ちょっと話を聞いてみましょう」


 サラも同調する。他に行くあてもないのでイレーナの意見が通る。

 ギルドに行ったところ、今そこは病院の代わりになっており大半が病院で手伝ったり貧しい人達に炊き出しをしているということだった。


 冒険者達も治療を手伝っている。

 また、食料も届いていて貧しい人達への炊き出しも行っていた。


 サラがその様子を見て一言。


「意外と薬も道具も充実してますね」


 先ほどの病院と比べての言葉であった。先日ルトと会ったあの病院では薬も食料もこことは比べ物にならないほど不足していた。


「それは、良くも悪くもこの地区の部族が今の政府の人達と同じ土地の生まれだったからなんです」


 サラの説明が始まる。ここの地区にすむ

 彼らはクラスノフの影響が強い、そういった保護下にあるところは物資の横流しを行っていた。

 なので薬や食糧を優先的に受け取れる傾向があった。


 当然他の住民たちもこれを知っていて政府への不満の種になっている。当然原住民への感情も悪化ししばしば暴動に発展し兵士や冒険者が慌てて強引に静止する事態になっていた。


 住民たちも一枚岩で貴族達に抵抗しているわけではなく取り入ることで利益を得ようとしている人達もいる。それが住民の中での争いの火種と不満の原因になっていた。


 内政がうまくいっていない地域の特徴でもあり地域間で物資の供給に差が出てしまっている。これではいくら援助をしても本当に貧しくて援助が必要な地域には物資が届かなくなってしまう。

 それだけでなく住民たちの間にも不公平感が出てしまい争いの火種にもなるであろう。


「良くわかったよ、この地方がどんな状況なのかが」


 ため息をつき、腕を組みながら幸一が声を漏らす。

 内政がひどい国家の特徴であった。


 政府の中での公と私の区別がついていない国家のことである。

 お前達の物は俺のものと言う言葉で言うと分かりやすいだろう。

 幸一の生まれた世界でも政情不安定な発展途上国でよくあった光景であった。

 国としての基礎ができていなく体制側は自分の息のかかった軍などの勢力だけに関心を注ぎ、

 これをしないと、自分たちが有力者でいつづけることはできないためだ。彼らは国庫から得た富を彼らの優先的に分配し、支持者を増やしていく。


 しだいに公私の区別はつかなくなり国の財産は自分のものだと言う感覚が染み付き賄賂や汚職が当たり前になり貧困や争いが蔓延する。

 恐らくこの地方の未来は貴族達から冷遇された人達が自分で武装組織を作り内戦状態になり国家そのものが崩壊状態。難民が大量に発生し近くの都市や首都ネウストリアに難民キャンプができるであろう。そしてそこでも資源や食糧を巡って原住民と争いが起き混乱はこの世界全体へ波及するだろう。


 その前にこの不幸の連鎖を止めなければいけない。


 幸一がそう考えていると誰かが大声で叫んでいた。


「ど、どうしたんですか?」


 イレーナがその人に声をかける。

 古びた服にぎらついた目で痩躯なオークの男性だった。


「それに金を渡せばここで物資を得られるって噂になっているんだぜ!! どう考えてもズルだろ」


 冒険者達に食ってかかるように詰め寄る。

 しかしその噂は本当だった。サラがこの街で話しを聞いている時にそれは理解していた。

 その部族に入ればこの街では比較的食料や薬などが手に入りやすい。

 なので住民たちも不正をしてでも貴族達の庇護下に入ろうとする。そして体制側に入り自分も利益を得ようとすることもあった。


「ふざけないでくれよ、何であんた達だけいい想いをしているんだよ。冒険者や病院の奴ら、テメェラも一緒だ俺たちだってわかってんのかよ!!」


 しかし彼に満足に暮らしていくだけの金は無く貧困にあえいでいた。そしてその不満が彼の怒りとなって爆発していたのだった。


「違うよ、そんな言い方しないで!!」


「やめて!!」


 イレーナが高らかに叫び男性にとっかかろうとする。それをサラが止める。


 彼にとっては冒険者を含めたここにいるすべての人達が腐敗した貴族達の取り巻きにしか見えないのだろう。


 複雑な表情をする幸一。そしてどうしようかしばし考え柔らかい笑みを浮かべながら話しかける。


「ほら、受け取ってください。申し訳ありませんでした」


 そして水と食料をその老人に渡す。

 老人は礼も言わずに物資を受け取りその場を去っていく。


「まあ、不公平感は理解できるわ──」


「はい」


 青葉とサラの言葉、それが幸一の胸に突き刺さる。確かに彼からしてみれば生まれた種族の差で露骨に援助物資に差が出てしまう。本人からしたらたまったものではない。


 ただ援助するだけではだめなのだと悟る幸一。


 そんなことを考えながらここの住民たちと会話をしていると、ここに二人の冒険者がやってきた。


「幸一さん、イレーナさん、ここにいますか?」


 ドアを開けて走ってきた冒険者の女の子二人。

 走ってきたせいか。額に汗を浮かべどこか焦っている様子であった。そのそぶりから何か問題があったのでなないかと予想する。


「ど、どうしたの? 何かあったの?」


 幸一がすぐに反応して言葉を返す。突然の事態に動揺が走る。


 幸一達が来ているとのうわさはすでに流れていて二人の少女は彼しかこの問題は解決できないと考え幸一を探しまわっていたのである。


「大聖堂に来てほしいんです」


「何があったの? 話だけでも聞きたいわ」


 青葉の質問に二人が顔を合わせ事情の説明を始める。


「マンネルへイムさんがやってきて、私たちに話しかけてきたんです。そしてその内容が──」

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