第83話 彼の目的
「何があったの? 話だけでも聞きたいわ」
青葉の質問に二人が顔を合わせ事情の説明を始める。
「マンネルへイムさんがやってきて、私たちに話しかけてきたんです。そしてその内容が──」
そして少女が話した内容にここにいる全員が絶句する。
「本当に、あいつがそんなこと言ったのか?」
「はい、私たちではどうする事も出来ないんです。お願いします勇者さんの力が必要なんです」
幸一の服をつかみながら二人の少女は深刻そうな表情で必死に話しかける。
「今へイムさんはここのギルドの冒険者達をまとめているギルドマスターと掛け合っています。しかし議論でもマスターが押され気味なんです。お願いします来てください」
「わかった、すぐに行くよ」
「うん、僕も向かう」
彼女達の様子やそぶりから幸一とルトはすぐに向った方がいいと察しすぐにこの場を後にした。
早歩きで15分ほどで到着、大聖堂の扉を開けると教会の中央で二人の人物が話しあっていた。
パープルの髪色で長身の女性、彼女がギルドマスターのへストリアであった。
「とにかく私は出来ません、やるならあなた一人でやってください」
冷静沈着に見えるが互いに睨みあっていて遠目から見ても二人が口論になっている姿が垣間見えた。その中に幸一は先ほど少女たちから聞いた噂について強気な態度で問いただす。
「信じがたいうわさを耳にしたので急いでここにやってきました。まずは貴方にお尋ねします。本当でしょうか? 今あなたがここの冒険者たちを使って政権の転覆を狙っていたというのは──」
へイムの革命を起こし今の軍事政権のゴブリン達を皆殺しにするという計画についてであった。
へイムはニヤリと笑みを浮かべながら悪びれもなく答える。
「ああ、狙っているよ。貴様の言う通りだ。だって生きるに値しない命だからな。そいつらを整理して真に皆のための政府を作る」
無理です、絶対破たんします。私たちに政治を行う力なんてありません。世界中から非難を浴び誰も国家として承認しないでしょう。
そんな復讐目的で政府を崩壊させたところで私たちの生活が良くなるわけがありません絶対に賛成しません。
へストリアが物優しい口調でながらも真正面から否定する彼女特有の言い回しで反論する。
「第一を転覆させたとしてそのあとはどうするんですか?」
へイムは壁際のソファーに座りこみ腕を組みながら傲慢な態度で言葉を返す。
「まず今の政府の要人達はすべて殺すよ、だって生きてる意味ないだろうあいつら。人々の富を不当にむさぼる寄生虫。焼き払うのが一番だ」
まるで道端の草をむしるような感覚。そこに人間の命を奪う罪悪感と言う一般的な人間に備わっている罪悪感は存在しない。
その異様さに幸一は表情を変えないながらも内心驚く。そして見かねて彼をにらみながらみつける。
「俺もあなたの意見には賛同できない。そんな理由で革命を起こした所で対立し収拾がつかなくなるのは目に見えている」
「森の薬草や動物、鉱山、水資源を巡ってギルドも軍も少し内部で対立を抱えています。貧しい中資源の取り合いが多少あります。今は軍部との対立があるため何とかまとまっていますがそれが無くなれば必ず対立が表面化します」
その通りだ。いくら悪党だからと言ってそのまま皆殺しにすればいいというものではない。
悪人を何も考えずに追い出せば平和が訪れる。それは漫画の中だけの話である。
ギルドもただ軍部と言う共通の敵がいるから内部の対立が見えていないのであって。共通の敵がいなくなった途端に利権を巡って争い合い大量の血が流れることになるだろう。
あの井戸のように。
だからこそ慎重に行わなければならない。より多くの人々が合意し後に禍根を残さないような仕組みを作らなければいけない。そうしないと苦しむのは彼女たちここにすんでいるものなのだから──。
「私たちはあなたのように要求願望と自己満足のために戦っているのではありません。ここにいる、いや、この地方全ての人が争いもなく平和に暮らせることを現実的夢にしています」
ルトがさらにへイムに強気で語りかける。
「とにかくそんな案は受け入れられません。これが私の、そしてここの冒険者達の意見です」
へストリアは全く意見を変えない。
すると青葉がふと疑問に思いおそるおそる質問する。
「第一革命に参加しなかった人はどうなるんですか?」
「その時点では特にとがめはしない。だが何かあった時裏切り者呼ばわりされることにはなるな、ま、自己責任だ」
「逆らったものには罰を下す。結局あなたもやっていることは変わりませんね」
青葉がへイムを睨みつけながら言葉を返す。
つまりそのためには彼女達の事情はすべて無視するということだった。
「では力づくでやらせてもらう。俺に逆らうということがどれだけ愚かなことか証明させてやる」
「そこまでして革命を行う目的は?」
「貴様たち愚民を動かすには伝説が必要なのだ。誰でもわかるような、俺が時代を作る英雄であることを分からせるような強い理由が──」
今度はサラがする強い物言いでへイムに叫ぶ。彼の言葉を遮るように。
「へイムさん、私も同じことを思っています。あなたの言っていることに賛同できません。無茶苦茶です」
イレーナも幸一に叫ぶ。それに答えるように幸一が口を開く。
「幸君、幸君はそんな人じゃないよね。自分が思っていることを正直に言って!! そんなの間違っているって!!」
「やめてくれ、それ以上彼女たちに変な命令をしてみろ。今度は俺が相手をすることになる」
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