第64話 例えやりづらくても
そんな事を考えながらフィッケルが作戦は成功したと考えこんでいると背後から誰かの声が聞こえた。
「ちょっと甘いんじゃな~~い、後ろに誰がいるかも分からないのに自分の機密情報をべらべらとしゃべっちゃうなんてさ~~」
にっこりとした表情で身体を反転、フィッケルの隣の席に座りこみにっこりとした笑顔で囁く。
「今の話聞かせてもらったから!! 二人とも逮捕ね」
「き、貴様昼間の──、何故ここにいた?」
予想もしなかった事態にフィッケルは大きく動揺する。
「あんたが話しをしはじめた時からよ」
自信満々の表情でフィッケルとマフィアに話しかける。
「私これが本業だもの。こんなの朝飯前よ!! 全部聞かせてもらったわ」
そして青葉はフィッケルを捕らえるためカバンから汎用の槍兵器「カシラニコフ」を取り出しその槍の先端をフィッケルに向ける。
「さあ、覚悟しなさい!!」
するとフィッケルの隣にいるレスがパチッと指を鳴らす。
この場にまばゆい閃光が走る。その眩しさに青葉が目をつぶってしまう、そしてすぐに目を開けるとそこには──。
「あっ!! 逃げられちゃった!!」
誰もいなかった。慌てて店を出ると道を走って逃げだす
こいつは傀儡、たとえ今こいつを捕まえても何の解決にもならない。それをわかっていた青葉はフィッケルから事実を聞きだそうとしたのであった。
裏路地に逃げた二人を必死に追いかける青葉。しかし青葉にとっては初めて通る迷路のような道、当然迷子になってしまう。
結局二人を捕まえることは出来ず青葉はため息をつく。
「最悪、逃がしちゃった……。もう疲れた──」
同時にずっと走って追いかけまわしてきたことによる疲れが青葉を襲い思わずぐったりと座り込む。
「あの、すいません。いいですか?」
捕まえられなかったことに悔しさを感じたため息をすると後ろから誰かが青葉に話しかけてきた。
「はい、フィッケルの妻のメルです。あなたがフィッケルを必死に追っている姿を見かけたので声をかけてみたんです」
痩躯で妙齢、黒髪の女性がそこにいた。
彼女はフィッケルの妻だと話す。青葉はメルに今までの事情を伝え始める。当然フィッケルが裏で何をしてきたかも包み隠さず──、すると。
「主人はとても家族や周りの人にとても優しい人でした。いつも私の事を気にかけていて、私には主人がそんな事をする人には思えないんです」
必死な口調でメルは青葉に自分の気持ちを伝える。
青葉は複雑な表情になる。彼女の仕事の中でもとてもやりにくいと思う状況だった。悪人と言っても周りには普通の人も多くその人たちに悪行を説明とてもやりにくい気持ちになった。
(でも、ちゃんと説明しなきゃ)
人として周囲に優しくする事と、政治家として国民に優しくすることは別物である。青葉の世界でも何百万人も虐殺をした残虐な独裁者が愛人や家族には優しくて思いやりのある人物だったという事実もある。
青葉はそういった事実を知っていた。だからメルには言いづらかった。しかし嘘をつくわけにもいかない。言いづらくてもやるしかない。
そして青葉は少しうつむいて再び彼の今までの行いや言動を話し始める
「申し訳ありませんがこれは事実です。私としてもそうった事をしている人物を野放しにするわけにはいきません」
必死に彼を捕まえるため協力してほしいと頼みこむ。青葉は複雑な気持ちだった。この人は悪い人なんかじゃない、しかし悪は捕らえなければならず心を鬼にする。
そして彼女ならフィッケルの信頼もあるため協力を取り付ければはるかに捕まえられる確率が高くなるためぜひ協力してほしかった。
しばしの間沈黙が流れる。そして迷いの末メルは結論を下す。
「わかりました。私、協力します」
メルが複雑な表情をしながらもコクリと首を縦に振る。
青葉が安心して息をなでおろす。そして微笑を浮かべ頭を下げる。
「協力ありがとうございます。私、あなたの協力を無駄にはしませんから」
直ちに青葉が作戦の説明をする。5分ほどで説明は終わり、青葉は一回この場を去っていった。
そして夜。フィッケルはレスを連れて家に帰っていた。
今後の事を二人で話そうと
すると前方から声が聞こえた。
「今度は逃がさないわ」
青い髪で帽子をかぶっている小柄な少女。さっき自分たちを追い詰めようとした少女青葉であった。
「もう逃げても無駄よ、実家を抑えているもの。それに役人でしょあんた。仕事先も割れているの。あきらめてつかまりなさい」
戦う構えをし青葉を睨みつけながら言い放つ。
「ただでは捕まらないな、この俺に勝てるかな……」
「ふ~~ん、私と戦うってことね」
その様子から戦う事を察した青葉、自信に満ちた口調で囁く。そして戦いが始まる。
フィッケルが一歩前に出る、そして右手に力を込めて汎用槍のカシラニコフを繰り出し切っ先を青葉に向ける。
まず仕掛けたのはフィッケルだった。
彼が一足とびで一気に間合いを詰める、鋭い速さで槍を振り下ろす。
しかし青葉は構えていた件を振り上げその攻撃を撥ね退ける。
目にも見えない素早い打ち込みだったが青葉は何とか対応する。
つばぜり合いになっても青葉は負けない強さはあった。
しかしはねのけたフィッケルの槍が空中で弧を描きすぐに反転して切り下ろしてくる。
目にも見えない素早い速さ。青葉は剣を構えてギリギリで防ぐがフィッケルはさらに反転させて
青葉はとっさに腕を引いてかわす。防戦一方の青葉。
パワー、速度ともに青葉はフィッケルに大きく劣っているわけではない。およそ互角といったところだ。
だがフィッケルの攻撃はまるで流れるように攻撃のつなぎが早い。たいして青葉は──。
(こいつ、私の事を知り尽くしている?)
(こいつ、私の事を知り尽くしている)
表情を引き締めながら青葉は相手の攻撃に対応する。
青葉の表情がこわばる。
青葉は普段はどちらかというと遠距離攻撃を得意とする冒険者であった。
接近戦も全くできないわけではないが戦いの能力自体はこの世界のトップクラスの冒険者と比べるとどうしてもランクが落ちてしまう。
フィッケルはすでにその情報を以前からつかんでいるので青葉に遠距離攻撃をさせないように常に間合いを詰めていた。
フィッケルの攻撃を何とかかわしていく青葉。
(リスクはある……、けどやってみるしかない!!)
青葉は押されながらも逆転のために攻勢に繰り出す。
スパッッッッッッッッ!!
「何っ?」
青葉は俊足で繰り出されたフィッケルの振り下ろしに身をさらして攻撃を受ける。
攻撃を受けた瞬間に身体を切り裂かれた激痛が走るがそれを無視して魔力を込めて剣を切り上げる。
しかし──。
(やるねぇ、だが甘いよ!!)
その必死の一撃もフィッケルは後方に身を翻し攻撃をかわしていく。
その速さに驚く青葉、しかし同時に見逃さなかった。
(これで遠距離攻撃ができる!!)
氷結なる光輝かせ、その無限の光で寄せ来る敵を打ち砕け!!
ブリザード・ガントレット ──連撃のアイス・フレーク──
マシンガンのように氷の球がフィッケルをめがけて突っ込んでいく。
フィッケルは慌てて攻撃をかわそうとする。しかし──。
「しまっ──、ぐわああああああああああああああああ」
ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!
しかし到底かわしきれる代物ではなく。フィッケルに青葉の攻撃が直撃する。
そしてフィッケルはその場に倒れこむ。
(よし、ここで勝負を決めるわ!!)
勝負を決めるチャンスだと青葉はさらに攻撃をたたき込もうとする。
さらなる強い術式をためようと自身の剣を振り上げ魔力を込める。
一方フィッケル、倒れた中彼女は心の中で叫ぶ。
こんな才能と育ちに恵まれただけの少女に何が分かる。私たちは違う。
激しい出世争い、魑魅魍魎な官僚社会で陰謀を尽くし、生き延びてきた。どんな汚い手を使っても、時には敵を蹴落とし、味方を裏切りっても──。
(強い者が勝つ、どんな手を使っても成し遂げた物が勝つ、それが世の常だ!!)
そしてフィッケルが詠唱を唱える。
憤激の闇よ、暗黒と共に天をも射抜く槍となれ
ダークネス・ブラスタースレイシング
(この世界はきれい事だけじゃ回っていけない。こんな何も知らない夢物語を語るだけの小娘に負けるわけにはいかない!!)
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
心の底から大叫ぶ。その想いを胸に目の前の小娘に勝つため。
そして魔力を込めて一気に突進していく。
その光景に驚く青葉。
(早い、間にあわない……)
今から詠唱なんかやってたら敵の攻撃に間に合わない。
慌てて遠距離攻撃の動作をキャンセル、迎撃のためこちらも間合いを詰める。
「ちりとなれええええええええええええええええええええ」
急接近したフィッケルが横一線に槍を薙ぎ払う、青葉は何とか後方に飛び対応するがフィッケルは手首を返しそのまま上に振り上げる。
さっきとは振りの速さが全く違う、流れるような連続攻撃、フィッケルの術式だった。
再び形勢は逆転、攻め込むフィッケルに防戦一方の青葉。
しかしこの程度で勝負が決まってしまう青葉ではない。
(やるわね、だったら──)
「こっちも全力で答えさせてもらうわ!!」
そう考えながら振り下ろした槍が青葉と激しくぶつかり合う
青葉はさらに魔力の出力を高める。
フィッケルは構わず攻撃を続ける。振り下ろし、薙ぎ払い、突き──。
これがフィッケルの術式、魔力によって自身の攻撃の速さを大幅にアップ、
相手が防ぎきれなくなるまでひたすら攻撃を続けるというものだった。
この攻撃はフィッケルが一方的に攻撃を連打して仕掛けるという特性上。体力の消耗も激しい。
しかしフィッケルはをそれをものともせず攻撃を加え続ける。
(次で決着をつける……!)
そう考えながらフィッケルが槍を振り下ろし再び青葉の剣と激しくぶつかり合う。
すると、青葉がその勢いに押される形でのけぞるような体制になる。
「よし、行ける!!」
それを見たフィッケルはそれを勝負を決める好機だと考えさらに踏み込む、そして自身の槍に魔力を込め──。
漆黒の一撃、覇王へ駆け上がる力となれ!!
ブラッククリムゾン・スレイシング
強力な一撃、フィッケルは勝利を確信、一方無防備になった青葉は。
(かかったわね──!)
にやりと笑みを浮かべ始める。
そしてフィッケルが攻撃のためその槍に力を込めて上に振り上げた瞬間。
「何??」
驚くフィッケル、一メートルほどであった二人の間合いに氷の障壁が突如として現れたのだった、まだ振り上げたばかりで威力のない攻撃はその障壁に阻まれ攻撃は通らない。
「無詠唱……、だと?」
詠唱なしでの術式、詠唱を使用する時に比べ約十倍の魔力と精神力を浪費してしまう。
しかし詠唱する間もなく発動できるためその分奇襲性は高い。
おまけにフィッケルは有利に戦いを進めていて前がかりになっていたためその分守備への意識が薄くなっていた。
(あんたがどういう想いで戦っているて、どういう環境で育ったかは何となくわかった。けど──)
「想いを込めて戦っているのは、私だって一緒なのよ!!」
青葉は心の中で叫ぶ。
(私だってただきれいごとを並べているわけじゃない。この世界に召喚されてから、ルトと一緒に行動してこの世界の現実を知ったわ。
それを見て心の底から思った。あの人たちを救いたいと──)
決してきれい事だけですむ世界なんかじゃない。ボロボロに傷ついて挫折しそうになったことも、悪への誘惑に惑わされそうになったこともあった。
それでも、青葉は寸前の所で耐えた。あの人たちをを救いたい。
そんな思いを胸に青葉は戦って来た。折れそうになりながらもボロボロになるまで特訓を続け無詠唱呪文を使えるようになり、それを使いこなすだけの体力、魔力も手に入れた。
精神力は誰にも負けるつもりはなかった。
そして今、このスキを見逃さなかった。勝負を決める絶好の好機──。
救援の氷結、新たな光を照らしだす嵐となれ
シューティングスター・ブリザード!!
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