第50話 下手をしたらクーデター
「冒険者、マグブライドだ、貴様たちを逮捕する」
一人は紺色の髪、肩までかかったショートヘアー。騎士のような恰好をしている少女。マグブライドだった。
その言葉に身体をぶるぶると動揺させる二人。
「逃げたところで無駄なことだ、ルチアーノのリストに載っていた人物はすべて逮捕する予定だ!! 大人しくお縄につけ!!」
その言葉にバオロはポケットからナイフを取り出してマグブライドに襲いかかろうとする。しかし──。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ」
マグブライドはそれをかわし二人を順番に地面に投げつける。そして倒れたところにあらかじめ持っておいた縄で二人の両腕と身体を拘束。
そして両腕を縛った二人を立たせて歩かせる。そのまま建物を出るとバオロとジャナーロのほかにも何人もの人達が冒険者によって拘束され馬車に連れられている姿を垣間見える。
そこにさらに別の女性冒険者がマグブライドに報告する。
「隊長!! 食糧庁のエンジェルリストの人物、全員捕まえました!!」
「御苦労、こっちも徐々に終わりつつある。あとは犯罪者たちを馬車で運んでいく作業だけだ、よろしく頼むよ」
「はい!!」
冒険者の何の迷いもなく了承し行動を再開。それを見て嘲笑した表情でジェナーロが話しかける。
「本当に全員捕まえる気なのか?」
「当然だ、どんな身分だろうと、どんな事情であろうと関係ない」
「だが一つ聞きたい、貴様らはただに一人の冒険者。当然逮捕する権限など無い。明らかな越権行為、下手をすればクーデターを起こしたともとられるぜ?」
ジェナーロに続きバオロも突っかかるようにマグブライドに口を開く。
「せめて国王に許可をとっていれば違ったんだがどうせとっていないのだろう?」
「許可はこれからとる、そうこの出来事を起こした本人は言っていた」
迷い一つない口調でマグブライドは言葉を返す。その本人とはもちろんあの人物であった──。
話しはさかのぼりルチアーノとの決戦が終わった夜。
雲ひとつない満月が見える。
幸一とルトは公園のベンチでたたずんでいた。
ルチアーノと幸一の戦いの後──。
空気が幸一の世界より綺麗なため満天の星空が夜空に浮かび上がっていてとてもきれいに感じる。
ルチアーノを兵士たちに渡してとりあえずひと段落、本来ならばあとは国王への報告などの事務的な作業を残すのみとなっていた。
その中でルトと幸一が広場の木のベンチで座っている。座りながら今後のことについて考える。
「この事件、どうやって解決すればいいんだろうね……」
ルトがため息交じりにうつむきながら囁く。
ルチアーノが最後に開き直るように言った言葉。ライトエンジェルリストに関わった者たち。確かに許されるわけではない。しかしそのリストの人物達をどうやって捕まえればいいのか。
なにせ捕まえる側が大スキャンダルを起こしているのだ、捕まえるには相当な苦労が必要だろう。
想像もしなかった事態に途方に暮れていると右から幸一が話しかけてくる。
「どうしても救いたいか?」
ルトの表情が変わる、当然だ。そのために彼は命をかけて戦っているのだから──、そのために自分は今ここにいるのだから。
何の迷いもなくルトは首を縦に振る。そして幸一はその姿に安心しその内容の説明に入る。
そうやって意味深なにやけ顔をしてルトの耳元でその作戦を話す。
話しが終わると苦笑いをしながらルトが問いかける。
それは言うまでもなく今幸一がルトに提案した作戦についてであった。
イレーナやマグブライトなど自分たちの知人を通して秘密裏に自分たちに協力的な冒険者たちを集め、官庁街に奇襲のように攻め入りエンジェルリストに入っている人物を一斉に検挙する。
そしてその後で国王にこの事件の真実を全て伝え事後的に彼らの逮捕の権限をもらうというものだった。
「ちょっとこの作戦について聞きたいんだけどいいかな?」
ルトは苦笑いの表情を浮かべながら言葉を返し始める。幸一はなにくわぬ顔で返事をする。
「何?」
「これって下手をしたらクーデターだよね……」
鋭い質問に幸一はにこっと笑顔を浮かべながら言葉を返す。
「安心しろ、もしかしなくてもクーデターだこれは。それを理解したうえで提案しているんだ」
当たり前と言えば当たり前である。そもそも冒険者に警察官僚や役人たちを逮捕する権限なんてないそんなことをすれば下手をしたら逆族扱いされかねない。
確かに法律上では兵士たちがいない時に突発的に明らかな犯罪行為があった場合の逮捕は認められることがある。
しかし今回はあらかじめリストを手に入れていて何の許可もなしに勝手に権限もなく逮捕しようとしている。
明らかな越権行為である。明らかなクーデター行為であり、国が違えば国家反逆罪で死刑を宣告されてもおかしくは無いだろう。
予想もしない幸一の提案にルトは茫然してしまう。確かに自分は恵まれない人たちや差別、迫害を受けてきた人達のために戦おうとしていた。
しかし一歩間違えば国中から犯罪者と指差されるような行為を行えるかというとそんなわけは無い、彼だって犯罪者になんてなりたくない。
簡単に首を縦に振ることができず腕を組んでうつむき言葉を失う。
悩んでいるルトの表情を見て隣にいる幸一はさらに夜空に視線を移し訴えるように語りかける。
「やっぱり迷っているようだな、それもお前らしいよ──」
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