第49話 答えなんて、決まっている
青葉が思わず叫ぶ。
舞い上がった粉塵が徐々に消えていき二人の姿が見えてくる。
そして──。
「何とか勝ったよ」
疲労しきっていながらもたっていた幸一の姿がそこにあった。
ルチアーノはボロボロになって倒れている。誰が見ても勝敗は明らかだった。
唖然とするマフィアの部下達。
「さあ、今度はあなたたちよ!!」
自信満々にそう言い放つ青葉、そしてみんなに見せびらかすように一枚の紙を見せる。
「これを見なさい、あなたたちはもう終わりよ!!」
その紙を見たマフィアたちの顔つきが次々に青ざめていく。そこにあったのは彼らマフィアが奴隷たちを違法に売買していたリストであった。
リストを見つけたのは青葉とルトでる。二人は幸一にバーの場所を明かした後マフィアたちの本拠地に秘密裏に潜入、危なげなくこのハプニングカフェの顧客リストを入手していたのであった。
「あなたはもうチェックメイトなの、おとなしくお縄につきなさい」
ぐったりと倒れたルチアーノに青葉が言い放ち。そしてリストを彼の目の前で見せびらかすように開ける。
「あったのか? リスト」
「うん、ちょっと探したけどね。でもこのリストはすごかったよ」
ルトが複雑そうな表情で幸一に話すとその理由を打ち明け始める。
「財閥の御曹司、政府や憲兵まで国家の中枢にいるような人達がわんさかいるわ。私たちの世界でこんなことがあったら大問題になっているレベルの重大事件よ」
その通りだった。このリストはライトエンジェルという少女たちの売買、さらにはマフィアとのつながりを示すものでこのリストに載っていること自体が違法行為の証でもあった。
それをただの上流層だけでなく本来こういったことを取り締まらなければならない兵士や軍人の人物までこのリストに入ってしまっていた。
予想を超えた事態に幸一はただ黙っていた。
するとボロボロになり、ぐったりと倒れながらルチアーノがそっと口を開く。
「だがどうするつもりだ?」
「この期に及んで悪あがきか?」
上から睨みつける幸一にルチアーノは邪悪な笑みを浮かべながら勝ち誇ったように言葉を返す。
「そういうことではない、あのライトエンジェルリスト、確かにあれが表沙汰になれば建国以来の大スキャンダルになる」
「だがそいつらを誰が捕まえるんだ? 本来逮捕権がある兵士たちはこちらの味方なのだぞ? 奴らだって人間だ、いくらお前が叫んだとしても確実にもみ消される。政府の人間は誰も得をしないのだからな!!」
幸一もこのリストを見た時それが懸念であった。この事件、誰がこのリストの人物たちを逮捕するのだろうか。
下手をすればこっちが返り討ちにあうことは予想できる。どうすればいいか考え幸一は言葉を失う。
「ちょっと、何悩んでいるのよ幸君!!」
突然背後から叫び声がする。青葉だった、彼女は悩んでいた幸一を勇気づけるように叱責を始める。
「勇者でしょ!! そんなの何とかしなさいよ。あんただけじゃない、私だって、イレーナ、サラ、ルト、みんないるわ。みんなであの子たちを守らないで誰が守るっていうのよ!!」
「じゃあなに? 商品にされたあの子たちは、何の罪もないあの子たちは今まで通り商品でいろっていうの? 答えなんて決まっているでしょ!!」
突然の青葉の叫びにに言葉を失う。
握りこぶしをしながらレンヌの姿を思い浮かべる。
自分が商品にされる悲しみ、それだけじゃない。震えていた──。権力を笠に何をされるかわからない恐怖。
ここで立ち上がらなかったら誰が彼女たちを救うのか、そしてレンヌのように震えながら生きている少女たちがたくさんいるということ。
だったら……。
「答えなんて、決まっているだろう──」
幸一はそう叫ぶとポケットから縄を取り出し倒れているルチアーノを縛りあげる。
「ルチアーノ、まずお前は逮捕する」
ルチアーノは拘束されながら嘲笑の顔を見せて言い返す。
「茨の道を選んだか……」
幸一がルチアーノを打ち破ってから一週間。その噂はルチアーノとつながりがある人物達に情報は伝わっていたが誰も特に気に留めていなかった。
何せ自分たちを捕まえる兵士達までこっちの味方である、何かあればもみ消す方向で言葉を交わしていた。
自分たち上流層は捕まるはずがないと彼らは思いこんでいる。
ここ、国の財政をつかさどる大蔵省、そこにボスのように何年も存在しているトップ、アンドレア・ジェナーロ。
黒メガネに筋肉質で長身の威圧感のある存在。
長年大蔵省の長官として国全体の税金や財政を管理する役割を担っている。
そこに一人の部下がドアを開けてやってくる。
ゴブリンの部下、バオロ・ベルディーニ。
「先日の娘、よかったですねぇ~~」
「そうだな」
バオロの邪険な笑みにジェナーロがニヤリとした表情で言葉を返す。二週間前も二人はルチアーノを通して奴隷を購入していた。その奴隷が思ったより使えるとのことで会話が弾む。
そしてバオロが気にかけた先日の話題をひそひそ声で話す。彼がつかまったことで自分たちに不利益がないか頭の片隅で気にかけていたのだった。
「しかしルチアーノの奴捕まったみたいですねぇ、俺達にも火の粉がかからないといいですねえ~~」
「気にすんなよ、念のために兵士たちの上層部にも 面倒なことは起こしたくはない。基本的にもみ消す方向で利害は一致している」
ジェナーロは安心しきった表情で答える。
「第一俺だって知っている、軍の上層部の奴らが何人女を囲い、どんな性癖か。どれだけの金を動かしたか……。互いに知っているから捕まえたりするはずがない」
その言葉に捕まるかもしれないという懸念はなかった。
彼は心の底から感じていた──。
別にいいではないか、あいつらは自分は何の役にも立たないクズ。
だが俺は違う、国を動かし雇用も生み、税金も払っている。その貢献に比べれば少女の一人や二人、取るに足らない存在。
むしろ俺のストレスを解消するという偉大な責務を負っておると喜ぶべきだ。本来俺達の足を引っ張るしか能のない無能どもが唯一役に立てる唯一の行いだと喜ぶべきだ。
葉巻を吸いながら彼がそんな思考をしていると誰かが走ってくるような音がし始める
そしてその足音はだんだん大きくなり足音がとまるとガチャリと部屋のドアが開く。
「冒険者、マグブライドだ、貴様たちを逮捕する」
一人は紺色の髪、肩までかかったショートヘアー。騎士のような恰好をしている少女。マグブライドだった。
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