第42話 自分が思っている事──、分かりました

「では、楽しいひと時をお楽しみください……」


 店員が一言声をかけると再びドアを開け元来た道を戻り始める。


 幸一とルトは初めてのバーに興味津津であたりを見回す。


 エントランスには所々にソファーがあり、ソファーにはオークの男性や狐の毛耳にエメラルドの髪の幼女、水を飲んでいるけばけばしい化粧をした妙齢の女性、スーツを着た若い男性など様々な人達が座っていた。


 初めての場所に興味ありげな表情で二人が辺りを見回していると青葉が小さな声でからかうように話しかける。


「なになにぃ~~、二人ともやっぱり毛耳の幼女ちゃんが気になっちゃってるの?」


「ち、違うよ、僕達こういうところ初めてだからどんなところかなって──」


 ルトが手を振って否定する。すると青葉は二人に急接近、耳元に顔を置き小声で作戦を説明する。


「冗談冗談、じゃあ作戦の方説明するわね──」


 さっきとは違う真剣な表情、説明は五分ほどで終了し行動に移る。

 まず行動に入ったのは幸一だった。



「そこのお嬢さん、よろしかったら私と一緒に飲みませんか?」


「わ、私ですか……。そ、そのいいんですか?」


 それはエメラルドの髪に狐の毛耳をした女の子だった、歳は外見から十歳ほどだろう……。

 言葉を噛みながらうつむいて言葉を返す幼女に幸一は手を差し伸べて言葉を返す。


「そんなの気にしませんよ、私はあなたと楽しみたい。それだけです」


「そ、それなら大丈夫です。私、レ、レンヌと申します。よろしくお願いいたします」




 二人は手をつないで歩き始め奥の扉を開ける、そこには別の店員がいてレンヌが二人で楽しみたいと告げる。店員はポケットから鍵を取り出して説明を始める。


「これがルームキーでございます。部屋は階段を上がって右の奥でございます。飲み物は部屋の中にあるので自由にお取りください。終了後利用料と一緒に飲み物の代金も請求いたしますのでそこはご理解お願いいたします」


 店員の説明が終わると二人は手をつないだまま部屋へ向かっていった。








 一方青葉とルトも行動を始めた。

 エントランスの席にいたオークの男性を誘い込み承諾をもらおうとする。


「そこのオークさ~~ん、私たちと一緒に楽しみませんか~~」


 オークはすぐにOKサインを出し、エントランスを出て指示された穂ダリの部屋に入った。

 薄暗くランプで照らされている小さい部屋でオーク二人とジュースを飲みながら話をしていく。


「さあオークさん、今日は一杯飲んで話しましょうね~~」


 にっこりとした笑顔で青葉がオークのグラスにワインを注ぐ。ルトは作り笑いを浮かべながら隣で会話をする。


 どこか複雑な表情で──。


 オークは自分の自慢話を語りながら次々に酒を飲んでいく。

 二人はオークの話に相槌を打ちながら会話を進めていき、三十分ほどで会話は終了。


(んん~~、でもこの人ただ楽しみたいってだけで秘密とかは知ってそうにないからね)


 青葉が少しがっかりした表情で次の客を探し始める。




 一方幸一はエントランスで一人の少女に出会い指名した。


 指名したのは小柄でふわふわしたロングヘアーの少女、恐らくはライトエンジェルの女の子である。


 その少女を指名すると二人は再び別の部屋に向かっていく。

 エメラルドの薄暗い照明に照らされた部屋で二人がジュースを飲みながら会話をしていた。



「お客さん、あんまり騒がないんですね」


「ま、まあね……。うるさく騒ぐのは好きじゃないから」



「それとも、やっぱりこういうことが好きなんですか?」


 うつむきながらレンヌは幸一の背後に密着する。

 彼女の小ぶりな胸が幸一の背中に当たる。


 ぞくぞくと背筋を震わせながら顔を赤くする幸一。


「べ、別にそういうことが目的じゃないから!!」


 慌てて手を振って否定する幸一、その言葉にレンヌは少しほっとする。

 ほっとしたところで幸一はレンヌに優しく話しかける。


「ところで、ちょっと聞かせてくれないかな──? なんであなたがここにいるのか……。あなた、ライトエンジェルだよね──」


 その言葉にレンヌの表情が豹変する。そして少しずつ口を開き始める。


「わたしは、スラム街で貧しい家庭で生まれました」


 レンヌが幼少のころは地方に両親と一緒に住んでいた。しかしそこは内戦が多発していて運悪く両親は戦いに巻き込まれて無くなってしまった。


 レンヌは周囲から王都まで行けば何かあると聞き自分の足でこの王都までやってきた。そして行くあてもなくスラム街をさまようこととなる。


 しかしこの年齢でまともに働ける所などあるわけがなかった。

 どこにも行くあてがない自分を見つけてくれたのがここの店主だった。


「はい、最初は私は喜びました。これで貧しい家族を救えると」


 しかしその考えは甘い幻想だという事をすぐに知ることになる──。


 その後知ったのは彼がマフィアだった事であった。

 彼に仲介料を渡すことでこのハプニングカフェでの活動を許可、そこで働く事となる。


 媚薬の効力を持つ香水を渡すことで人気はうなぎ上りになりそれなりに収入も得た。もちろんいかがわしいことはすべて断っているが客からのリクエストは絶えない。


 幸一もその髪から漂う甘い香りが幸一の鼻をくすぐる。しかし今はそんな香りに浸っている気分にはなれなかった。


「正直後悔しています。私、お金を得るために大切な物を失った気がします。どうすればいいかわからないんです」


 中には違法な薬物を進めてくる客もいて何とか断っている状態であるという。


 うつむいて暗い表情をしながらその実情を語るレンヌ。

 そして幸一はレンヌの手をぎゅっと握る、そして彼女の瞳をじっと見て語りかける。


「俺からすればあなたの中で答えは出ているように見えるよ。自分が本当に思っている事、それをやってごらん」


 頭を軽くなでなでする、レンヌは安心したような表情をして考えこむ。

 五分ほどするとレンヌは顔を上げて答えを出す。


「自分が思っている事──、分かりました。私もうこんなことしたくありません罪悪感に囲まれながら生きていくなんて嫌です!!」


 心の底から本音を出したレンヌに幸一は応援の言葉を投げかける。絶対力になる、と──。

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