第35話 踏み越えし力、バーニング・ブレイブ・ネレイデス

(次にやつによけられない術式を使われたら、俺は強い技を出すことができなくなり俺の勝ちは困難になる)


 攻撃範囲が広い術式だとそこまで広くない大部屋の中ではよけることが困難になり相打ち狙いしかできなくなってしまう。


 しかしそうすれば幸一はラミスに強い遠距離攻撃ができなくなってしまう。


 そうなればラミスは幸一に接近することをやめ距離をとって遠距離術式を主体に戦うことになると予測できる。そしてそうなれば幸一の勝利はとても困難になってしまうであろう。


「何でもいい、俺は奴を倒したい。俺に力が欲しい。弱くてもかまわない、奴の力を踏み越えてその先の悪を打ち破る力が──」


 彼は心から強く願う、奴に勝ちたい。そう叫んだ時。


(え──?)


 幸一の脳裏に新たな言葉が浮かび上がる。そして瞬時にそれが新しい術式だと直感で理解する。


「じゃあこれでトドメだ、終わりだ!! 勇者様よォ!!」


 そう叫びながらナイトメア・バロールを振り上げる、そして……


 わが波動を貫く力、我を覇者とする鳴動の力となり、解き放て!!スクライド・エクスプローション



「まずい、あれはよけられるような代物ではないぞ!!」


 さっきまでラミスと戦っていたマグブライドが思わず叫ぶ。

 広い範囲に轟かせるタイプの攻撃でとてもよけられる代物ではなかった。


 ラミスの放った攻撃が拡散しこの遺跡の部屋一帯を包む。

 幸一は最後の望みをかけてたった今習得した術式を発動する。


 願いをとどかせし力、逆縁を乗り越え、踏み越えし力現出せよ

 バーニング・ブレイブ・ネレイデス


 青い炎が幸一のエクスカリバーから出現しこの場を包み込むような大爆発が起こる。そしてラミスの放った術式と衝突する。


 しかし幸一の身体こそダメージを受けて膝を突くものの攻撃自体は全く弱体化せずサラとマグブライドがいる場所を除くすべての場所に拡散していた。


 恐らく威力こそスピリッド・シェイブ・ハルバードには及ばないが、敵の攻撃の弱体化や妨害といった術式の効果を受けないというものだった。


 何より自身の意思で力のコントロールがしやすく魔力の浪費を少なくできるのがこの術式の売りであった。


「バカな!!」


 幸一の放った攻撃はラミスの妨害系の術式の力を受けずにそのまま彼女に直撃、爆発しラミスの体は天高く吹き飛ぶ。


(なに? 俺様の妨害が効かないだと?)


 そして幸一はここで勝負を決めると決め、エクスカリバーを天に上げる、そして──。



 涅槃なる力、今世界を轟かせる光となり降臨せよ!!スピリッド・シェイブ・ハルバード


 ここが勝負の決めどころと考え最後の力を振り絞って

 渾身の術式がラミスに直撃。


 彼女の体が天高く吹き飛び宙を舞う



 彼女の意識は消失、魔力も尽きたようで柱に縛り付けられていたサラとマグブライドからラミスの魔力が消失していた。


 ラミスの意識が無いのを確認すると幸一が縄取り出し彼女を拘束する、それが終わるとサラとマグブライドに接近し剣で縄を切り落とし二人の拘束を解く。


 二人は自由になるや否や幸一に称賛の言葉をかける。


「幸君、すごいです」


「ああ、さすが勇者だ、私よりはるかに強いよ」


 緊張が切れたせいか 足がふらっとして 地面に崩れ落ちるようにしてぺたりと座り込む。



「買いかぶりすぎだって」


 幸一が苦笑いを浮かべながら言葉を返す。

 実際そうだった、決して楽勝ではなかった。苦戦の末に新たな




「運命を呼び寄せることだって実力の一つだよ」


「そうです、新たな力というのはよほど心から強い想いが無い限りああいった場面では生まれることはありません。自信を持ってください」




 そこに今まで外でウィザードと戦ってきたイレーナとルーデルが返ってきた、イレーナの背中には魔力を消耗しつくしたシスカがいた。


「勝ったよ、幸君」


「そうか、よかったな」


 ボロボロになりながらもにっこりとした笑顔で二人に報告。そしてイレーナも隣にちょこんと座りこむ。



 幸一が右手をイレーナに見せるように上げる、イレーナは自分も魔力も底を尽きそうなことを悟り二人が壁際に座りながら手を握る。


 さらに幸一はルーデルに話しかける。


「ルーデル、話したいことがあるんだが一緒に行動しないか?」


 幸一は彼の魔王軍への敵対心、それをこれからの戦いに活かして一緒に魔王軍と戦えないかという意味で尋ねてみた。

 しかしルーデルは無表情のままそっぽを抜いて言葉を返す。


「残念だがそれは出来ん、今は魔王軍のことについて調べたいことがまだある。今は一人にしておいてくれ」



「だが、何処かで協力をお願いするかもしれん」


 当然自分一人で対処できるものではない。そうなったときには力を貸してもらうことがあるかもしれん


「ああわかった、目的が合えば協力はする」


 二人は素直になれないのかどこか気まずそうに会釈をする。


 ルーデル、最初は嫌な奴だと幸一は考えていた。話しずらそうでこいつとはいずれ喧嘩になってもおかしくないと──。しかしいざ協力すると考えは変わった。


 本当は仲間想いで厳しさの中に優しさがある人物であると。いつか彼と協力して戦いたい、今は出来ないかもしれないしわだかまりがあるかもしれない。


 しかし強力な魔王軍の前にいずれ追い詰められ力を合わせる時が来るかもしれない。同じ目的も共有する同士として共に戦いたい。


 ルーデルの背中を見ながら幸一の頭の中にそんな考えが芽生えていた──。

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