第32話 不死身の肉体
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
通常の人間なら恐怖で震えあがってしまいそうな声で咆哮を上げる。すると「ウィザード」は大きく口を開き始め口の中が灰色に光り始めた。
三人はそこに強大な魔力を感じ始める。
「まずい……!!」
イレーナが本能的に叫ぶ。
「二人とも、よけて!!」
イレーナが叫ぶよりも早く二人の体が動く。
直後にウィザードから放たれた光が周囲の森林を吹き飛ばす。
三人は何とか身を投げてかわす、そしてウィザードの攻撃が直撃したところを見る。
そこで森が跡形もなく吹き飛んでおり、荒野と化していた。まともに食らえば魔力をすべて防御に術式に回したとしても無事では済まされないだろう。
ウィザードはゆっくりと街へ向け、道を進んでいく。
シスカはウィザードと距離を取らせるため後方に移動させる。その姿を見送ったイレーナが近くの木に登って状況を確認。
ウィザードは森などの障害物を気に留めず、そのまま直進。通った後はまっすぐな道が出来ていた。
ただしゆっくりノロノロと進んでいるような感じだったので、食い止める時間は十二分にある状態だ。
二人はウィザードと一定に間隔を保ちながら、あとを追っている状態にある。しかし一端攻撃を加えればウィザードは二人を敵と認識してしまい反撃されることになる。悪魔のような咆哮、圧倒的な力が二人に襲い掛かる。
そして巨大な敵と接近戦となると空中での戦いも想定される。空中では、支えになる物が無いため必然的に隙だらけになる。下手をすればまともにウィザードの攻撃を受けてしまうため、慎重にならざるを得ない。
しかし、どこかで攻撃的に行かなくてはならない──。
二人は呼吸を整える。
イレーナが右から、ルーデルが左から一気にウィザードに接近。
それに気づいたウィザードが振り向いて足を止める。
天地を揺るがすような咆哮と共にイレーナに向って光線を放つ
ルーデルが肩の先からウィザードの右腕をバッサリと両断、断末魔の様な甲高い悲鳴がこの辺り一帯に響く。
「すごい!!」
イレーナか思わず叫ぶ、ウィザードが彼女の着地のスキを狙おうと光線で攻撃をかける。しかしイレーナはそれを計算に入れていたようですぐに後方に大きく身をひるがえして難なくその攻撃をかわしきる。しかし──。
「うそ……!!」
「何──?」
二人が視線をウィザードに戻すと想定外のことが起きている。
今確かにルーデルが切り落としたはずの右腕があったところに煙が立ち始めていた、そして次第にもとの腕の形に再生していったのであった。
「不死身の肉体というわけか、以前聞いたことがある」
「えっ!! しっているの?」
イレーナが驚いて問い返す、ルーデルはその言葉に声のトーンを低くして語り始めた。
「ああ、俺・の・亡・き・戦・友・が・こういうタイプの魔獣と戦ったことがあると口にしていた。だからどうすればこいつを葬れるかもな──」
その言葉を聞いたとたんイレーナが驚いた表情をする、そして申し訳なさそうな表情になり謝り始めた。
「ごめんなさい私、トラウマを掘り返すようなことをしてしまって……」
複雑な表情をして頭を下げるイレーナ。しかしルーデルはそんな言葉を気にも留めず、言葉を返す。
「気にしてなどいない……。そんな物は関係ない、どんなに強い気持ちがあろうとその想いを伝えられるのは生き残った者のみだ。お前もこいつを葬りたいのなら、もし俺に対し申し訳ないという感情があるなら──、頭を下げるのではなく、戦え」
そしてルーデルは感情を爆発させるのを抑えながら、この魔獣の事を語っていた戦友のことを思い出す。
そういえばこの型の大型魔獣は以前俺の亡き戦友が戦ったことがあった
その時は多大な犠牲を出しながら一度に大型魔獣の回復力を超えるダメージを与え再生させる時間を与えないまま倒したというものだった。
時間にしてわずか十秒ほど、その間に相手の肉体を再生が終わる前に全身をくまなく破壊しなければならないという非常に厄介な敵であった。
少なくても、二人は戦術を変更せざるを得なくなり話しあう。
「無理に胴体を狙うと確実に両腕で防がれる、少なくても短時間での消滅は不可能に近い──」
ルーデルは冷静に分析する、呼吸を合わせて同時に切り込み目にもとまらに速さで一気に片付けるしかないだろう。
そして二人の話が終わる、二人が自分の兵器を構えると再び木に上りもう一度ウィザードとの間合いを取る。
一歩間違えれば二人はあの攻撃や光線に吹き飛ばされ塵となる。
そして二人が背後をじっと見つめる、少しずつウィザードとの間合いを詰めた。
今度はイレーナが飛び上がって突っ込んでいく。
ウィザードがそれに気づいてイレーナに襲いかかる。そのタイミングでルーデルが今度は逆側に回り込んで攻撃を仕掛ける。
ルーデルの強力な一撃が炸裂する、苦しみ悶えながら今度はルーデルの方を向いた。そしてルーデルに攻撃をしようと口の中が光り出し、ルーデルをとらえようとした次の瞬間──。
「ギイイイイイイイイイイァァァァァァァァァァァァァァ」
突然右半分の胴体が爆発しのたうちまわり始める。
「シスカ、ありがとう!!」
「役に立ててよかったです」
シスカの攻撃だった。彼女が遠距離攻撃を放ち、ウィザードの胴体のほぼ半分が吹き飛んだ。
「行くぞ!!」
「うん」
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