第31話 ルーデルの覚悟

一方イレーナと幸一、シスカ、ルーデル。

 襲来してきた魔獣たちとの戦闘がすでに始まっていた。


 久遠なる世界の彼方から、混沌ある世界に閃光を貫き降臨せよ!!

 グローリアス・ソウル・エクスカリバー


 集いし願い、新たなる希望の力集い、無限の力解き放て!!

 アストログラフ・ソウル・スターライト・ランス


 二人が詠唱をはじめ、兵器を召喚。

 黒い身体をした男性の騎士の形をしているが、首から上の部分が存在しない。魔王軍の中で最も弱い兵士「デュラハン」、彼らを中心に魔王軍の兵士たちがいる。


 一般の兵士たちと共にデュラハンと戦っていた。前回同様、次々に畑から兵士が取れるかのごとく何百ものデュラハンが出現していたが幸一やイレーナ達を先頭に奮戦。

 次々に撃破していく。


 そうしてデュラハン達の八割ほどを撃破した時、イレーナと共に戦っていた幸一が、彼女の手を握り始める。


「ちょっと、こんな時に何すんの?」


 イレーナが顔を赤くして囁く、幸一も顔をほんのりと赤らめ言葉を返す。


「魔力を補充させてくれ、俺はマグブライドの所へ戻る」


「つまりラミスの相手をするってこと?」


 作戦ではラミスはマグブライドが相手をすることになっていた。本人が「ラミスのことを見抜けなかった自分が悪い」、だから私が相手をすると自分で言い出していたからだ。



「ああ、嫌な予感がする。悪いけど大型魔獣は三人で戦ってくれないか?」


「わかった、でも私が見る限り彼女に不安要素は無い気がするんだけど……」



 イレーナもマグブライドのことは良く知っていた。

 確かにマグブライドがああ見えて情に熱い人間。その事を幸一が気にかけているのではないかと思ったが……。


「でも彼女だってそのくらいの分別は着くはず、決して情に流される人じゃないはず」



 だがマグブライドは正義感があり、自分にはとても厳しく情に流されるような甘い考えではないことも知っていた。

 それにイレーナに負けないくらいの強さを持っている、そう簡単にやられるとは思えなかった。


「嫌な予感がする、俺の勘がな……。問題なかったらすぐここに戻ってくるからいいかな?」


 それでも幸一は嫌な予感が捨てきれず行かせてほしいとせがむ。イレーナはその真剣な声を聞いて決断。


「わかった、幸君。行って来なよ、絶対帰って来てよ!!」


 イレーナが顔を赤くしながらやれやれといった表情で叫ぶ。

 幸一は作り笑いをしながらこう叫び再び、遺跡の内部へ。


「ありがとうな、イレーナ!!」



「もう……、馬鹿……」


 後姿を見て、小さな声でイレーナはつぶやきながら再び戦いに身を投じた。



 遺跡の中を走る幸一。


(悪い予感、的中していないといいが……)


 確かにマグブライドは表面上は冷静でラミスと戦うと宣言している。

 しかし幸一からは心なしかどこか動揺しているようにも見えた。


 そんな懸念をしながら走ること二十分ほど、幸一はラミスがいた場所に到着。

 そこには一人の少女の姿があった。


「ラミス──」













 一方イレーナとルーデル、シスカ

 彼らはデュラハン達をすべて倒しきった後、共に戦ってきた兵士たちをこの場から撤退させた。

 理由は簡単である、目の前に立ちはだかる強大な敵に彼らは何もできないからだ。


 付近にある沼の湖畔には、夕焼けの姿がゆらゆらと揺れていた。

 視線を北に向けると中心街の姿。


「あれが魔獣の姿ですね──」


 シスカが指をさす先には真っ黒い色をした二百メートルほどがある。

 大型魔獣「ウィザード」であった。


 本能的に人のいる場所を察せるという魔獣の性質から、人が多い北の王都を目指して進んでいた。

 ウィザードが通過した森はすでに口から吐き出す炎によって焼け野原となっていた。



 威圧感を十二分に輝かせる大型魔獣の存在。


 そしてもう一人魔獣にも負けないくらいの威圧感と殺気を帯びている人物が一名。


(忌々しい怪物め──、許しはせん!!)


 いつも獰猛な目つきをしているルーデル、しかし今の彼の表情はいつも以上に怒りに満ちている。 


「貴様らの様な口先だけの決意とは違う、俺は俺のすべてを奪っていった魔王の奴らを決して許さない。刺し違える覚悟でここにいる」


(口だけじゃない、本気だこの人──)


 イレーナがルーデルの目つきを見る。殺気を全開にした目つき。今の言葉が嘘ではないということがイレーナにも理解できた。


 ルーデルからすれば彼女たちなど眼中にすらない。


「当然だ、家族、戦友、故郷俺からすべてを奪っていった奴らを俺は視界にとらえているのだからな……」


 当時まだ魔法が生まれたばかりでまともな対抗組織もなかった。

 一人、また一人と強大な敵の前に塵となって散って行った仲間達。


 その姿を見て貴様らを殲滅するという信念だけがルーデルの心を支えた。


 反旗の剣を翻し、貴様らを一匹残らず殲滅する、そんな心の底からの決意を胸にルーデルは今この地にいる。


 イレーナだって覚悟が無いわけじゃない。彼女にだって闘う理由がある、両親に自分を認めてもらいたいという想い、そして国民たちを王女様として守り抜きたいという想いで戦っている。




 しかし自分たちはルーデルに比べれば所詮自分の目的や夢のために戦っている。決して死闘になることはあるが命を投げ出そうとはしない。



 彼は違った。故郷も、家族も、仲間も全てを失い怒りや悲しみが精神のリミットを越えている、自分がどうなろうと構わない。たとえ死ぬことになろうとも魔王軍たちを殺せばそれで本望であると心の中にすでに刻んでいた。


 不気味に紫に輝く瞳、ずらりと口の中に並ぶ牙。一口で建物を丸のみにして噛み砕いてしまいそうな大きさ。


 とりあえずルーデルとイレーナが前線で戦いシスカが後方から遠距離術式でサポートするという戦陣となった。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 通常の人間なら恐怖で震えあがってしまいそうな声で咆哮を上げる。すると「ウィザード」は大きく口を開き始め口の中が灰色に光り始める。

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