第17話 対決の結果

「いや、恐らくこちらの情報が駄々漏れなんだ。偶然なんて考えられない」


 幸一が言葉を返す。こんな時に都合よく偶然が起こるはずがない。そこまでピンポイントで弱点を突かれているというなら、確実に敵に情報が流失していると──。


「とにかくその話は後にした方がいいです、まずは今の状況を打開しないと」


 サラのその言葉で、話の話題が変わる。


 そして今、強力な遠距離攻撃が使える冒険者がいないか探しているところだった。


「炎系の魔術を使える冒険者? そうだここにいるじゃないですか!!」


 サラがそう叫び幸一を指差す。


「え? 確かにあるけど……」


 それは以前イレーナと特訓をしていた時の事だった。その時、強力な遠距離術式を使えるようになっていた。


「幸一さん、あなたにやってほしい事があります」




「わかったよ、俺がやるしかないんだろ」


 幸一はこのことを承認、すぐに兵士に誘導されて道を進んでいく。


 幸一達が歩いて十分ほど、すでに廃墟になった通りを進んでいく。


(威圧感が違う)


 逃げるように撤退する兵士たち。


 怪我がひどく、救護班の兵士に手当てを受けている冒険者。



 そして──


 気配だけで敵がそばにいるのがわかる。

 ここにいる全ての者が感じていた。

 近づくだけでわかる全てを抹殺する様な、押しつぶすような威圧感。全てを飲み込むような強大な力。


 上を見上げるとそこには、十メートルはある巨大な獣。


 鋭いかぎ爪、威圧感を強く持った眼。

 その魔獣の正体を知っているサラが答える。


「あの魔獣の名前はモリフェン、大型魔獣の一種です」


 サラが説明を始める。


 以前、この隣の都市を襲撃した時は甚大な被害をだし街の半分を更地にしてしまったという。


 ビィィィィィィィィギェェェェェェェェェェェェェェェ


 嫌悪感を具現化したような鳴き声、さっきまでの雑兵とは全く違う強い威圧感。

 目の前に存在する怪物が、この襲来の中心の存在だという事が誰の目にも明らかだった。



 サラが説明を続ける。


 モリフェンは通常の冒険者千人に匹敵するほどの強力な敵である事。

 習性として攻撃を仕掛けてくると反撃。さらに下手に逃げようとすると追ってくる。


 爪先から光線を出し、街中を破壊していくことが特徴であった。






 その方向。

 さっきとは別の精鋭の炎系の魔術を使う冒険者から、次々に悲鳴が上がる。



 爪の先端から繰り出される紫色の光線が、硬い石畳の道を抉り起こし、周囲の建物を手当たり次第に破壊していく。

 それはまるで地獄を想わせる光景。


 冒険者たちはその強力な攻撃に、顔色を真っ青にして逃げ回る。

 接近して刺し違える覚悟で突撃をしようとする者もいたが、凶悪な爪に捕らえられ口の中に飲み込まれる前に、武器や防具を捨てて命からがら逃げ出していた。


 街銃から逃げまどう冒険者や逃げ惑う市民達の悲鳴が聞こえる。

 余力のあった術者たちが、何とか立ち向かっていく。


「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ、化け物ォォォ」


 振りかざした剣や槍をモリフェンがかぎ爪でキャッチ。そのまま難なく握りつぶされる。


「何だこれ!!つぇぇっ、何だよ!!」


 たちまち傭兵たちは戦意を喪失。心が恐怖に侵されていき、逃亡を始める。たちまち戦線は崩壊していく。

 遠距離攻撃には障壁で迎撃され届かない。その圧倒的な力の差に冒険者は我先にと逃げて行った。


 その逃げる流れとは正反対にサラ、イレーナ、幸一の三人がモリフェンのもとへ向かっていく。周りの建物や壁はすでに攻撃によって廃墟になっていた。


「本当に廃墟になってる」


 イレーナが思わず囁く。魔獣が襲来をしてから一時間ほどしかたっていないはず。しかしこの辺りはまるで廃墟だったかのようになっていた。

 五分ほどでその場所に到着する。



「近くで見ると、やっぱ怖いな」


 そう囁きながらもう一度正面切って幸一は、モリフェンをじっと見る。


 太いかぎ爪が何本も生えた化けもの。


 モリフェンはそのかぎ爪で堅い大地を掘り起こす。周囲の建造物や城壁、街並みを手当たり次第に破壊しつくして、その勢いを増していった。

 逃げまどう傭兵たちの悲鳴が街銃にこだましている。十二分にすごい威圧感──。


 先日イレーナとの特訓の最中に突然脳裏にある言葉がよぎる。

 そしてそれをサラに聞いてみるとサラは答えた。


「新しい術式ですよ!! やったじゃないですか!!」


「これが新しい術式?」


「そうです、新しい術式が使えるときって私もイレーナもそうですけど、強くなりたい、勝ちたいって本当に強い気持ちがあった時に生まれるんです!!」


 確かにさっきはイレーナに手の内を読まれて追い詰められ、心の底から何とかしたいという思いがあった。そしたら突然頭に謎の言葉が浮かび上がってきたのだ。


 その時は言葉の意味が分からなかったのでそのまま戦っていたが、その意味がようやく理解でき……。


「わかった、この攻撃。相手にぶち込めばいいんだろ!!」


 覚悟を決めたような声でイレーナとサラに叫ぶと、幸一は自身の剣をモリフェンに向ける。


 あの街を破壊している敵を絶対に倒す!!


 眼をつぶりながらそんな願いを心の中で叫ぶ。そして──。





 涅槃なる力、今世界を轟かせる光となり降臨せよ!!スピリッド・シェイブ・ハルバード




 剣先から、大量の青白い炎がまるで巨大な隕石の塊になったかのようになり、それがモリフェンに直撃。たちまち直撃した炎がその忌々しい魔獣を包み炎上し始める。




 ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィヴァァァァァァァァァァァァァァァァァ



 悶え苦しみながら断末魔の様な叫び声を上げ始め、絶叫がこの場すべてに轟く。

 そして蒸発するかのように下半身から少しずつ身体が消滅していった。





「やったみたい、だな……」


 魔力を使い尽くした幸一が、フラッと倒れそうになるのをサラとイレーナが支える。


「幸一……君、すごいね。 その、倒しちゃうなんて」


 ほほを赤らめながらイレーナは話しかける。


「まあな、何とか勝ったな──」


 実戦で使うには力を弱めてぶっ倒れないようにするなどまだ未熟な部分はある。しかしとりあえず目の前の脅威が去っていったことに幸一は笑みを浮かべる。


 モリフェンが消滅すると、紫色に染まっていた空が一斉に元の青空へ戻り始める。それによって国民たちも魔獣の脅威がなくなったことを理解し安堵の表情を浮かべ始める。




「幸君、肩貸すね」


 サラがそう話しかけて隣に身体を移動させる。すると反対側にイレーナが移動する。

 幸一はサラとイレーナの肩を借りて幸一は立ち上がる。


「幸君、やっぱり凄いね、この世界に来てすぐに活躍できるなんて──」


 サラのうらやましそうな声、その声を聞くと幸一がほんの少し照れながら言葉を返す。


「あ、ありがとう……」


 そして勝利の余韻に浸りながら、ゆっくりとその場所を後にしていった。

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