第2話 やるのか? やらないのか? 答えよ!!
「それだけで、破滅の未来は防げるのじゃ……」
「わかった……、協力するよ」
瑠奈を助けられるとの言葉が決定打となり、幸一はゆっくりと首を縦に振る。
するとユダははっと笑みを受かべ、話題を変え始める。
「では、これから採用試験とするか」
「え?」
幸一はその言葉に思わずドキッとする。するとユダはまたにやりと笑みを浮かべ初めて話し始める。
「当然じゃ、世界を救う勇者があんな紙切れだけで決まるわけがなかろう。採用試験があるにきまっとるわ」
幸一は想像する。世界を救うというのだからそれ相応の試練があるのだと、そう考え無意識に握りこぶしを締めて身構えた。
合格か、お祈りメールか、幸一の運命が決まるユダからの試練。その説明が始まる。
「そんな身構えるな、技術的なことは一切問わない。わしが見たいのは素質じゃ。お主に勇者としての素質があるかを試す。なに簡単なことじゃ。勇者とは1人別にもう1人呼んでほしい奴がいるんじゃ。
まずはお前を東京の渋谷に送る、ターゲットはそこにいるからのう……」
もちろん幸一はその場所を知っている、さらにユダが話を続ける。
「柚子という娘がおる、17歳の学生の少女じゃ。
彼女は良い子なんだが欠点があってな? 周りが見えなくなってしまうことがあるんじゃ。
そんな中で学校の帰りに、スマートフォンを使って友達とメールをしていた。
そして横断歩道の信号が赤になってしまい、柚子は立ち止まり友達に送るメールを入力し始めた」
「その子の隣にお前はまず立っていろ」
「そしてお前は交差点で赤信号の時柚子の隣に立って、ある動作をするだけでいい」
「それは何だ?」
幸一が聞き返すとするとユダの顔つきが一変する。
「赤信号の時に一歩道路に踏み出すだけじゃ、それを見た娘はどうなると思う?」
「え──、どうなるってまさかお前!!」
その言葉と堂々とした態度に幸一は驚愕しぞっとする。
スマフォを操作しているのだから信号は見ていない、そのまま横目で前に進む人をみる。
思わず青信号になったと錯覚し急いでいるあまり、そのまま横断歩道を渡ってしまう、左右もよく見ずに交通量の多い赤信号を──。
その意味を幸一は察する、すると彼はユダをにらみ始める。
幸一の態度を気にも留めずにユダは彼を指差し話を続ける。
「それだけで柚子という娘は死ぬ。悪いのはその娘。信号もよく見ずに勝手に青だと勘違いして進んだのじゃから。どうだそれだけでお前は勇者じゃ、瑠奈も救えるぞい」
幸一はその言葉の衝撃に驚き言葉を失う。下手をしたら人殺しになるかもしれない。そんな行為をこうもたやすく行うように指示をするこの天使が彼には悪魔のようにも見えてきていた。
その表情を見てユダは彼の今の感情を理解する。そして言葉を返し始める。
「人殺し? そのくらいできんと勇者になんかなれんぞ」
「きれい事だけで勇者になれると思ったら大間違いじゃ!! 泥をかぶり、時には汚れ役になってもどんなことがあっても勝利をつかむ、それが勇者じゃ!! 人一人、ましてやわしの世界に行くわけだから死ぬわけではない」
無罪確定の殺人依頼、当然幸一は首をカンタンに縦になんか振れない。
「やはり悩んでおるのう……、これだから人間は愚かなのじゃ」
「遅い奴はそれだけで愚か者、これは貴様の世界でもわしの世界でも一緒じゃ。
あの宝くじは一等3億円、2等1.5億円、3等7500万と当選額になっているはずじゃ、だから判断が10秒遅くなるごとに金を半分ずつ減らしていく、そうしてやる。では行くぞ!!」
悪魔のような笑みを浮かべ、ユダは自分の指をはじく。するとそこにあった金の半分が蒸発したように消滅する。
「──え?」
額に汗を浮かべながら幸一は焦り始める。
「さあ決めるのじゃ、どうするんじゃ? どんどん金は減っていくぞ?」
幸一は固まってしまう、時間がたてばたつほど得られる金は失われていく。しかしだからといって無実の人間を殺すなんてとてもできない、二つのせめぎ合いが彼の心の中を占める。
そして幸一はとっさにユダの机にある金をぐっと掴む。そして彼女の瞳をにらみ始める──。
「何かお前を見ているとどんどんお前のペースで話しが進みそうだ……」
ユダはそんなことはどうでもいいといわんばかりに、表情一つ変えずに言葉を返す。
「で、やるのか? やらないのか? 答えよ!!」
「ふざけるな貴様、罪になるとかならないとか、そういう問題じゃねだろ!! 命を天秤にかけるという行為が問題だって言っているんだ、断る──」
強い敵意と憎悪が幸一の心を支配する、目は逆三角形につり上がり眉間にしわが寄る。
そして激高して叫ぶ、人の命をおもちゃのように、実験道具のように扱うユダがどうしても許せなかった。いくら妹瑠奈のためとはいえそんなことは出来なかった。
「そうか、1銭も役に立たない清廉潔白もち、大金をどぶに捨て妹を見殺しにする。
まあええ、それがお前の人生観、無理強いして勇者にしてもこっちも困る、好きにするのじゃ」
それは今までにない強気な物言いだった。
「──うっ」
そうすると2人とも返す言葉が無くなりこの場が沈黙する。しばしの時がたつとこれ以上の沈黙は無意味と感じたユダが、言葉を発し始める。
「あと10分ほどお前さんをここに残す、しばらく考えていろ」
そう宣言するとユダの机に再び消えた金が現れ始める。
幸一はうつむいて悩み始める、妹と柚子という少女、どっちを取ればいいのか。
そして10分が約束の経った、ユダが答えを聞く。
幸一はユダをじっと見て震えながらぎこちなく答える。
「俺は罪もない人を殺すなんて出来ない」
両手のこぶしを握り目にうっすらと涙を浮かべながら囁く……
「それでもほしい、助けたい──」
ユダはため息を最初に出した後口を開き始める。
「合格だ、ここで金のために殺すようなやつは信用できない」
「──え?」
予想外の言葉に幸一は言葉を失い、きょとんとする。
「金で平気で人の命を奪う奴なんて信用できない、第一金を積めば人殺しでも何でもするってことは金次第で簡単に裏切るってことじゃないか」
ユダは笑みを見せながら幸一の両肩をつかみ始め、最後の言葉をかける。
「お前は金では裏切らない、金で人を殺さない。それが勇者になるために必要な一番の素質じゃ」
「じゃがな、一つだけ約束してほしいことがある、何があっても今思ったこと絶対に悪に手を染めないことじゃ。
お前のようなやつほど旅をする中で思ってくるはずじゃ、全てを殺したくなって、こんな世界無くなってしまえばいいと、そう考えるようになるかもしれん」
「 だ が 希 望 を 持 ち 続 け ろ ! ! 、殺す人間に未来はない、どんなに憎くても、どんなに怒りに震えても殺すな。救え!!それがわしとの約束じゃ!! では行って来い」
そう言葉をかけて微笑を浮かべ右手を差し出す。
幸一はその右手をぎゅっと握る、すると握った右手から、何かの力を感じ始め──。
「わかった」
そう言い切り、決心し首を縦に振る。そして彼の体が一瞬強く光り始め消滅する、ユダの力で幸一を異世界へ転移させたのである。
そして彼の壮絶な物語が始まる──
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