今も白夜を旅する人々へ

判家悠久

2020年 コロナ禍1年目

2020年7月15日 書評:今も白夜を旅する人々へ

「白夜を旅する人々」は私と同じ青森県人の作者三浦哲郎の実家の歴史を元に描いた昭和初期の長編小説です。

あらすじはそれ自体が物語の根幹を示す為に、各サイトは理性的な裁量を元に上手く導いています。今時の若い方が読まれたら、ああそうかの感想にもなりましょうけど。ここは私に薦めるがままに読み進めて貰えれば、今のコロナ禍を鑑みて新たな指針が見つかると思います。


まあ「コロナの時代の読書」で真っ先に思い付いたのは、三浦哲郎の「白夜を旅する人々」だったのですけど…電子書籍がカクヨムのレギュレーションだったので、そこ迄ケアされて無いよと思いきや!新潮社は電子書籍化していました。今は故人の三浦哲郎ですが、ああ良かったなしか有りません。



ここで三浦哲郎とは誰かの声も心無しか聞こえてきそうですけど、青森県の文豪の御歴々に入る方です。

初期の作品「繭子ひとり」はNHKの朝ドラにもなりコメディ要素有りの先駆けになりました(ここ黒柳徹子特集の現存フィルムからの個人的感想です)。また「ユタとふしぎな仲間たち」は劇団四季の巡演の方でご存知の方がいるかと思いますが、児童文学の金字塔でもあります。そして「忍川」は「白夜を旅する人々」と同じく三浦哲郎の自伝的作品で、原作と共に映像作品が評価が高く今も尚語り継がれています。



ここからですね。「白夜を旅する人々」を読むきっかけになったのは高校の図書室です。図書室の窓際は冬の日差しでも日当たりが良いので私の定位置そこです。そのやや高い書棚に「白夜を旅する人々」おいてありました。まずタイトルの響きが心地良いのです。そしてハードカバーはただ白く質素で箱付きでも佇まいが美しい装丁で、惹かれる様に手に取らざる得ません。とは言え分厚い本で「これ本当に読めるかな」でした。高校生はそこですね。


でも「白夜を旅する人々」の持つ引力のままに、もどかしさを超えて卒業間近前に図書室から借りて読みました。泣きました。嘆きと憤りで泣くのは生まれて初めてだったかもしれません。薦めておいて何をですけど、高校生さん以下の読書は控えた方が良いと思います。感情のやり場を上手に処理出来ないと思います。もっとも私も青森県なのですけど、表記されている南部弁が難しくかなりの難書なのでくじけても恥じる必要は有りません。



「白夜を旅する人々」は何故に「コロナの時代の読書」として読まれるべきかですけど。私の感想を述べて行きます。


敢えてザックリにあらすじを書きますが、「白夜を旅する人々」はマイノリティーの血を受け継ぐ家族の物語です。

現在、急激に広まり解決策すら今も見出せないコロナ禍の時代は、皆が不幸に落ち込み、私がいや私こそが不幸の報告が日々上書きされています。マイノリティーの尊厳が疎かになって己しか見えない時代がまた来てしまったかです。


二度の大戦を経ても己しか見えない時代は、どうしても他者を蔑ろにしてしまいます。そう現在この世界中で上がり始めたマイノリティー排除への抗議は、実は予定調和のセットだったのです。

ニュースを見る程に。世界中で起こるマイノリティー排除への抗議は、何故ここ迄大きくなるなるのか分からない方もいるかと思います。でもこれは良識のある方程、この流れはより暗い時代の幕開けだと感じたからこそのムーブメントです。


今の時代はやっと寛容になったかと思いきや、コロナ禍でまた逆戻り。それこそ、「白夜を旅する人々」で描かれる昭和初期の村社会はこうであったのかとマイノリティー排除に思いを馳せます。


私はマイノリティーに則した側の人間ですので深く分かります。その背負った痛みを何故分かってくれないかと、今日も、いや昔より、嘆く方は多くいます。気丈に振る舞える方が増えたとはいえ、どうしても些細な事で気弱になってしまう事はあります。


そう再び。「白夜を旅する人々」は昭和初期の暗くなる時代の、マイノリティーの方々の心情を紐解いた長編小説です。コロナ禍でまたあの時代になるのかとただ嘆く方も少なくないでしょうが、ここはたくさんの方に読まれて、より寄り添い、思いやり、光を同じく求め、共に生きるのは尊き事と深く考えて欲しいのです。



私達の向かう先は、暗闇さえ切り開く煌々と輝く白夜へと。「白夜を旅する人々」のタイトルが印象的なのは三浦哲郎の切なる願いかもしれません。今もこの瞬間も、白夜を旅する人々へと、その願いは連綿と繋がっております。


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