第6話 攻略対象の第2王子

「さてやってきましたラストエピソード。はたしてヒロインは無事に攻略対象を決めることができるのでしょうか」

「セイレン、何か言った?」

「なんでもないよー」


 危ない危ない。うっかり聞かれるところだった。


 それにしてもミリアさん、あなた本当に何も変化がない…。この世界の階級という意識は結構根強いのかも。王族貴族と恋に落ちたいなんて平民、そういえば見たことないし聞いた事ないなぁ。探せばいるのかもしれないけど、もしいたとしてマイノリティは確定かー。確かに私も貴族と恋したいかって言われたら、恐れ多くて無理ですってなる…。

 まぁでもここは前世のゲームの世界で、ストーリーもそのまま始まってるから、なんとかなるかな。仮に誰のルートにもいかなかったらバッドエンド回避成功だったりして。あ、でも権力者との繋がりがないってことだから、万が一悪役令嬢に嵌められたら成す術がなくなるか…。うん、ミリアさん、絶対カーティス殿下に落ちてね。


「セイレンが良からぬことを考えている顔をしている…」

「そんなことないよ」

「ちなみに何を考えていたの?」

「平民の成り上がりは可能かどうか」

「不可能じゃない?」

「デスヨネー」


 はっきり言いきったよ、このヒロイン。そりゃそうか。自身を領主に勝手に売られたんだから。権力の怖さを身をもって知っているということだもんなぁ。成り上がりは良くも悪くも権力抗争に巻き込まれに行くようなものだし。


「セイレンは成り上がりたいの?」

「いや全然。あ、でも成り上がって領主様の噂を否定するのはありかも」

「掃除しようねー」

「ハーイ」


 ちょっとぼけてそう言ってみたら、ミリアは綺麗にスルーした。いいね、そのスルー力。良くも悪くもヒロインらしくない。

 ちなみに今日は室内掃除です。室内といっても、窓のない外気に触れた廊下だけど。たぶん今日エピソードが来ますね!それを楽しみに頑張ろう。



 しばらく掃除をすること1時間、そろそろこの辺りの掃除が終わりそうである。カーティス殿下、まだですか。

 …と思った時でした。


「あ」


 ふとミリアの近くの角からカーティス殿下が曲がってきた。


「きゃっ…」


 ミリアが慌てて避けようとしてバランスを崩し後ろに倒れる。運悪くそこは外へと繋がる階段だった。

 まずい、このままだと落ちてしまう…!


「危ないっ」


 カーティス殿下が俊敏な動きでミリアの手を掴み、引き留める。というか、抱きとめる。


「大丈夫かい?」

「はい…申し訳ございません…」

「ここは素直にお礼を言っとこう?」

「助けてくださりありがとうございます」

「うん、どういたしまして!」


 カーティス殿下はミリアの返答に満足がいったのか、ちょっとだけいたずらっ子のような、だけどどこか優しい笑顔を浮かべた。


 …よかった!確かにこんな感じのエピソードだったけど、目の前で階段から落ちそうになるのを見るのって心臓に悪すぎる。それが友人だと特に。今回はぬるっとスチル絵とか言っていられない。あ、でも抱き留めた図にはときめきを禁じ得ないね。その前のピンチがなかったらの話だけど!


 カーティス殿下の姿が見えなくなったのを確認して、ミリアに近付く。


「大丈夫だった?」

「うん、カーティス殿下のおかげでなんとか…」

「カーティス殿下の動きすごかったねぇ…さすが軍人」

「本当、助かった…」


 そう、カーティス殿下は19歳ながらこの国の騎士団の団長を務めている。といっても、ゲーム上のカーティス殿下曰くお飾り、らしい。王族の権威付けだとかなんだとか言っていたっけ。実際、団長としての仕事は兄の王太子殿下が遣わした側近と副団長でやっているらしい。


「細身なのにどこにあんな俊敏に動ける筋肉があるんだろうね…すごい」


 いやまぁ、攻略対象全員細身で高身長なんだけどさ。カーティス殿下はその中でも低い方だったかな。


「それね。かっこいい」


 お?今なんと?かっこいいよね…!?これはカーティス殿下ルートの可能性が出てきたのでは!いやぁ、よかったよかった。

 よし、これで次は晩餐会で何を運ぶか、になるね!えーっと、確か1週間後に晩餐会が予定されていたはず。意外とすぐだった。


「ね。領主様もかっこいいよ」

「はいはい。ミサト街の人ってみんなこうなの?」

「たぶんこうだと思う」

「それはすごいね…」


 ミリアは自身の街の領主様を思い浮かべたのか、信じられないような目をしていた。本当にミリアの出身地であるナツミ街の領主様、許せないよなぁ…。


「あ、念のために確認するけど、怪我無い?」

「ないない。大丈夫」

「それはよかった。でもまぁ、休憩しに行こうか!」

「ふふ、そうだね。そうしよう」


 まぁでも、ミリアが無事でよかった。

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