愛され領主様と友人ヒロインのために

春夜もこ

第1話 前世の記憶と領主の噂

「ハイ皆さんこんにちは、レンです。いや、今はセイレンです。清廉潔白そうな名前ですけど思考は全く潔癖じゃないです。先ほどお城の中庭で木と正面衝突したら前世の記憶が頭の中に流れてきました。え、何言ってるのって?私も全くわかってません。というか前世の私いつの間に死んでたの。冷房付けて寝たはずなんだけど。あ、そうか暖房になってたんだ。もー私ったらうっかりさん」

「セイレン、何言ってるの…?」

「ちょっと気持ちの整理及び現実逃避で思考を吐き出してた。このまま吐き出さなかったら煮すぎたジャガイモみたいにぐちゃぐちゃになるような気がして」

「そ、そう」


 只今引き気味に話しかけてきたこの素朴美少女は私と同じ下っ端メイドで同期のミリア、18歳。綺麗な銀髪と碧眼はいつ見ても素晴らしい。もうね、本当に眼福。可愛すぎて眼福。同期で歳も同じだからよく仕事場が一緒になるから嬉しい。顔良し、性格良し、スタイル良し、声良しの完璧ちゃん。ただひとつ要望するならば、私の変人っぷりにそろそろ慣れてほしいなぁ!もうそろそろ出会って2週間だし!

 というか、私は前世から変人道まっしぐらだったのね…。蘇る前世の変人っぷり。うん、忘れよう。今世の変人度は前世に比べるとそこまで酷くないから大丈夫。まぁ、養父と街外れにポツンと住んでいたから、買い物しに街に出た時にお店の店員とかお客さんとかと世間話するくらいしか交流なかったもんなぁ。みんな優しいしお喋りさんで楽しかった。肝心の養父は、私がある程度成長したらお仕事で家を空けることが多くなったし…。


「ふふふ、このまま私はまともな人に…」

「セイレン、おーい、戻ってきて?」


 そう言って目の前でコテンと首を傾げるミリアの可愛さでようやく現実に引き戻された。


「はい、戻ってきました。コンニチハ」

「ふふ。あ、そういえば怪我してない?派手に木にぶつかってたよね?」

「見られていたという事実に心が傷ついた」

「あ、じゃあ大丈夫だねー」

「ハイ」


 前言撤回。ミリアさん、だいぶ私の変人っぷりに慣れてらっしゃった。


「よし、怪我の治療ついでに休憩しよう」

「それサボりたいだけじゃない…?」

「気のせい気のせい」


 さ、休憩休憩ー!






「え、セイレンってミサト街出身だったの!?」


 小さな休憩室にミリアの声が響いた。幸い私とミリアしかいなかったからよかったけど、もし他に誰かいたら変人になるところだったね!


「あれ、言ってなかったっけ?」

「聞いてないよ!え、大丈夫だったの!?」

「何が!?」


 ちょっと何が起こってるの。ミサト街出身ってそんなに驚かれるの!?確かに街の外に出る人は少ないけど…。


「え、だって、領主が悪逆非道って聞くよ!?」

「んん!?」


 領主様が悪逆非道…?アクギャクヒドウ…?


「悪逆非道で冷徹で残忍。領民、特に拠点を置いてるミサト街の人には血も涙も慈悲もない行為を行うって噂だよ…?」

「まじで!?…例えば?」

「税を搾り取るとか」


 あー、なんかすごく豊作なときに多めに税を払った気がする。だって領主様の持つ保存技術に任せた方が長期保存できるし安全だし。あのおかげで不作の年助かったなぁ。


「子供を奪い取って売り払うとか」


 あー、そういえば貧しい家の子供たちを家族の了承を得てから一時的に引き取って領主様が所持してる施設で面倒を見ているね。しかも学校まで行かせてくれる。そして学校卒業したら安全安心で賃金がそれなりにいい働き口を紹介してくれるらしい。


「既婚関係なく見目がいい女性を屋敷に呼びつけるとか」


 あー、なんかお城のメイド不足で何人か連れてこいって命令が出た時のことか。確か見目がそれなりに良くて礼儀作法がある程度しっかりしている女性を募集していたなぁ。条件含め気になる所は全部答えてくれるし、最終的にどうするかは本人の意思を尊重してくれた。

 ちなみに私はそれに応募したのでここにいます。見目は自分で言うのもあれだけど悪くはないし、礼儀作法は養父が教えてくれたからそれなりに身についているはず。それに家に居ても養父あんまり帰ってこないから一人だし…。お城に行ってもいいかなって。


「厳しい労働を半年しないと街から外に出られないとか」


 あー、それはたぶん街の外に出る人が少ないのが原因かな。皆ミサト街の住み心地が良すぎて外に出たがらないんだよね。山あり海あり平野あり、で資源に困らないからなぁ。そのおかげで街は活気溢れている。まぁ、海と山に囲まれたせいで他の街に行くのも一苦労っていう難点もあるけど。


「領主の兵士が街を我が物顔で闊歩して、街の人に乱暴を働いているとか」


 あー、確かに兵士がよく街を歩いているっけ。見回りで。あれいいよねー、何かあった時にすぐ助けてもらえる。重い荷物持ってた時は代わりに持ってくれるし、怪我したら簡易的な手当てをしてくれるし、酔っ払いに絡まれたら助けてくれるし、悪漢はちゃんと倒してくれるし。


「あとは…」

「まってまだあるの!?」

「うん。ミサト街の噂はたくさんあるよ」

「うそでしょ…」


 領主様ー!?何かすごく皆さんに勘違いされてませんか!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る