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少しずつ光に慣れてくると、未來はうっすらとまぶたを開けた。やがて目に飛び込んできた景色に、彼は戦慄した。
視界いっぱいに広がる、広大なキャンパス。幅広の階段を挟んで両側に建物がそびえ、つい先ほどまで森だった空間は、綺麗に舗装された道路と芝生、それから大学のものと思われる建造物で占められている。
「ここが……SFC、なのか?」
正気に満ち満ちたキャンパスを前に、未來は圧倒される。ミネルバは、まるで旅行先から自宅に帰ってきたかのように空気をいっぱいに吸い込んでいる。
「80年前へようこそ」
ミネルバが得意げに言った。どうやら、自分でも気づかないうちにタイムスリップしていたようだ。80年前なら、2020年ということか。
「
未來はさして驚く様子もなく言った。タイムスリップという技術自体は2047年に発明されていたらしいのだが、その使用に関しては日本政府が固く禁じていた。もし民間に普及してしまうと、過去への移民が止まらなくなってしまうからだ。となると、それを易々と扱える彼女は何者なのだろうか?
「一つ、聞き忘れたことがあった」
ふと我に返り、未來はそう切り出した。
「なあに?」
首を傾げるミネルバはやけに上機嫌だ。
「あんたは『SFCの会』なんだろ?ということは、ミネルバもここの出身なのか?それでタイムスリップを使えると?」
二人は学生たちの人混みを避けるようにして、階段を登り始めた。
「SFCの会っていうのは略称でね、本当は『SFCを取り戻す会』っていうの」
彼女は何かを懐かしむような表情で、どこかを見つめていた。
「取り戻す、会……」
ミネルバが何か明確な目的を持って作られたアンドロイドだというのなら、それはどんな目的なのだろうか。そして、なぜ未來が「SFCスピリッツの創造」というプロジェクトに選ばれたのだろうか。
「私のことはこれ以上聞かないで。約束ね?」
そう言われては、未來も何も言えなかった。
「それで、会わせたい人ってのは誰なんだよ」
80年前のSFCで、一体どんな話を聞かされるのか。今の未來には、それが目下最大の疑問だった。
「それを教える前に、いくつかミライ君の考えを知りたいのだけれど。これから話を聞くにあたって必要なことなの」
「なに?何の意見?」
ミネルバは考えこむようなそぶりを見せたあと、思い立ったように質問を放った。
「あなたの周りに、学校へ行けてない人はいる?」
質問の意図がわからなかったが、未來は正直に答えた。
「そりゃいるよ。義務教育なんて口だけだし。そんなことぐらい、あんたも知ってるだろ」
「なるほどね。じゃあ、こういうのはどう?”あなたはお金についてどう思いますか”?」
お金と聞いて、未來はムッとしたように言った。
「消えて無くなればいいのに」
「はは〜ん」
ミネルバは含み笑いを浮かべ、流し目で未來を見た。
「とりあえず、質問はこれぐらいにしておくわ。それより、もうすぐ一人目よ」
いつの間にやら、二人はキャンパスの中にある一棟にいた。教室のドアを開け、中で待ち受ける人に思いを馳せながら、未來は部屋へと入っていった。
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