第54話 王都アングリスカ→氷の封魔城①


 ──────起きた。


 起きた……よね?

 オレ、起きてるよね?


 まだ微睡んでいるのか寝ぼけているのか、意識がふにゃふにゃであやふやで、これがまだあの夢世界なのか現実世界なのか判断がつかない。


【おはようございます姫】

 

 おはようイド。

 良かった。ちゃんと目覚めてた。


【今日の睡眠時間は9時間47分34秒です。エイミィ様とのリンクがあったとは言え、姫は普段から眠りすぎの傾向が見受けられます】


 ね、寝る子は育つって言うじゃんか。

 きっとその分ちゃんと育ってるんだよ。ね?


【姫の生育データと睡眠超過の関連性はあまり関係がありません。あと2時間ほど睡眠が短い方が、むしろ好ましいと進言致します】


 う、うう。

 ちゃんとしたデータと正論を持ち出されたら、オレ何も言えなくなっちゃうじゃん。

 は、早起き……がんばってみるよぅ……自信無いけど。


【精神的負荷の点から考えると眠りすぎも一概に悪いこととは言えませんので、イドも進言するだけに留めておきます。姫は本当に幸せそうに眠りますからね】


 そ、そう?

 寝てる時の自分のことなんかわかんないからさぁ。でも、柔らかいベッドで暖かい毛布に包まれて、そんでこのポヨポヨでフワフワな感触にサンドイッチされてるとやっぱりきもちいいよねぇ。


 本当、何でこんな気持ちいいんだろう。


 この、ポヨポヨで……フワフワで……スベスベで……ボニョンボニョンな……ん?


 んん?

 んんん?


 何だこのポヨポヨな柔らかくて暖かい物体。

 こんな感触の枕、オレ持ってたっけ?


 それより何より、目覚めたはずなのに視界が真っ暗なんだけど?

 あれ、まだお外は暗い感じ?


【いえ、すでに朝日が昇っていて空は白んでいるはずです。相変わらず吹雪いてますから、それなりに暗いですが】


 ど、どゆこと?

 何でオレ、こんな身動きが取れないの?


 何かに頭と胸と腰を鷲掴みにされてて……足に何かがまとわり付いてて……ちょ、ちょっと息苦しくなってきたんだけど!?


「んむー! むー!」


 く、口と鼻がポヨポヨで塞がれてて、息がし辛い!


【暴れれば暴れるほど苦しくなりますよ?】


 どゆこと!?


「んー! むー!」


「んー、ひめぇ。寝相が悪いぞぉ……」


 こ、この声はヨゥ!?

 オレの頭の上から眠そうにむにゃむにゃ言ってるのは、4号ことヨゥ・リヴァイアさんの声じゃないですか!?


 はっ!?


 分かった! 分かっちゃった!

 オレが何に顔を塞がれてるのか、何がオレの身体を拘束してるのか!

 まるっと理解しちゃいました!


「んむー!! むー! ぷはぁ!」


 ジタバタと身体を全力で動かして、何とか上方向に身体をズラしようやくポヨポヨから抜け出した。

 足りなかった酸素を喉とお腹で全力補給して、改めてその正体を確認しようと目を見開く。


「ヨ、ヨゥ、起きて! 苦しいってば! 何で裸で寝てるの!?」


 そしてなぜオレに抱きついているのですか!?

 そんなダイナマイツ・ザ・バディを惜しげもなくフルオープンで、寒くないんですかヨゥさん!


「んー……? ごめんな姫ぇ……アタシ朝弱くってさぁ……もう少し寝かせておくれ……」


「ね、眠ってもいいんだけど! 身体っ、離し──────」


「なぁに……? 姫、良い子だから、もう少し寝かせて……」


「──────うひゃあああい!」


 だ、だから何でミィはいつもオレの耳元で喋るの!?

 やめてっていつも言ってるじゃんか! 背中がゾクゾクってしちゃうから!


 ……って言うか、何でミィまで裸でオレに抱きついてるの?

 何でひとつのベッドで3人で寝てるの!?

 この部屋、ベッド二つあるよね!?

 ちっこいオレともう一人ならわかるけど、3人で寝る必要無くない!?


「……昨日は、遅くまで1号達と話し合ってて、結構遅くまで起きちゃったの……だからごめんね姫……私たち、もう少し寝かせて……」


 せっ、背中にすっごいやわやわな! なんだか素敵な感触が!


「──────あっ♡」


 ちょ、ちょっと誰だ今オレの胸を鷲掴みにした奴! なんか変な声出ちゃっただろ!

 ナンデ!? 何でオレの寝間着をそんなめくってんの!?

 まっ、待って! 太腿の間に割って入って来た足は誰!?


「ふっ、二人とも! いい加減に──────ふあっ♡」


 もっ、もおおおおおおっ!!

 今背中に口を付けたのミィだな!?

 あっ、ヨゥ動かないで!

 今ヨゥの手が股の微妙なとこに──────っ!


「んっ、んんんんんっ♡」


 お、お前ら本当は起きてんだろ!

 オレの反応見て面白がって──────いや、これまじで寝てるな。


 い、イドっ! たすけて!

 このままじゃオレ、女の子としても男としても大変なことに!


【無理です。というか、姫がもがいてるせいで余計に絡まってるのでは?】


 こ、この状態でジッとしてろと!?

 精神的には健康優良男子であるオレに、形も感触も抜群なおっぱいに潰されるとか、そんな拷問を甘んじて受けろと!?


【いえ、前にも言いましたが。最近の姫は姫が思っている以上に乙女ですので、この状態に何も問題は無いかと】


 そんな訳──────無い……よね?


 あれ? 言われてみれば……そんなに興奮してない?

 恥ずかしいっちゃ恥ずかしいけど、前世で覚えのある様なドキドキでは……無い様な?


【精神は肉体に依存しますから】

 

 あ、あの……イドさん?

 さらっと言ってるけど、オレにとっては結構深刻なことなんだよ?


【そうですか? 姫の精神の波長は、窒息しかけた事に関する事以外ではそれほど揺らいではいませんが?】


 え……?

 ま、マジ?


【はい。マジです】


 ちょ、ちょっと待っ──────。


「──────はぁっ♡」


 い、今右の奴を摘んだのは誰だぁ!

 寝ぼけるならもっと健全的な寝ぼけ方をして欲しいんだけど!


 姫からのお願い!!

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