また、君と出会うための約束を。

プロローグ

ヒュルルルルと、笛のような甲高い音が静寂を切り裂く。耳が痛む程の高音に夏生は少し顔を顰めた。一瞬のあとには、まるで真っ黒なキャンパスに子供が無造作に絵の具を撒き散らしたような勢いで、単色だった夜空に光の大輪が咲き乱れる。一拍遅れて、耳を塞ぎたくなる程の破裂音と共にやってきた衝撃が全身を襲った。

「花火、始まったね」

目の前に立つ少女が背を向けたまま話しかける。

少女を挟んだ視界の向こうで、色とりどりの花が次々に打ちあがっては余韻を残しながら散っていく。

夜空で燃え尽きては儚く消えていく花弁にまぎれて、少女の輪郭からもぱらぱらと何かが剥がれ落ちていく。

「子供の頃はさ、打ち上げ花火って横から見たら平べったいんだと思ってたんだよね、私」

バカだよねぇ私、と小さく笑った。

声は確かに届いているものの、その言葉は一体誰に投げかけているつもりなのかはっきりとはわからない。

「ねぇ、夏生」

少女が振り返る。


「君の目には今、誰が映ってる?」


「●●●●●」


この日一番の大きな花が咲いた。

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