次女と第二王子3

 今日は日曜日。

 ただ、いつもとは違い、今日も教会に足を運ぶ。

 昨日のバザーの片付けが少し残っているからだ。


「サヨお姉ちゃん!」


 中庭で後片付けをしていると、後ろからパタパタと足音が聞こえた。

 振り返るとオリビアが駆け寄ってきていたので、目線を合わせるように腰を屈める。


「オリビア、どうしたの?」

「これ!」

 目の前に差し出されたそれに目をパチパチさせる。


「ノア様に渡してほしいの」

 オリビアの手には、綺麗にラッピングされたマフィンとクッキーが持たれている。


「昨日作ったのをね、シスターがノア様に渡そうと分けてたのに渡すの忘れちゃったんだって。」

「なるほど」


 オリビアからそれを受け取り、どうしたものかと思案する。


 水曜日にノア様と会うけど、マフィンは4日も日持ちしないだろうな。

 考え込んでいると、オリビアが不思議そうにこちらを見上げていた。


「渡してくれる?」


 可愛く首を傾げながら言うオリビアに思わず、「あ、うん。オリビアありがとう」と答えていた。


 今日は騎士団の仕事をされているはず。

 ピンク色のリボンで包装されたそれを見て、オリビアもノア様に渡して欲しいだろうなとノア様に会いに騎士団の本部に行くことを決意した。




「どうしよう…」


 教会で片付けを終えた後、私は目的地に足を運んでいた。

 外から見たことはあったが実際に中に入ろうとするのは初めてで、勝手が分からず、かれこれ10分くらいその門の前に佇んでいた。


 宮殿に持っていったほうが良かったかな…でもお礼を人伝てに渡すのは気がひけるし…でも副団長に会うのに約束がないだなんて…と頭を悩ませていると、「どうかされました?」と後ろから声をかけられた。


 びっくりして勢いよく振り返ると、騎士団の制服に身を包む赤髪短髪の爽やかな青年が立っていた。


 門の前にずっと立っていたから怪しまれたかもしれないと慌てて怪しい者ではないことを伝えようと、咄嗟に自分の一番信用できそうな肩書を応えていた。


「私、ノア様の婚約者で」

「え?」

「あ、ごめんなさい…騎士団の副団長をされているノア・グレース様に渡したいものがあって……決して怪しい者ではなく、一応婚約者です……」


 青年のきょとんとした顔を見て続けた。いつも嫌だ嫌だと言っている肩書をこんな時だけ使うのだから、自分も人を責められない。


「え!?」

 その青年はまじまじと私を見ながら、もう一度同じことを大きな声で繰り返した。



 事情を説明すると、フィンというらしいその青年にノア様のところまで案内してもらえることになった。

 どうぞどうぞ、と建物内に入れてもらったのは良かったのだが、廊下ですれ違う人すれ違う人に私を紹介するのだからとても居た堪れない。


「フィン!誰だよ、後ろのかわいい嬢ちゃん。連れ込んでるのバレると怒られるぞ」

「副団長の婚約者さん!連れ込んだのはノアさんだよ」


 爽やかに笑うフィンさんの冗談に、ノア様にご迷惑かけて怒られてしまうと半泣きである。

 意味はないのだが、フィンさんの後ろを出来るだけ小さくなって付いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る