夢の叶い方
夢の叶え方ではなく、夢の叶い方である。見る角度を変えると、意外と夢は叶っているのものなのだなと、最近気づいた。
そんな私は、ネガティブ志向の家庭で育ったせいか、一度でもつまずくとすぐに諦めていた。
どうせ、自分の思い通りになんかならない、と言い訳を言って、努力することをしなかった。当たり前だが、自分の望む通りになったことなど、一度もなかった。
私には空想癖があり、小学校六年生になっても、本気で魔法使いになれると信じていた。その一方で、歌手になりたいとも思った。
小学校六年生で、オリジナルの曲を作ったりした。その後も、人前に出ることはたまにあったが、それなりにいい感じで活動は進んでいた。しかし、家族の反対はかなりのものだった。
何とか理由をつけて上京した。曲は作り続け、デモテープを送り、あちこちの事務所らレコード会社から声をかけられた。
しかし、その先の心配ばかりが強く浮かび上がり、私は全て断ってしまった。そうやって、自分で夢を諦めたのだ。
その後、結婚をした。平凡な暮らしをしてゆくのだろうと思っていた。
だが、三十歳になる直前、霊感を身につけたのだ。それが奇妙なもので、神様の子供だけが見える霊感だった。
配偶者は私よりも霊感の強い人で、大人の神様の話をよく聞かせてくれた。その中に、光命という神様がいた。
おかしな話だが、私はその時になって、初めて恋をしたのである。
物腰や言葉使いが上品で、冷静さを持ち、頭が非常にいい。それなのに、人に悪戯をして楽しむという、変な癖を持っている神だった。
その神様のことばかり考えて、三ヶ月も眠れず、寝不足で気絶したこともあるほど、彼には夢中になったものだ。まさしく、光命は私にとって、白馬に乗った王子様だった。
しかし、隠された事実を、ある日聞かされることになるのだ。彼と私は母親と息子のような関係だと告げられた。
ショックも相当なものだったが、私は自分を最低な人間だと思った。肉体の欲望の渦に飲まれて、心を失ったのだ。好きになっていけない人だったのだ。心を大切にしなければと思い、光命は諦めようとしたが、そう簡単にはいかなかった。
そうこうしているうちに、光命は最愛のパートナーと出会ったっという話を聞いた。神様の世界は永遠だ。愛も永遠で、出会ってしまえば死のない世界でいつまでも続いてゆくのが常識だった。
本当に好きな人とは結ばれないのだと思った。夢は叶わないのだ。
彼は私の存在など知らない。会ったこともなければ、話したこともないのだ。ただの憧れでしかなかったと、私は言い聞かせるようにした。
それでも、好きな気持ちは消えず、苦肉の策で、これはファンみたいなものなのだと思って、納得しようと努めた。
魂の宿る器が肉体だが、魂が入れ替わることはある。私もそうで、光命との親子関係は解消されたが、時すでに遅しだった。追い討ちをかけるように、この世界で私は離婚をした。
しかし、それと同時に、大人の神様が見える霊感を手に入れた。
そして、まったく別の男性神に出会ったのだ。口数が少なく、落ち着いていている人で、蓮と言う。
私はその当時、自分が病気であるとまだ知らず、喜怒哀楽が人より激しいのだと思っていた。だからこそ、私の言動にいちいち左右されない、肝の座って人がいいなと思っていた。
そして、その神と私は結婚したことになった。子供も生まれ、幸せな日々で、これが死んでも続いてゆくのだろうと信じていた。
しかし、私の人生は思っても見ない方法で、夢が叶い始めた。
光命と出会ってから、十四年目の夏、蓮が一人の男の人を連れてきた。その人が私に言うのだ。
「明日、あなたと結婚します」
会ったこともない人だったが、話に聞いていた雰囲気や話し方から、その人が光命だと気づいた。
経緯が見えない。棚からぼたもちみたいな話だったが、ピンときた。
こう言うことだ。
蓮と光命は同じ音楽事務所の所属をしている。そこで出会って、二人が恋に落ちたのだと。
しかし、現実はもっと巧妙にできていた。
三年前に、光命が世界を統治しているうちの一人――皇帝陛下に呼び出され、私のそばに行くよう命令を受けていて、私の知らないところで見ていたそうだ。
誰も見ていないと、誰も理解してくれないと思っていたが、やっぱり神様は見ていてくださったのだ。
十四年の月日を経て、夢は叶ったのだ。
そして、魔法使いの夢も叶ったと思っている。神様まで見える霊感って、ある意味魔法ではないだろうか。人と違う能力を魔法を呼ぶのならば。
神様の世界の法律はみんな仲良くだけで、一対一の結婚でなければいけないとか、性別がどうとか関係ない。
そんなわけで、光命の恋人と四人で結婚した。
その後、配偶者はどんどん増えて、二十人となった。ひと段落したところで、私と光命は陛下にご挨拶に伺った。
そこで言われた次の命令は、音楽で地上の不浄を神界の価値観に置き換えて広めよ、だった。
そう言うわけで、ずっと練習していなかった歌の練習を始め、向こうの世界では単独ライブはまだ行っていないが、程々の成果をいただいている。
今は自分で打ち込みまでして、一曲仕上げられるようになった。これも、活躍する世界は違うが、夢は叶っている。
だから、私の価値観は変わった。夢は諦めなければ叶う。ただ、自分が思った形とは違った方法で叶うのだ。
2020年9月26日、土曜日
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