学校には持っていかない

 子供たちの入学式間近になると、当日着る服や雨具、携帯電話などを買いに行く我が家。


 臨海地区にある、ショップが集まるエリアへと繰り出そうとするのだが、すでに入学している子供たちも一緒に来ているので、全員で百人近くとなる。そこで、我が家の対策を、店へ入る前に再確認を行う。


1.名前を呼ばれたら返事をする

2.迷子になった時は、近くの大人の人に言う

3.何分後に同じ場所へ戻ってくる

4.買いたいものは近くにいる親の持っているカゴに入れる


 以上、四項目。そうでないと、迷子が出て大変なことになる。百人一斉に迷子になられた日には、親が二十一人いても見つけられず、日が暮れてしまうだろう。


 ということで、買い物の一例。

 新しく入学する娃柄毘あつかみ、ウェスタンスタイルがいいと、率先して売り場へ連れていかれた。

 ジーパンに、上にはポンチョみたいなマントを羽織ると言う。


 まるでガンマンだな。


 同じく入学する夕波ゆーな

「ママ、これがいい」

 と言って戻ってきた我が子の頭の上に、光る天使の輪がついていた。しかも、きちんと浮いている。


 さすが神界だ。魂との連動で、体につけていなくてもいいんだ。傘も手で持たない世界だからね。


 そんなことを考えていると、


「バーン!」


 ピストルの真似をする声が聞こえた。まさか――振り返ると、娃柄毘が鏡に向かって、銃を構えていた。


「ママ、これもほしい」

「どこから持ってきたの?」

「すぐそこにあった」


 ウェスタンスタイルの服を売っている隣で、おもちゃの拳銃を置いたら、子供は買ってしまうではないか。恐るべし、店の戦略。でもね――


「拳銃は持っていけないよ。学校に行くんだから」

「うん……」娃柄毘はしょんぼりする。


 五歳になって、いろいろやりたいことがわかって、自分の好みおもちゃが見つかる。そんな素敵な時なのだろう、今は。


「じゃあ、学校に持っていかないって約束できるなら、買っていいよ」

「うん、いかない」


 カゴにおもちゃの拳銃が入れられると、夕波がふんわりと言った。


「ぼく、これがいい」

「え、何?」


 振り返ると、綺麗な色をした棒があった。


 何に使うんだ?


 夕波が振ってみせると、空中にあら不思議、光る金の帯が現れた。ついでに星みたいにキラキラと光ながら。


「魔法のスティッキ?」

「そう」

「天使の輪っかは帽子とみなされるから、つけていってもいいけど、スティックは持っていけないから、学校には持っていかないって約束するなら買うよ」

「うん、する〜」


 ということで、カゴに魔法のスティックが追加された。他の配偶者たちもこんなやりとりをしているのだろうか。


 しかし、子供の買い物は楽しい。その子の趣味が垣間見えるからね。


 2020年7月20日、月曜日

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