筋肉痛と私

 歳を重ねると、筋肉痛は次の日、もしくはそのまた次の日に出ると言うが、私はこの年齢になっても、すぐに筋肉痛になる。不思議だ。


 今日は歩くことがとても軽やかで、いつもよりもスピードを上げて歩いたが、帰ってきてすぐに、内腿うちももが筋肉痛になっていた。


 私は喜ぶ。すぐに筋肉痛になったのもそうだが、なった部分が重要だからだ。


 もう、かれこれ二十年近くになるだろうか。武術を教えている場所で、正しい筋肉の使い方というものを習った。受講料は何十万だったが、一生使えるハウツーだったのだから、それ相応の値段なのだろう。


 正しい歩き方は、太腿の前の部分は使わない。この筋肉は、ブレーキをかける時――すなわち立ち止まる時に使うものだ。よく、ここの筋肉を鍛えている人がいるが、逆効果なのである。

 

 心と体は密接に関わっていると、よく言うが、太腿の前を鍛えると、自分の心にもブレーキをかけることになり、ネガティブ志向になるのだ。


 では、どの筋肉を使うのか、だ。手で触れる部分で言えば、太腿の後ろと内側である。前に進みたいのならば、後ろから押せばいいのだ。一生懸命、前に足を踏み出すよりも、追い風に乗ったように、後ろから前へ力を働かせるのだ。


 あとは、インナーマッスル――という外からさわれない、体の中心部分にある筋肉を使うことだ。歩くには、腸腰筋と腸骨筋が必要だ。胸椎きょうついは十二個あるが、下の方から大腿骨だいたいこつへとつながっている筋肉で、イメージとしては胸椎あたりから足を上げると使えるようになる。


 だから、内腿が筋肉痛になって、正しい歩き方ができたのだと、今日は喜んだのだった。


 ただ、外から触れる筋肉を鍛えている時は、硬くなってしまっていることが多く、内側の筋肉は残念ながら使えない。


 今の私は腸骨筋と腸腰筋を使えているのか? それは少々疑問だが、以前は使えていた。今から、十五、六年前の話だ。


 職場がタワービルの十四階で、出勤しようとしたら、エレベーターが故障していた。管理人の人に聞くと、階段しかないと言う。


 登ったわ! 十四階まで――。途中で暑くなったので、上着を脱いだだけで、あとはノンストップ。そうして、筋肉痛にはまったくならなかったのである。


 つまり、正しい筋肉を使うと、筋肉痛にはならなくなってくるのである。


 肩こりもそうで、私は小学四年生から、万年肩こりだった。私の切なる願いは、


 一日でもいいから、肩こりのない日がきて欲しい――


 だった。しかし、それも正しい腕の使い方を覚えて実践したお陰で、今では嘘のように肩こりがなくなったのである。


 瓶のふたが開かない時、一番使う筋肉はどこだろうか?


 手

 腕


 ではなく、肩甲骨けんこうこつまわりの筋肉――背中なのである。手は蓋をつかむ程度で、脇は思いっきり開ける。できれば、肩と同じくらいまで肘を持ち上げて、呼吸を止めず――りきまずに回すと、あら、不思議、どんなに硬い蓋でも開くのである。


 2020年6月24日、水曜日

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