第17話光の天使
目をあけるとそこは思ってもいない状況になっていた。
大広間に天使がいた。
そう、あの神話や聖書に登場する背中に翼を生やした神の御使いである。
ぴりぴりと静電気のようなものが空間に漂っている。
天使は眩しいほどの光に包まれていた。
その光を見る者は人としての原罪を思い出し、畏怖の心を強制的に抱くことになる。
大きく光輝く翼を広げ、金色の瞳でこちらを見ている。
御船千鶴子の膝の上には神宮寺那由多が頭を乗せている。
額からは血が滴り、流れている。
すぐ横でウオッチメンが、あろうことかうつ伏せで倒れていた。
「くそったれ、強すぎる」
那由多は言い、ふらつきながら立ち上がる。
「いけません、那由多さん。あなたはもう十回も時間逆行を使用しています。これ以上は命に関わります」
千鶴子はそう言うと那由多の腕を掴む。
背中の竜の刺繍の瞳がギラリと光る。
千鶴子の腕を振りほどく。
彼女のスカジャンには竜の王がとりついている。
竜の王は生命力を対価にして王権の守護者たる那由多の身体能力を劇的に向上させる。
那由多もただ黙って生命力を竜の王に支払う訳ではない。
彼女は摂取したカロリーをその支払うべき生命力の代わりとする術を身に付けていた。
那由多が大食いでカロリーの女王と呼ばれる所以である。
カッと猫又の又三郎は鳴くと一瞬にして人間へと変身した。
赤地に蝙蝠柄の着物をきた豊満な肉体の女性へと変身した。
黒い艶やかな髪には幾本ものべっ甲のかんざしがささり、切れ長の瞳は憎らしげな光を宿し、光の天使を睨んでいた。
「なんだ、あれは……」
あまりの展開に圭介は混乱していた。
軽い目眩も覚えた。
他者の深層心理に潜ったことにより彼の肉体もかなりの疲労を覚えていた。
すぐ横の瑠菜は細かく震え、圭介の背中に隠れた。
「
吐きそうな表情で瑠菜は言った。
白い手で口を押さえている。
ふらつきながらも両手を腰に当て、戦闘態勢をとる。
「奴は秋月瑠菜を誘拐して監禁した犯人だ。警察につきだしてやったのによりによって天使と同化してここまで来てしまった」
荒い息を吐き、那由多は言った。
切れた唇からは赤い血が流れる。
「そうだ。僕は純粋に瑠菜を愛していたんだ。瑠菜は外の世界に出ずに平和に暮らすはずだったんだ。瑠菜は外の汚い世界にふれてはいけないんだ。僕が守ってやらなければいけないんだ」
あははっと天使は高笑いする。
「あの鉄格子の部屋で僕は神様にお願いしたんだ。そしたらね、神様は僕の純粋な願いに答えてくれたんだ……」
訳のわからない理由を一人で言い、その光の天使は羽ばたいた。
一度羽ばたいただけだというのに、その勢いはすさまじく鋭い爪で襲いかかろうとした又三郎を瞬時に倒してしまった。
又三郎は血だらけになって真後ろに倒れる。
どうにか攻撃を耐えた那由多は拳を振り上げ天使に殴りかかる。
竜の王の力を借り、握力を百倍にする。
だが、その渾身の攻撃も天使には届かない。
天使を包む光によって攻撃をさえぎられ、逆に吹き飛ばされた。
那由多の小柄な体は屋敷の太い柱に激突し、ずるずると畳の上に倒れた。
「あの天使は九人の王の世界の神の御使いです。絶大な力を持つ王権の守護者ですが、あの天使だけにはかなわないようです」
御船千鶴子は悲しげに圭介に言った。
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