イノウ探偵神宮寺那由多の冒険 パラケルススの遺産

白鷺雨月

第1話九人の王の物語

 昔昔、ここではない別の世界のお話。

 その世界は九人の王様によって治められていました。それぞれに竜の王、機械仕掛けの王、義眼の王、獣の王、炎の王、雨の王、大地の王、剣の王、月の王と呼ばれていました。

 彼ら彼女らは天界の神様のいいつけを守り、人間界を統治していました。

 長い支配の時が過ぎた頃、王たちはある疑問を持つようになりました。

 なぜ、我々は神のいいなりにならなければならなのかと。

 九王たちは軍勢を整え、神様に決戦を挑みました。

 ですが、神様が地上に遣わした天使の軍団によって、九王の軍勢はあっけなく滅ぼされました。

 大地には死体の山が築かれ、川は血によって真っ赤に染まりました。

 王たちも肉体を天使によって撃ち砕かれ、魂だけの存在となり、時空を彷徨うことになったのです。



 九人の王の物語は祖母に教えてもらった物語だ。

「おあばちゃん、王様たちはどこにいったの」

 この不思議な物語の結末を当時小学生の原圭介は祖母にきいた。

 祖母はムッとした顔で圭介の額を指先で弾いた。

「おばあちゃんじゃないよ、絹江さんって呼びな」

 そう言い、美しい祖母は次に圭介の頭をなでた。

 祖母の身体からはバラのような良い香りがした。

「さてな。ひょっとしたらすぐ近くにいるかもしれないよ」

 微笑し、祖母は答えた。



 この話を小学校の同級生にいうと、圭介は嘘つき呼ばわりされた。

 誰もそんな童話ともお伽話ともつかない物語を知らなかったのである。

 嘘つき、ホラ吹きと呼び、圭介をいじめる同級生のなかで一人だけ彼をかばった人物がいた。

 おかっぱ頭に瞳の大きい、愛らしい少女だった。瞳にこめられた生命力のようなものが今でも印象的でよく覚えている。

 顔はよく覚えているのだが、名前は忘れてしまった。

「何故、おまえたちは自分が知らないという理由で、この世界には存在しないと断言できるのだ。何故、自分達が無知であるだけかも知れないのに他者をさげすむのだ?」

 彼女の大人びた言葉を聞き、皆は圭介をいじめることをやめてしまった。

 彼女には人にいうことをきかせる威厳のようなものがあった。

 こういうのをカリスマと呼ぶのだと圭介は思った。

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