第3話 新たな世界、新たな家族

 おおお、これはすげー!


 まさか生身で宇宙遊泳を楽しめる日が来るなんて思ってもみなかったな。

 って、体がないから生魂か?


 目が覚めた俺の眼前には、青と緑と白のコントラストが美しい惑星が、圧倒的な存在感をアピールしていた。


 どこか地球に似た雰囲気のある星だけど、うっすらと光をまとっていてとても神秘的だ……。

 よし、こんな経験めったにできないし、少し観察してみるか。


 どれどれ……。

 日本に似た形の島があるけど、やっぱり地球とはぜんぜん違うようだな。

 まあ、異世界なんだがら当然のことか。


 お、あの島なんて龍みたいなかっこいい形で、いかにも異世界って感じだな。

 で、物語なら本当に龍が封印されている、みたいなね。

 うん、なんだかテンションが上がってくるな。

 しかし見たところ自然豊かな世界って感じで、あんまり文明は発達していないのかな?


 って、なんだあれは!?

 た、台風にしてはあまりに禍々しい色で、ぞっとするくらいに大きいんだけど……。

 ま、まるで木星にある大赤班だな……。


 頼む、あそこにだけは落ちないでくれよ!


 なんて願っていると何かを発見したのか、俺の魂がすごいスピードで引っ張られ、視界が狭まっていった。


 ……やがて視界が開けると。

 そこには広大な緑の大地が広がっていた。


 これはなんとも壮大だなあ!


 うん、やっぱり文明はあまり発達していないみたいだぞ。

 あ、でもあっちに都市っぽいのがあるな。


 遠くて細部まではわからないけど、昔やったオープンワールドRPGに出てきた、城塞の様な感じだ。


 って、あっちには底も果ても見渡せないくらいの亀裂があるけど、あれはただああいう地形なんだよな?

 女神様の言っていた、邪悪なる者がもたらしたという爪痕じゃないだろうな……。


 うん、きっと風の浸食や地震か何かの跡だ。

 だってそ上では、幸せを呼びそうな可愛らしい青い鳥たちが仲むつまじく――


 バクッ!


 仲むつまじく食べられたよ!

 な、なんかプテラノドン見たいな凶悪な奴に……


 バグウゥゥン!


 うん、今のは気のせいだな。

 見なかったことにしておこう。


 記憶力だけはいい俺の脳に、大地の亀裂から飛びだした、新幹線すらも丸呑みしそうな白い大蛇に捕食される、プテラノドンの姿がインプットされた。


 異世界怖いよぉ……。


 と言うかなんなのここ?

 まるでファンタジーの世界なんだけど。

 俺こんなところで生きていけるの?


 早くもホームシックになりそうな俺であったが、それを無視するかの様に、俺の魂がある一点を目指し高度を下げ始めた。


 ん、あれ人間じゃないか?

 なんだか慌てた様子の人がふたり、そのふたりに囲まれて横たわる子供がひとり。


「○※%! ○※%! #♭△‡#ζ!」


 状況から察するに、川で溺れた息子に心肺蘇生をを試みる父親と、そばで立ちつくす母親。

 まだ年少さんくらいだろうに可愛そうに。

 濡れそぼった銀髪がまとわりついている白磁のような肌は、無機質なアンティークドールを彷彿させる。


 ごめん……。


 俺が悪いわけじゃないけど思わず心の中でつぶやいていた。


 膝から崩れ泣きわめく母親にだろうか、壊れたおもちゃのように、ただただ同じ動作で少年の胸を押し続ける父親に対してだろうか。


 この絵画の様に美しい顔立ちをした少年が、息を吹きかえすことは永遠に訪れないだろう。

 なぜなら俺の魂がこんなに吸いよせられているんだから……。


 ごめんな。

 もっともっと生きたかったであろう君。

 なんの慰めにもならないかも知れないけど、これだけは誓うよ。


 君の両親を悲しませたりは絶対にしない。

 君が安心して空の上から見守っていられるように、君の人生を全力で引きつがせてもらから。


 ふと、何か囁き声が聞こえた気がした。

 それがありがとうって聞こえた気がしたのは、余りにも都合がいい解釈だろう。


 そんな思考を最後に、俺の魂は少年の体に吸いこまれていった。


「ゴフッ!」


 同時に、つっかえていた水を吐きだし、俺はゆっくりと目を開けた。


「グ、グラム! お、おい、エレオノーラ! グラムが目を!」

「あぁ、なんと言うことでしょう……。神よ感謝します……」


 そこには、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら笑みを浮かべる、俺の第2の両親の姿があった。

 そして俺は虚ろな意識の中で、この笑顔だけは絶対に守らないといけないと心に誓った。

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