第12話 コソ泥と魔法使いとマッチョ

 敵が来たっぽいので、まずはダッシュ。

 ボス部屋方面へと向かうけど、人数が少ないようなので、まずはプランBだ!

 あ、ごめん、プランAはないです。なんとなくBとCしか用意してないです。

 だっと走って、角を曲がってそこで待機。そう、プランBはただの待ち伏せである!

 モンスターの位置がわかるって言ってもさ、そんなに正確にわかるのかなってのがあるから、まずは様子見だ。

「げへへへへっ! それで隠れてるつもりかよー!」

 と無茶苦茶下品な感じの男の声が近づいてきた。

 姿を見られる前に移動したはずなんだけど、やっぱり位置は把握されているようだ。

 けどまあ、ここは待ち。

 つーか、声出しながら近づいてくるとか馬鹿なんじゃなかろうか。

 足音が段々と近づいてくる。

 どうやら一人のようだ。大勢で来てくれたほうが爆裂で一掃できるからたぶん楽なんだけど、そのあたりは向こうも考えてるんだろう。

 と、いうことは、相手はタイマン勝負を挑んでくるのか。

 まあ、それはそれでいいのか。とりあえず一人ずつ片付けていけばいいんだし。

 あ、そろそろ来そう。

 ドキドキ。

 角を曲がって男があらわれる。布で顔を隠した盗賊風の男だ。

「な!」

 そして男は驚愕に固まった。

 宝箱、宝箱、宝箱、宝箱、宝箱。

 通路には無数の宝箱が用意されていたからだ。

 もちろん、私は手足をひっこめて普通の宝箱のふりをしている。

 名付けて! 宝箱を隠すなら宝箱の中作戦だ! すみませんね、ひねりがなくて!

 とにかく、地下一階にあるものはなんでも使っていこうと考えていて思いついたのだ。

「くそっ! どいつがミミックだよ!」

 なんとなくそうなんじゃないかなーと思っていたのだ。ダンジョンはブロック単位だから、モンスターの位置発見もブロック単位なんではなかろうかと。

 1ブロックに宝箱が無数にあったら、どれがミミックかなんてぱっと見わかんないはずなのだ!

「って、ステータス見りゃわか――」

「ミミックミサイル!」

「げぼぉ!」

 瞬時に手足を生やし、弾丸のごとく突進!

 壁と私に挟まれて、盗賊っぽい男は無様なうめき声を上げた。

 離れると、男がばたりと床に倒れる。

「もしもーし?」

 ぴくりともしなくなっている。

 うん! 死んでるな!

 まずは一人目だ。

 さて、後はどうする。このまま続行?

 けど、盗賊は大量の宝箱にびびって動きが止まったからいいけど、冷静に解析されたらすぐばれそうだよね。

 一応他にもいたミミックも混ぜてあるんだけど。

「あの、ハルミさん。僕どうしたら」

 ミミックのヨシオくんは不安そうだ。

「じっとしててね!」

 動いちゃうとばれるからね。ま、とりあえずは様子見だ。

 と、そんなことを言っている余裕はすぐになくなってしまった。


 ごうっ!


 いきなり強烈な炎が吹きつけてきたのだ。

「ぎゃー!」

 ミミックのヨシオくんが燃えながら叫び声を上げている。

 あ、熱い! なにこれ! 通路が燃えちゃってるんだけど!

「ほほほほほ。いくらあろうと関係ないのぉ。全て燃やし尽くしてしまえばいいだけのことじゃて!」

 通路にじじいが立っていた。

 振りかざした杖からは轟炎が垂れ流されていて、通路を真っ赤に染めている。

 くそっ! 仲間の盗賊ごと燃やすとはなんて卑劣なじじいだ!

 通路はまさに灼熱地獄ってやつだ。

 なにもかもが真っ赤になって、どこまでも炎の嵐が吹き荒れている。

 なにこれ、あつっ! あつい、あつい! このままじゃ焼け死ぬ……ってあれ? ゆーほどは熱くないような。

 いや、熱いよ? 熱いけど、まあ、これぐらいなら耐えられんこともないよね?

 だったら。

「ミミックメテオ!」

 思いっきり床を蹴って、天井を蹴って、上空からじじいに襲いかかる。

「ぼぎゃー!」

 じじいの頭に宝箱の角が突き刺さる。

 じじいの頭がぐっちゃりいっちゃって、倒れて、杖が手から離れて、そして炎は止んだ。

 けど、ただの宝箱とミミックが耐えきれるわけもなく、全て燃え尽きてしまっていた。

 もちろん盗賊っぽい男も骨すら残っていない。

「うう……ヨシオくん! 仇はうったよ!」

 あー、言いたいことがある人もいるかもしれんけど、これはほれあれだ、死人に口なし!

 じじいの頭が完全につぶれてるのを確認して、私は立ち上がった。

 次の場所に移動しよう。

 と、ちょっと歩いたところで、嫌な予感がして振り向いた。

 じじいの死体がぴくりと動いた気がしたのだ。

 いやいやいや、死んでるよね? 頭完全に叩きつぶしたし。

 ところが、じじいの上体がむくりと起き上がったのだ。

「んんん? え? なんで?」

 ぽけーっと見てると、じじいが立ち上がってしまった。

「ほほほほほ。この程度で死ぬと思われてはこま――」

「ミミックミサイル!」

「ほげぇ!」

 どてっぱらに体当たりを喰らわせる。

 頭つぶれてんのにこいつどこで喋ってるんだろう? と思ったら、それはすぐにわかった。

 お腹だ。

 今、私は倒れたじじいの腹の上に乗ってるんだけど、下でもごもごと動いているのだ。

 興味本位から、じじいの服をまくりあげてみた。

 顔があった。頭にあったのと同じ、しわくちゃのじじい顔がそこにもあったのだ。

 なにこいつ、キモ!

「ほほほほほ。無駄じゃ無駄じゃ。極星のノートン、この程度で死にはせぬ! 喰らうがよい! 究極魔法が一つ、メテオを!」

「え、まずいじゃん。爆裂脚!」

 立ち上がってじじいの顔に向かって蹴りを放つ。もうほとんど踏んでるだけとも言う。

「どげぇ! ちょ、ちょっと待て! メテオの発動には時間が……」

 待つわけないし。ということですかさず跳び離れる。


 どっかーん!


 そして、じじいは大爆発した。

 うん。さっきまでは、ヨシオくんがいたから爆裂脚を使わなかったけど、周りに誰もいないなら気兼ねする必要なんてないのだ。

 さてと、じゃあ、次はと。


 どどーん!


 次のターゲットを迎え撃とうと考えたところで、ダンジョンが大きく揺れた。

 ……ん? ああ! もしかしてメテオが今ごろ降ってきたの?

 つーか、空から隕石が降ってきたって、ダンジョンの中だと意味ないじゃん……じじい、何がしたかったんだよ。

 さてと。

 ここにはもう仕掛けがないので、次に行こう。

 宝箱ゾーンはもう一つ用意してあるのだよ。

 そちらへとささっと移動。さて、また宝箱のふりをして、と思ったら、そこに男がいた。

「へ、変態だー!」

 黒いブーメランパンツだけを履いたムキムキの筋肉達磨が、片っ端から宝箱を壊しているのだ。

「た、助けて!」

「マサシくーん!」

 そこにはミミックのマサシくんを配置していたのだけど、この筋肉モリモリマッチョマンはそちらのモンスター反応に向かっていたらしい。

 そして、筋肉男のストンピングは、他の宝箱と同様にあっさりとマサシくんを踏み砕いたのだ。

「おのれ! ヨシオくんに続いて、マサシくんまで! 許さん!」

「おお! 脚の生えたミミックとはこれか」

 マッチョが宝箱を破壊する手を止めて、こちらをしげしげと見つめてくる。

 くそ! マサシくんの仇だ!

「ミミックミサイル!」

 床を蹴って飛びかかる。血反吐をはいてのたうち回るがいい!

「むん!」


 がしっ!


 へ?

 マッチョはあっさりと私を受け止めていた。

 そして、私を逆さにしてから、高く持ち上げていく。

 ちょ、動けない! じたばたしてみたけど、がっしりと掴まれていてびくともしない!

「パワーボム!」


 どごん!


 マッチョが私を掴んだまま、床に叩き付けたのだ。

 痛い! むっちゃ痛い! くそぉ、なんかぐらぐらする。

 視界が歪んでる。

 大丈夫か? 私? どっか欠けてないか?

 とにかく、手足はまだ動く。

 どうにか手足で這って、この場を離れて――。


 がしり。


 と、マッチョが逃げようとした私の足首を掴んでいた。

「ほう。私のパワーボムに耐えるとは中々の頑丈さ。だが、いつまで持つかな?」

 うわ。

 ちょっとまって!

 マッチョが私の両足をがしりと掴む。

 そして、立ち上がって、ぐるぐると回りはじめたのだ。

「ジャイアントスイング!」

 うわ、目が、目がまわる!

 ぐるぐるぐるぐる!

 何がなんだかわかんなくなって、手をじたばたしたけど、そんなぐらいじゃどうにもならない。


 どごーん!


 さらにわけがわかんなくなって、痛みと吐き気に前後不覚状態。

 気付けば、マッチョから離れた場所に転がっていた。

 つまり、投げつけられて、壁にぶつかって、ここまでごろごろと転がってきたのだ。

「ふむ。多少はへこんだようだ。このまま続ければいけそうだな」

「へ?」

 視線を自分へと向ける。

 歪んでいた。フレームにガタがきてるのだ。意図しなくても、蓋がパクパクと開きそうになっている。

 な、なんじゃこりゃー!

 くそっ!

 油断してた。いや、油断できるほど強いってことじゃないんだけど、これまで攻撃なんて全然いたくもかゆくもなかったから、無敵のように勝手に思ってしまっていたのだ。

 けど。そんなわけはなかった。

 これまでは、ただ敵が弱かっただけということなんだろう。

 よし、落ち着け、自分。

 まだ、負けたわけじゃない。実際、マッチョの攻撃もどうにか耐えている。動けなくなったわけじゃない。

 とにかく、単純にぶつかるだけじゃ、こいつには勝てない。ミミックミサイルもあっさり掴みとる反応速度だ。

 ならば!

「ミミックメテオ!」

 床を蹴り、天井を蹴り、マッチョへ飛びかかる。そして。

「踵落とし!」

 落ちる勢いに加えることの踵落としだ。

「ふん!」

 だが、マッチョは私の右足をあっさりと受け止める。

 しかし、それも想定の範囲内。くらえ。

「爆裂脚!」

 受け止めようと、蹴りは成立している。ならば爆裂脚を発動できるのだ!

 左足でマッチョを蹴り、華麗に着地して再び距離を取る。

 これで、終わりだ!

「ほう。これが爆裂とやらなのかな」

 マッチョは蹴りを受け止めた右手を見ている。やはり事前に調べてきているのだ。

 しかし! だったら、なにをのんきにしているのだね! あと4秒なのだけど!

 3。

 2。

 1。

「ぬん!」


 どかん!


 マッチョの右手が爆裂する!

 爆裂……爆裂してない!?

 どかんって音がしたし、右手からは煙があがってるんだけど、だけどそれだけなのだ。

「ふむ。爆裂属性か。この程度なら押さえ込めるな。使い手が弱くて助かったというところか」

 マッチョは右手を軽く振っている。

 え、ええぇ!?

 なんかマッチョのおっさん、ぴんぴんしてるんですけど!

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