第19話 支配された屋敷
あたし達は綾辻家の前に到着する。あたしの家だよ。
ここまで来れば空に黒い雲が渦巻き、翼を生やした悪魔のようなモンスター達が飛びまわっているのがはっきりと視認できていた。
その中心があたしの家である事も。あたしの家は奴らのモンスターハウスにされてしまったようだ。
今のところは拠点の支配で満足しているようで、モンスター達は門より外には出てこない。あたしは焦って踏み込まずに状況を確認した。
神様がモンスターはあたしの近くに現れると言っていた事を思いだす。あたしが都合がいいから選ばれたとも。
それがこんな近くだとは全く予想外だった。あたしの家じゃん、近すぎるよ、距離0じゃん。都合は実に良いけどさ。
「やるじゃん、聖剣。よくあたしの手に来てくれた。後はあたしがあんたの期待に応えないとね」
あたしは聖剣を手に家にはびこる害虫を駆除するべく乗り込もうとする。だが、門に手を触れる前に横から呼び止められた。
「いけません! お嬢様! 危険です!」
「執事さん」
やってきたのは近くに隠れていたのだろう執事さんだった。この前一緒に旅番組を鑑賞した人だ。
彼は手短にあたし達に事情を説明してくれた。自分がお使いに出ていた間にこうなっていた事、中にはまだ父と母がいる事を。
「パパとママがこの中にいるの?」
「はい、それと使用人も何人か。私ではどうしていいか分からず、陰陽師は呼んだのですが……」
「そんなの待っていられないよ!」
陰陽師がどれだけ役に立つ連中かあたしは知らない。プロに任せるのも手だろう。だが、父と母が中にいるのにのんびり待つことをあたしは選べなかった。
「あんたもあたしと行きたくてここに来たんでしょう、聖剣。この事態を片付けるために」
聖剣が淡く光って答えたような気がした。気持ちは一つだ。あたしは中に踏み込む事を決断する。そんなあたしに天馬が声を掛けてきた。
「中に踏み込むつもりか?」
「あんたは待った方が良いと思う? 陰陽師の強さを知ってるんでしょう?」
「いや、さっきよりも闇が深くなっている。もっと大きな妖が出てくる前に俺達で封じる方が得策だろう」
「あんたでも良い意見が出来るじゃん」
「俺は状況を見て適切な判断を言っただけだ」
あたしには闇の濃さなんて分からない。でも、さっさとモンスターを倒すことに同意してくれたのは嬉しかった。
天馬に続いて美月も前に出た。
「お姉ちゃんには学園のゴブリンを退治してもらったからね。今度はあたしがお姉ちゃんの家のモンスター退治を手伝うよ」
「ありがとう、美月」
今度の敵は手強そうだ。助けがあるのはありがたかった。
「じゃあ、行くよ」
あたしは門を開いて中に踏み込む。モンスターのテリトリーに入った。そんな異質な空気の変化を感じ取る。
奴らの視線が集中してくる。ここはもう魔界だ。
「うわ、ゴブリンより強い気迫がビンビンだね。でも、ここはあたしの家だから。あんた達には退場してもらうよ!」
「キシャアアアアッ!」
正面から向かってくる巨大イモムシのようなモンスターをあたしは聖剣の一撃で切り伏せる。
話で疲れているセラを呼ぶ必要は無いだろう。ここのモンスターを倒す事に疑問は無い。自分達で片付ける。
「破邪滅却! 雷迅札!」
空から掛かってくる翼の生えたモンスターを天馬の雷撃が襲うが、今度はゴブリンの時のように全滅はしなかった。
「奴ら、手強くなっているな。こっちを使うか」
「あたしに任せて!」
天馬が次の行動に移る前に美月が動いた。右手のスティックを高らかに振り上げ、叫ぶ。
「エクスプロージョン!!」
空にいくつもの爆発の炎が広がり、空のモンスターが大分減った。あたしは見上げて感嘆する。
「凄い魔法」
「名前はあれでもただの粉塵爆発だけどね」
「あれが粉塵爆発なのか」
漫画では見た事があるけど実際に見るのは初めてだ。世の中にはちょっとした事で爆発する物がいろいろある。
美月のやっているのはそれを利用した手品なのだろう。彼女は科学の分野にもかなり明るいようだった。さすがは飛び級少女だ。
掛かってくるモンスターを天馬はさらなる術で打ち倒す。
最初は自分一人でやろうと思っていた戦いだけど、今は強い仲間がいる事が心強い。
「付き合ってくれてありがと」
「別にお前の為じゃない。妖を退治するのは陰陽師の仕事だ」
「このまま片付けちゃうよ」
戦いは順調に進み、門をくぐるなり襲ってきた魔物達をあらかた片付け、あたし達はいよいよ屋敷の中へと入っていく。
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