第8話 探偵参上
あたしは剣を持って目標に向かって駆けていく。気づいた天馬が邪魔すんなと言わんばかりの態度で睨みつけてくるがあたしは構わない。
モンスターを倒す事はあたしが神様から受けた正式な依頼なのだから。邪魔をしているのは向こうの方。選ばれたのはあたしなのだ。それを証明する為に剣を振り上げる。
「覚悟! お?」
「ちょっと失礼」
と、いきなり背後から不自然に肩に重く力がのし掛かってあたしはバランスを崩してずっこけた。
「いったあ、何?」
地面に打ち付けた鼻の痛みに顔を顰めながらもすぐに起き上がる。まさか天馬以外に邪魔してくる奴がいるとは思わなくて油断した。
痛みはあるが、これぐらいの事は小学校で遊んでいれば何度でもあった事だ。温室育ちのお嬢様じゃあるまいし我慢できる。
背後からあたしの肩を踏み台にしてジャンプした奴はちょうどあたしとゴブリンの中間の地点に降り立った。
「あれをすぐに倒しては駄目。原因を究明できなくなるからね」
振り返った少女はあたしより年下に見える小さい背丈だったが、同じ制服を着ているということは同じ学校の生徒のようだった。
そいつの事をあたしは知らなかったが、天馬が知っていた。
「笹原美月、奴を倒してはならないとはどういうことだ」
「あのような物が現れたのには必ず原因があるはずよ。その原因を潰さない事には事件の真の解決にはなりえない」
「奴は先兵に過ぎないということか」
美月はこくんと頷く。
その原因が異世界や神様にある事をあたしは知っている。だが、あたしの解決することなんだし、別に教えてやる義理は無い。
それよりも今はあの小憎たらしい天馬がなぜこの小生意気そうな子に気を使っているかの方が気になった。
「あんた、やけにこの子に気を使ってるじゃない」
「知らないのか? この子は理事長の娘なんだ」
「初めまして、理事長の娘、笹原美月と申します」
おや、礼儀正しい。あたしも礼儀を見せるとするか。
「初めまして、綾辻彩夏よ。あの理事長結婚してたんだ」
「もう別れちゃったけどね」
「別れたんだ」
どうでもいい知識が増えていく。
「さっきは強引に止めてごめんなさい。手がかりが潰されそうだったのでつい強硬手段に訴えてしまったの」
「あれはもういいの」
あたしはそんな事よりもあの天馬が権力に弱いことの方が気になった。
その思いが視線で伝わったようだ。彼はすましたまま取り繕うように言った。
「俺を権力に弱いと思うな。陰陽師の活動はその土地の所有者の許可を得なければしてはいけない決まりになっているんだ。俺の態度で理事長の機嫌を損ねるわけにはいかない。ただそれだけの話だ」
「勝手に悪霊退散しちゃいけないんだ」
「そうだ。だが、事は急を要する。ちょうどいい、美月。お前から理事長に許可を取ってくれ」
「了解。パパはあたしの言う事なら何でも聞いてくれるからここで許可を出すよ。でも、ここからはあたしに従ってもらう。それが条件だよ」
「いいだろう、依頼主はお前だ」
「じゃあ、まずはあいつを追い立てるよ」
美月はそう言って手に持ったステッキをゴブリンに向けた。どうするのかと思っていたらそこから煙が噴き出してゴブリンを包み込んだ。
まるでマジックのようだ。あたしはちょっと感激した。
食らったゴブリンはせき込んでたまらず逃げ出した。
「ちょっと強めの殺虫剤よ。あいつの後を追いかけてアジトを突き止める」
「やるわね。あんた、マジシャンなの?」
「魔術はただの手慰み。あたしの目標は探偵だから」
「探偵か」
中学校にはいろんな奴がいるものである。あたしは改めて小学校とは違うんだなと意識した。
陰陽師が先を急かしてくる。
「奴を追いかけるなら急ぐぞ。見失わんうちにな」
「分かってるわよ」
「お前に言ったんじゃない。笹原に言ったんだ」
「それも分かってる!」
あたしが怒鳴ると美月が面白そうに笑った。こいつ意外と可愛い顔も見せるじゃない。
理事長の娘か。覚えておいてもいいかもしれない。
ともあれ、あたし達はゴブリンの住処を見つける為に走って後を追いかけるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます