第7話 学校に現れたモンスター

 今日は朝きちんと起きられたので慌てず騒がず落ち着いて学校への道を歩くことが出来ていた。途中で変なスライムとかとも会わなかったので進路を阻まれることもなかった。

 それを物足りなく思ってはいけない。大切なのはむしろ学校に着いてから。一番の学校ならきっと授業も厳しいはずだからだ。

 そう気を引き締めつつ学校に着くと、校門前では生徒達が足を止めて何やら騒いでいた。

 今日は理事長に特別一番に呼ばれたわけではないので他の生徒達の姿もあったのだ。

 何があったんだろうと思ってもあたしにはここに気安く声を掛けられる知り合いがいない。

 別に友達を作るのが苦手というわけじゃないよ。昨日入学したばかりなんだから知らない人ばかりなのは普通のことだ。きっと多分。

 あたしは新入生としてはナンバー1でもまだ入学したばかりなので自分の分は弁えている。

 そっとみんなの迷惑にならないように後ろから覗いて見ると何やら木の棍棒を持った緑の小鬼のような人? が校内の敷地にいるのが見えた。


「あれってゴブリン?」


 あたしは本やゲームの知識からそう推測する。昨日はスライムが現れたので何も不思議な事ではなかった。

 周囲の人達は違う意見を持っているようだ。そっと中にいるゴブリンの気を引かないように小声で囁き合っている。


「あれはきっと変質者よ」

「先生を呼んだ方がいいかしら」

「それより警察を呼んだ方がいいんじゃないか」

「大事になるとまずいと思うぞ」


 あたしも同感だ。相手は異世界の存在だし、大事になるとこれからの学校生活に支障が出る恐れがある。

 最悪、しばらく学校が休校になるかもしれない。冗談ではない。

 あたしは一番になる目的をもってここへ来ているので、休めてラッキーと思える側の人間ではなかった。

 ここにはなかなか頭の切れる生徒達がいるようだが(状況がパニックになっていないのが賢い証拠といえるね。余計な騒動を起こさない人をあたしは評価している)、解決できそうな人はいないみたい。

 あたしが片付けるしかないか。昨日スライムを倒しているし、神様から事情も聞いている。

 聖剣を持っていないが、人と背丈の変わらないゴブリンぐらいは殴れるだろう。問題は相手がどれだけ武器を扱えるかだが……

 凶器を持っている相手を軽く見るほどあたしは愚かで向こう見ずな人間ではない。こればかりは戦ってみないと分からないか。

 そう状況を伺いつつ踏み込もうとした時、背後から肩を掴まれて止められた。振り返ると昨日知り合ったばかりのナンバー2の少女がいた。


「綾辻さん、危ないから止めた方がいいよ」

「ええっと、あなたはナンバー2の……」

「和泉京だよ」

「そう、それそれ」

(綾辻さんって本当に自分の興味のある事しか覚えないよね。でも、頑張るから)


 あたしはエスパーでは無いので京の考えている事なんて分からない。ただ心配しているのは伝わってきたので安心させてやる事にした。

 未来の支配者として民の不安は取り除いてやらないとね。


「あんなのただのコスプレ好きの変態でしょ。大丈夫だって」

「さっき男子が一人近づいて病院送りになったのよ。不用意に近づいたら危険だよ」


 それでみんな遠くから見ているのか。謎が一つ解けたところで。


「その男子って……」


 あいつか? と思ったが違っていた。奴は五体満足の風体で現れた。


「そいつの言う通りだ。素人は下がって見ていることだな」

「あんたならやれるっていうの? ええっと……」

「黒井天馬だ。お前、自分が出来ると思っているわりには頭が悪いよな」

「違う。これは昨日いろいろあったから、いろいろ抜けていっただけで。頭が悪いわけでは断じてないよ!」

「綾辻さん、昨日いろいろって何があったの……?」


 心配そうに見るナンバー2はあたしの眼中にはない。あたしはただ同着ナンバー1のいけ好かない野郎を睨みあげた。

 彼はただ涼し気に鼻で笑って荷物を下ろした。


「俺達はお前達のような素人とは違う。あのような妖を倒す為に修行を積んでいるのが俺達の家系だからな」

「妖? モンスターじゃなくて?」


 昨日もスライムを妖とか言っていたけれど。

 神様から事情を聞いているあたしには「?」しか浮かばない。

 彼はただ小馬鹿にしたように言った。


「これだから素人は。現実をゲームと勘違いしているんじゃないのか? あれは古くから国の裏で跋扈してきた魑魅魍魎、妖怪の類の物だ」

「いやいやいや」


 あれはどう見てもゴブリンだ。神様だって事情を説明してくれた。だが、それを軽々しく話すのは相手を利するだけだろう。

 考えるあたしの態度を彼は少し不審に思ったようだが、気にせず自分の行動を続けた。鞄から数枚の紙のような物と長い六角棒のような物を取り出した。


「あれを祓うのは俺達陰陽師の仕事だ。お前達はただここでアホ面下げて見ていることだな」

「ちょちょちょ、ちょっとー」


 俺達陰陽師って何よ。話す隙も無く彼は猛然とダッシュしていく。

 敵が一撃で倒されたら困っていたところだったが、天馬が振り下ろす六角棒をゴブリンは棍棒で受け止めてなかなかいい勝負をしていた。

 苦戦というよりは相手の実力を計っているだけに見える。いつ「フッ、この程度か見切ったぞ」と言ってゴブリンが倒されるかあたしはハラハラして見ていたのだが、周りはそうでもないみたい。


「天馬君に任せておけば大丈夫そうだね」


 京が言ったようにそんな緩んだ空気が出ている。

 やれやれ、ナンバー2は呑気でいいな。このままだと奴がナンバー1だとこの場のみんなが認めそうだというのに。

 みんなはそれでいいのだろうか。あたしは良くは思わなかった。

 活躍して点を稼がなければ同点1位のあいつに差を付けられてしまう。

 素手だがやるしかないかとあたしが前に出ようとしたその時、空から声が降ってきた。


「彩夏様、聖剣を取り戻してきました!」

「ナイス!」


 蝶の羽をはばたかせてセラが投げおろしてきた焼け焦げた棒をあたしは片手で受け取った。

 あたしの望みに答えて聖剣が真の輝きを取り戻す。

 これで奴と戦える。お互いに武器を持っていれば条件は同じ。

 いくらあたしでも武器を持った相手に素手で挑むリスクぐらいは知っている。

 考え無しに突っ込むのはただの鉄砲玉だ。冷静に状況を見れてこそナンバー1なのだ。

 セラはすぐに状況に気づいたようだ。


「あわわ、もう次の魔物が現れてるじゃないですか。あれはゴブリンです。弱いと思われてますが結構強いですよ」

「情報サンキュ。すぐに片付ける」


 あれはやはり妖や魑魅魍魎や妖怪ではなくゴブリンだった。

 倒すべき敵の正体を確信したあたしは向かっていく。自分がナンバー1だと証明する為に。

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