嘉穂鉄道~あの路線が廃止されていなかったら~

エルムのツッコミ担当

第1話

 新飯塚駅を満員で発車した1両の気動車は、まもなく終点の上山田に到着しようとしていた。

<ご乗車、ありがとうございました。まもなく終点の、上山田、上山田に着きます。お出口は前方右側です。お忘れ物をなさいませぬよう、お気をつけください。熊ヶ畑、豊前川崎方面はお乗り換えです。本日も嘉穂鉄道をご利用頂きましてありがとうございました。>


 列車は勢いよく終点の上山田駅に入線した。上山田駅は嘉麻市の代表駅で、2面2線の立派なホームを持つ。ドアが開くと、駅員がアナウンスをかける。

「上山田~、上山田でございます。熊ヶ畑方面、豊前川崎行きはホーム変わりまして、2番線からすぐの連絡です」


 俺は改札を抜け、自転車で帰路に着こうとしている。さて、俺の名前は田中颯大。県立飯塚高校(飯高)2年生。毎日、上山田線を使って通学している。


 俺の家は、市役所に程近い古びた団地の中にある。この団地に住む人は皆顔馴染みである。早速、隣の部屋に住むおばあさんが話しかけてきた。

「颯大くん、今帰りかえ?」

「はい、そうですよ」

「早いのぉ、美南はまだ帰ってきとらんのに」

「飯高は今日まで試験期間なので、部活が無いんですよ。山高は来週って今朝美南から聞きましたよ」

「あの子、そんなこと言ってたんだねぇ、まあ、勉強頑張りなさいよ」

「どーも」

このおばあさんは、僕の幼馴染であり、地元の山田高校に通う佐藤美南の祖母。近年はほぼ毎年定員割れしているが、著名人を多数輩出している名門校だ。地元では略して山高と呼ばれている。


 自室に戻ると、スマホが鳴った。噂をすれば美南からだった。

「もしもし~?今って暇だった~?」

「いや、暇ではあったけどさ、珍しいな」

「あのさ、ちょっと聞いてよ、明日、練習試合で飯高に行かないといけないんだけどさ、全然場所知らんから連れて行ってもらいたいんだけど」

「別にいいよ、どうせ明日課外あるし」

「じゃあ、よろしくね~」

美南はそそくさと電話を切った。

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