超絶ネガティブ魔女と楽観的フリーダム冒険者の絶景巡り旅

笛希 真

落雷の塔

塔の噂


 落雷の塔。


 それは広大な国土を有するウィギドニアにある塔の名前だ。その塔は、国の北西に位置するカーパという小さな町から、東へ1時間ほど歩き続けた原っぱにぽつんと建っていた。


 高さは100メートルほどあるだろうか。周囲には他になんの建物もないので余計に高く見える。たもとから見上げると、塔が空に突き刺さっているように感じるほどだった。

 外観は真っ白で、海岸沿いに建っていれば灯台のような見た目だ。木でできた大きな扉がひとつあり、一見したところ出入り口はそれだけである。


 人々から落雷の塔と呼ばれるようになったのは、1年ほど前にこの塔が突如現れたことが由来だった。なにもなかったこの場所に、誰も気づかぬ内にいつの間にかこんなにも高い塔が建てられていたので、天から落ちてきたのではないかと思われたのだ。

 しかし、この塔が建ったからといって、その周辺でなにか特別変わったことがあったわけでもなかった。そのため、誰がどんな目的で建てたのかは未だに謎のままであった。


 そんな不思議な塔の噂はじわりじわりと広がっていき、ウィギドニアに存在するいくつかの冒険者ギルドの耳にも入ることとなる。その結果、謎を解き明かそうと、この1年で何人もの冒険者達が落雷の塔の調査に入った。しかし、未だに塔の最上階までのぼり詰めた者はひとりもいなかった。

 というのも、落雷の塔の中には凶悪なモンスターこそいなかったのだが、様々な罠や仕掛けが施されていたのだ。罠といっても直接的なダメージを与えるものは少なく、落とし穴や麻痺などの状態異常を引き起こす魔方陣などがほとんどだったのだが、その配置が絶妙で並の冒険者では塔の中腹までたどり着くのがやっとといったところだった。


 人間というのはどうなっているかわからないものを目の前にすると、様々な妄想をしてしまうものである。いっぱしの冒険者ですら途中で挫折してしまうほどの迷宮ということで、落雷の塔の噂は尾ひれがついて大きくなっていた。


 最上階には麗しい姫君が捕らわれているのではないか。


 頂上には金銀財宝が眠っているのではないか。


 これは天界からの試練で、踏破すると神様からなにかしらの恩恵が受けられるのではないか。


 なんの根拠もない憶測ばかりであったが、いずれにしても塔のてっぺんにはなにか特別なものがあると誰しもが考えていた。だからこそ、落雷の塔に挑戦する冒険者は後を絶たなかった。


 そしていま、そんな難攻不落の塔に、新たにひとりの冒険者が挑もうとしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る