過保護な女神と異世界転生して勇者に成ったらとっても楽だが楽しく無い冒険の幕が上がった。

山岡咲美

第1話「過保護女神と異世界転生勇者」

「課金アイテムですか!!」

 真っ昼間からモンスター蠢く森で僕の突っ込みが炸裂する。


 いや実際課金される訳では無い、それくらいのチートアイテムを目の前に居る女神が僕にそれを渡そうとしているのだ。


「でも勇者様これがあれば簡単にこのダンジョンのボスを倒せますわ」

 彼女…いや?女神を彼女って表記するのは正しいのか?かの女神?それとも女神自体が彼女としての意味になるのか?…。


まあいい、彼女、女神[溺愛神できあいしんかほこ]はあろうことか僕、[伊勢いせカイ]に明らかにオーバースペックのアイテム[魔王バスター]なる大剣を渡そうとしていたのだ。


「あのね、かほこさん、ここは最初のダンジョンなの!敵はただの[ゴブリン]何でそんな強力な武器装備しないといけないの?」

 魔王バスターは僕の背丈165センチメートルほどの大剣で刃には3つのひし形状の突起が並んであり何だか魔力の有りそうな赤、青、紫3色の宝石が埋まっていて、柄の部分はまるで闇の王、魔王の王冠かって感じの鍔と持ち手の底にドクロと言う禍々しい有り様のものだった。


「あの、かほこさん?これって魔王から奪って魔王倒す系のアイテムだよね…」

 ずしりと重いその大剣はLv5の勇者には不釣り合いな武器だった。


「ですがゴブリンって結構狡猾で危険ですわ、それにそれが有ればチャッチャとこのようなダンジョンクリア出来て次に進めますの」

 何だか女神がごねているが僕はそれを無視してショートソードを装備した、最初の村で「ゴブリンを退治してくれるなら」とその村で一番の武器を勇者として天から現れた僕に贈られた物だった。


「勇者様そんな小さくて魔力も無い武器なんて危ないですわ」

 かほこさんは過保護すぎる、絶対僕はゴブリンなんかに負けるわけがないのに。


「え?ゴブリンなめすぎ?某小説では結構な危険生物だった?狡猾で?数に任せて来て?いろんな武器も使いこなす?」

 まあ知ってますよ、僕だって僕をこの世界[アシステッド]に導いたのがこの女神様じゃ無ければにもなりますよ。


「誰とお話してますの?」

 女神かほこはぶつぶつと言ってる僕に腰を折り下から見上げる、彼女の方が背が高い、そして可愛い系お姉さんだ。


「いえね、僕がゴブリンなんかに絶対負けるわけがないって話ですよ」

 僕は油断でも何でも無くそう確信していた。


「勇者様、この世の中に絶対なんてありません、どうかこの剣をお持ちになって下さいませ」

 確かに女神の言う事は正論だ、この世に絶対って事は無いのかもしれない…しかし僕は目の前にある洞窟、ゴブリンの巣窟と化したダンジョンに何の恐怖も感慨も湧かない。


 何故ならば。


「あのね、かほこさん…これLv5のパラメーターじゃないんだよ!村を出て直ぐ気付いたよ!最初の[暴力ウサギ]ってモンスターあっさり倒せて、次ぎに出て来た[はぐれ狼]一撃だった時だよ!かほこさん僕にステータス画面あるって教えなかったよね、見て驚いたよ、なにこの999,999,999,999ばかりあるステータス画面?9千億って!Lvもはや関係無いよ!無敵だよ!暴力ウサギ倒せてザコモンスターかって思ったけど実ははぐれ狼の方が強かったよ!僕が強すぎてモンスターの強さの差が分かんなかったくらいだよ!」

 僕はパラメーターに対する不満をぶちまけた。


「ですがわたくし何せ女神でしょう?転生された方の強さなどいくらでも変えられますの」

 この女神、見も蓋も無い事言い出したよ。


「かほこさんは取りあえず他の女神が異世界転生させる系小説全てに謝ろうか…」

 きっと彼女は小説においてやってはいけない事をしているのだ、このパラメーターのせいで異世界冒険ファンタジーが台無しだ。


「????、どうしてですの?」

 ダメだ天然だ!


「はあん、これどうしょう?多分ショートソードなんて無くてもグーパンで倒せるよ…イヤ、もしかしたらゴブリンくらいならデコピンでも倒せるかも?」

 最初の村の人たちが村一番と称した[なまくら]を見つめ僕はため息をついた。


「でも行くしかない…例えチート上等の課金プレイヤーだったとしても、女神が見も蓋もないゲームバランスぶち壊し女神だったとしても、村人がゴブリンを恐れる生活を強いられている事実は事実なんだ、僕が勇者としてこの世界に転生した以上、その責務はまっとうしないとな……はあ」

 僕は暗い洞窟へと入る為に村人のアドバイスで作った松ヤニの松明たいまつに火を付けようとして洞窟の前から奥を見て気づいた。


「めっちゃ暗闇に目が聞くよ!めっちゃ見える!何か光源が無いから奥の方は影も出来ないし逆に外の光景より見やすいよ!」

 僕は洞窟の奥までくっきりクリアに見える事に対し女神を恨みがましい目で見つめる。


「暗いところで闘う時に便利かと思いまして、勇者様の目にはナイトアイの効果を付与しております」

 この女神、僕が松明作ってた時何を考えていたのだろうか?


「うら!!」

 僕は苛立ち渾身の力で松明を洞窟目掛け投げつけた。


?、??????????…!?。


「松明が?」

 松明が消えた、イヤ松明は僕が投げつけたショックで…イヤ投げつけたスピードが多分音速を2つ3つ?4つ5つ??10?20?取りあえず空気の壁にぶち当たり圧縮熱で高温となり燃え尽きたらしい…。


「かほこさん?」

 僕は洞窟のあった方向を指差す。


「勇者様流石ですわ♪この様な方法でゴブリンを倒されるなんて♪♪」

 僕にはそんなつもりはなかった。


「僕、松明投げつけただけだよ!何で?松明が燃え尽きた時の熱?それとも松明がソニックブームでも起こした?」

 そして僕は自分の手を見つめ気付く。


「勇者様の腕が作り出した衝撃波ですわ♪」

 女神は手の平をポンッと叩き笑顔で僕を見つめた。


「ダメだどうしょう、この小説で胸踊る冒険をお見せする自信が無いよ…」

 僕は崩れ落ちた洞窟、ご免なさい、僕は吹き飛んだを見つめ、この世界は簡単に救えるだろうと一瞬にして思ったが、もしかして僕がこの世界の破壊者に成るかもと背筋が凍り付いた。


「……かほこさん何をしてるの?」


「この世界を救いに来た女神ですから」

 女神は土の平原と化し地に加護を与え、豊かな草木の生い茂る大地へと変えている…。



「アフターケアも万全かよーーーーー!!」



 僕は静かな笑みと共に思った…もういい、好きにしてくれ。

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