残念ハーレムの作り方

笛希 真

プロローグ



 ハーレム。


 ひとりの男に対し複数の女が集まり生活すること。

 それは男にとって夢であり、憧れである。

 とはいえ、この現代日本でハーレムを築き上げるというのは至難の業といえるだろう。だからこそ大抵の男達はハーレム漫画やラノベを読んで夢想したり、バランスが悪いとわかっていてもRPGで主人公以外のパーティーメンバーを全員女の子にしたりして疑似ハーレムを楽しむ。


 もちろん、おれこと千影ちかげ光一こういちもそんな大抵の男のひとりだ。――いや、おれの場合は夢や憧れなんて願望じみたものではない。おれは自分のハーレムを作ることを人生の確固たる目標として掲げていた。


 だが現実は厳しい。おれはその目標のために女の子に優しくしてきたし、見た目にだって気を遣ってきた。それなのに……それなのにだ! 悲しいかな、おれは高二になった現在もハーレムどころか彼女のひとりすらできたことがない。


 彼女を作るチャンスはあった。やはり普段から優しく接してきた成果なのだろうか、女の子に告白したことはもちろん、女の子から告白されたことだって何度かある。

 ただ、おれが作りたいのは彼女じゃなくハーレムなのだ。ひとりの女の子だけじゃなく、みんなに愛されたいのだ。

 女の子達はさっきまでは目を潤ませ頬を染めながら「好きです、付き合ってください」って言ってくれていたはずなのに、おれがハーレムの夢を語った瞬間に軽蔑した目に変わり酷い言葉を吐く。「キモい」「最低」「女の敵」あとはストレートに「死ね」と言われたこともあったか。


 ……ああ、思い出したら涙が出そうになる。なんでなんだろうか? なぜ理解されない? おれはハーレムの夢を語るたびに人々から白い目で見られてきた。その度に傷つき、くじけそうになった。


 だが、おれは諦めるつもりはない! ハーレムはおれの幼い頃からの目標なんだ。そう簡単に諦められるはずがないじゃないか!


 諦めていないからこそ、自宅から電車で2時間もかかるこの神社にわざわざ来たのだ。おれはお賽銭を投げ入れると、ガラガラと鈴を鳴らしてから柏手かしわでを打つ。


 ――どうかハーレムを作れますように。……ついでに、学校の成績もあがりますように。


 正直、最近は自分の努力だけではハーレムを作るのは難しいのではないかと考えていた。どんなにおれが努力しても、ハーレムを理解してくれるかなんて結局は相手次第なのだ。

 だからこその神頼みだった。努力でダメなら運で成功させようと考えたわけだ。この神社は縁結びで有名らしいし、参拝を済ませたら、なんだかハーレム運がグイグイと上がってきたような気がする。


「待ってろよ、ハーレム!」


 おれは決意を込めてそう叫んでいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る