第21話 友達と彼女
自分自身、それが茨の道だって事は理解している。出会いは最悪、多少仲良くはなれた気はするもののイメージというのは簡単には変える事はできない。
現に清水さんが、いい例だろう。
小柄で、可愛らしい清楚な見た目の彼女。多分最初から今みたいに接していたなら恋していてもおかしくはない。
だけどそういう感情を持てていないのは、出会った時の印象が有るからなのだろう。
「優の服の感じって、女の子の物もあるの?」
「まぁ、ジャンルで言えば近い物はあるかな?」
「そしたら今度そういうお店に連れていってよ」
千佳が俺の服に興味を持っていたのが少し意外に感じた。どちらかと言うとギャルとかそういった服が好きなのだと思っていたからだ。
「いいけど……千佳はイメチェンでもしたいのか?」
「うーん、なんとなく? 少し落ち着いた感じにもしたいなって思って」
「まぁ、そういう事なら任せてくれよ」
「たっのもしーっ!」
そういうと、彼女は嬉しそうに笑う。
俺もなんとなく、服装を褒められているみたいで悪い気はしない。
これでいい。
俺と千佳はそれでいいんだ。
自分の選択。別に取られるわけでも、付き合える見込みがあるわけでもない。
そう言い聞かせる様に、何気ない談笑を繰り返した。そして、そのまま解散する。
その日の帰り道、千佳は寄るところが有るからと店を出て直ぐに帰った。
もしかしたら、俺と清水さんを2人きりにする為なのかもしれない。だけど、千佳が見えなくなると、彼女は言った。
「長坂くん……良かったの?」
「何がだよ……」
「千佳の事、好きなんでしょ?」
返答に困る質問。清水さんに知られたところで、何かが変わるわけでもない。
「どうだろ?」
「そうやって隠す……」
「まぁ、気持ちとしては好きだぜ?」
そういうと、彼女は何とも言えない笑顔をみせて言った。
「ねぇ、これから空いてる?」
「まだ、そんなに遅くは無いけど……どこか行きたい所でもあるのか?」
「うーん、なんとなく」
「なんとなくかよ……」
すると、彼女は俺の自転車の後ろにひょいとまたがる。
「自分の自転車に乗れよ?」
「今日ね、歩いてきたんだ……家近いし」
バイト先の近くという事は、清水さんの家もある程度は近いというのはなんとなくわかる。
なぜなら、清水さんのお母さんが歩いて来ているのを知っていたからだ。
「それで、2人乗り……ね……」
「可愛い子を後ろに乗せられるとか幸せでしょ?」
「なんか、千佳みたいなこと言うんだな」
そう言って、仕方なく自転車に乗ると、清水さんはそっと手を回した。
「この荷台って2人乗りする為でしょ?」
「まぁ、その為にママチャリにしてるのだけど」
「やっぱり?」
「清水さんは2人乗りとかよくするのか?」
俺がそう聞いても、返事をしなかった。何か気にさわる事でも言ったのだろうかと彼女を呼ぶ。
「清水さん?」
「……ねぇ、なんで千佳は千佳で私は清水さんなの?」
「いや、あいつがそう呼べって言うから……」
「じゃあ、純って呼んだら?」
「なんで疑問形なんだよ……」
とりあえず、行く場所がわからないから、近くの公園に自転車を走らせる。
「じゅ、純……」
「なに?」
「いや、なんかお前って名前と見た目が一致しないよな……」
「どうして?」
「女子力全振りみたいなくせにイケメンみたいな名前じゃない?」
「それ、嫌われるからあんまり言わない方がいいよ?」
確かに名前はそれを言ってなんなんだという事にもなる。それからじゅんは言い返す様に続ける。
「それなら優も女の子みたいだよ?」
「あー、それ昔はよく言われた」
「やっぱり? 私もいわれたんだよね」
意外な共通点をみつけた。
あれ? こいつってこんな奴だったっけ?
そう思いながら、名前の話で盛り上がる。
区切りのついた所で、純は言った。
「やっとお互いの話題になったよね」
「どういう事?」
「優と話すときはいつも千佳がーって話してるから……」
「うっそ。そんなに?」
「うん……」
「なんか、ごめん……」
自分では気付いていなかった。知らぬ間に千佳の事を話していた事に衝撃を受ける。
「別にいいけど、好きなのバレバレ」
耳に熱を感じる。多分赤くなっていると思う。ちょうど公園の屋根のあるベンチに着いて自転車を止めた。
「でも、付き合いたいとかじゃないんだ。なんか、近くには居たいんだけど……千佳だけに」
「それ、あの子に言ったら蹴られそう……」
ふと、千佳の技を思い出し寒気がする。
「それは怖いな……」
「でも、それってどちらかと言うと由紀に似てるかも?」
「由紀って、浅井さん?」
「うん、あの子の恋愛感は付き合いたいとかじゃなくて近くに居たいとか話したい所から始まるからね」
「そうなんだ?」
「そう、追っかけ気質?」
「なるほど……」
俺はそのままベンチに腰をかけると、自然に純も隣に座る。
「コンビニでも寄ればよかったかな……」
「別にいいよ。太るし」
やっぱり体型とか意識してるんだな。そう、思ったけどまた突っ込まれそうで口にはしなかった。
夕方の少しづつ変わる光の変化が幻想的にみえる。隣に居る純にも同じ物が見えているのだろうか?
こういった一緒に過ごした時の一つ一つが、思い出となって自分の中に積み上がって行く様に思えていた。
少し暗くなりかけた時、純は言った。
「優はさ、どんな子がタイプなの? やっぱり千佳みたいな子がタイプ?」
「意外かもしれないけど、顔はともかくあの雰囲気は好みとはかけ離れてるぞ?」
「そうなの?」
「元々好きだったのは、もう少し落ち着いた感じの子だったからなぁ……」
純は少し俯き、手を膝の前で握る。
「じゃあ、私は?」
「あー、タイプで言えば純の感じはだいぶ好きだな……お母さんの時点で若い頃絶対かわいいって店でも店長と話してたからな」
そういうと、純は立ち上がって自転車の方に歩き出した。
「そろそろ帰るのか?」
日がほとんど沈みかけ、そろそろ星が出て来るような空。周りも大分暗くなっていた。
「純?」
自転車の荷台に手をかけ、背中を向けたまま黙る純に声をかけると、純は呟く様に言った。
「優さぁ、そのままギュってしちゃいなよ」
「え? なんの話だよ」
「好みの子を彼女に出来るチャンスだよ?」
純が少し震えている様にもみえる。
「彼女にって……」
「もう、私でいいよね?」
彼女の雰囲気から、冗談ではないのだと思った。
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