第20話

 お店が終わると村尾さんとパチンコ屋さんへ行くようにもなった。月の電話代が極端に減ったため、経済的に余裕が出来た僕は一回五千円までと決めて村尾さんのパチンコ遊びにも付き合う。森川さんは村尾さんに、小沢君を悪の道に誘うなと言ったけれど、僕は格好をつけて森川さんに、男の付き合いだから先に僕の自宅に行って待っていてと言って。もう僕は森川さんに自宅の合鍵を作って渡していた。森川さんが僕の自宅に泊まるのも頻繁になっていった。森川さんが、お父さんが小沢君の電話番号を書いたティッシュペーパーの箱をいつまでも持っていると言った。それは別にいいけれど責任を取れと言われる日が来るならちゃんと就職をしないといけないと僕は思った。パチンコもボーダー回転数をしっかりと把握して大当たり確率の高いナナシーのものすごく回る台を打っていると勝つことの方が多かった。デートではお金は男が払うものだと古くて固い考えも僕は持っていたので森川さんとのお付き合いでは必ず僕がお金を払った。三人だと村尾さんが全部奢ってくれる。それでも森川さんは家から食べ物や生活用品、お兄ちゃんのおさがりと言って着るものだとかを僕にくれた。仕事の後にパチンコをして、女の人にうつつを抜かして、すっかりだらけ切った生活を送るようになった僕に、キリヤ堂のみんなは変わらず小沢君募金箱に食料を入れ続けてくれた。そりゃあ、僕は弁当生活も続けていたし、外食も森川さんのデートでごく稀にするぐらいで自炊も続けていたし、休憩室でジュースを自動販売機で買うこともなかったし、煙草もハイライトを吸い続けていたけれど。時給八百円の僕の青春。ある日、村尾さんに言われて二階のフロアを離れ、台車に重い生地をたくさん載せて裏口からキリヤ堂の中に運び込もうとした。ふと、空を見上げた。太陽がまぶしかった。僕はその時、もう死ぬまで今のままが続けばいいと思った。死ぬまで時給八百円でいいと思った。森川さんと一緒に暮らせばお金だって二人分の給料だから今より贅沢だって出来る。キリヤ堂の人たちが僕は好きだった。僕にいつまでも変わらず優しく接してくれるみんなが好きだった。正社員だとかアルバイトだとかどうでもいいと思った。もし、理由を聞かれたら僕は即答するだろう。太陽がまぶしかったから、と。

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