第177話 さてと、国境を固めるのは大事な仕事です。

前回のあらすじ:トリトン陛下とリトン公爵が余計なことをしてアイスに怒られた。



 アバロン帝国の使者達がこの町を出てから数ヶ月経った。私も15歳から16歳になったようだけど、正直ようやくか、と言ったところかな。以前いた世界から転生して1年足らずで、今の状態に再び転生したのだけど、正直また1年経たずに転生するかも、という思いは抱いていたけど、そんなことはなく1年が過ぎた。振り返るとあっという間だけど、非常に濃い1年だったというのが正直なところ。


 あの後だけど、私の書状のみならず陛下直々の書状に加えて、お土産もつけてあげたこともあり、アバロン帝国からはちょっかいをかけてくることはなかった。とはいえ、今後についてはどうなるかはわからない。別にこっちは向こうにこれっぽっちも興味がないんだから、放っておいて欲しいのが本心である。ガブリエルからも特にアバロン帝国が何か企んでいるという情報は来ていないようだ。一応アインやラヒラスに逐一報告はしているようだ。


 そういえば、ドサクサに紛れてトリトン陛下やリトン公爵達が、フロスト城内に執務室というたわけたものを作らせていたようだったけど、城主命令で破却し、今は我が領のペット達の遊び場用のスペースとして利用することに決まった、というか決めた。ただ、あの2人の様子を見ると、全く懲りていない感じだから、今後も何をしでかすか目が離せない状況だ。


 アバロン帝国がこちらに対してちょっかいをかけなくなったので、平穏無事かと言うと、どうやらそうではないらしい。我がトリトン帝国は、主に2つの国と隣接していたが、その1つであるタンヌ王国とは蜜月な関係となっており、その影響で隣接する国が3つとなってしまった。ちなみにその1つはサムタン公国なんだけどね、、、。


 何でサムタン公国と隣接することになったのかというと、先程言ったタンヌ王国と蜜月な関係となってしまったことに起因する。というのも、同盟を結んだ際に、サムタン公国につながる街道をトリトン帝国に割譲する形となったようだ。正直いらないんですけど、、、。しかも、私がフロスト領の領主である場合のみ適用されるとか非常に意味がわからない内容となっているらしい。もう一度言おう、いらない、と。


 そんな訳で、現在トリトン帝国は3つの国と国境を接している状態なんだけど、残りの1つはメルヘン王国というらしい。そのメルヘン王国に隣接しているのが、リトン公爵が直接統治している領地で、現在はリトン公爵の御長男が領主代行をしており、御次男が補助をしているそうだ。ちなみにリトン公爵には4人のお子様がいらっしゃるそうで、男2人、女2人の構成となっているそうだ。ご子息といっても、みんな私よりも年上なんだけどね。そんな人達を差し置いて私が侯爵って、、、。


 一応中身は47ではあるけれど、身体的には若干16歳の若造である。しかも、別に以前いた世界ではいいご身分ではなく、ぶっちゃけ1モブの存在だったのである。そんな存在である私が、私よりも人生経験豊富な方達を差し置いて、こんな身分でいいのか? と、リトン公爵に話したことがあるのだけど、むしろ、そっちで統治の勉強をしたい! とか言われて困ったらしい。いや、そっちで領主としての経験をした方が絶対勉強になりますよ。何せこの地は文字通り一から開拓やら何やらしてきた場所だから、完全に私好みの作りとなっているから絶対に参考にならないって。


 で、何でいきなりこんな話になったかというと、そのメルヘン王国からスパイのような人物が送り込まれてきたらしい。というのも、今まで世界最貧国とまで言われ(しかもそれが事実だったので何も言えない)ていた国がここ最近、類を見ないほどに活気にあふれている状態なので、一体何があった? ということらしい。


 で、その原因を探ろうと、何やかんやで帝都に送り込まれてきたようだ。で、それを探知したのが帝都の諜報部隊のようだ。トリトン帝国にもそんな部隊あるんだと本気で感心してしまったよ、そのときは。だって貧乏じゃん?帝国。国土は貧しいけど、帝都では税率が元々低かったらしいので、余計に金ないじゃん? そんな状況下で諜報部隊なんてできるはずないし、あったとしても、なんちゃってでしょう?


 で、実際の所はどうだったかというと、ガブリエル達の関係者から引っ張ってきたようだ。道理で腕がいいわけだよ。一応、その部隊はリトン公爵が指揮しているようだ。いつだっけか、リトン公爵が仕事が増えたとか言って管蒔いていた時があったけど、このことだったんだね。内政に関しては、コーメとハクヤが実は素質があったようで、コーメとハクヤ自体がびっくりしてたけど、そのおかげもあって、リトン公爵の負担がかなり軽減されたんだけど、その代わりに帝都の諜報部隊の設置という大仕事がリトン公爵に回ってきて、結局楽になるどころか、逆に今まで以上に忙しくなったようだ。


 で、その関係で文官が増えて帝都での開発が進むようになったんだけど、そのドサクサに送り込まれたらしい。ということで、そのスパイは見所があるという名目で、フロスト領へと連れてこられたようだ。というのも、帝都で行っている各種の開発は、フロスト領で行われているやり方と比べると、効率面だけで見ると大幅に悪いそうだ。まあ、ここでの開発なんて魔法を駆使したごり押しが強いし、その魔法もマーブルとかがメインで行っているから、真似しようにも真似できない。見方を変えると、帝都で行っている方法は、どこでもできるということになる。悪い見方で考えると、邪魔しようと思えば邪魔できるのだ。


 そんな理由があって、そのメルヘン王国のスパイはフロスト領の開発という名目でフロストの町に常駐という名目でこっちに連れてこられたようだ。要は監禁である。もちろん、思いっきりコキ使う。コキ使うけど、スパイとわかっているので、どうでもいい仕事でコキ使う。基本は工作員の排除の手伝いである。言うまでもなく、余計なことをしたらこうなるぞ、という見せしめの意味も含まれている。ちなみに、こっちに送り込まれたのは5名ほどらしく、その5名全員が例外なくここフロスト領に送り込まれたようだ。


 このスパイを送り込んできたのと同時に、外交官が頻繁に送られてくるようになったと面倒くさそうにリトン公爵は言っていた。向こうの提案では、友好関係を構築するための各種交流をこれから積極的に行っていこうということらしいけど、スパイを送り込んでいる時点でお察しである。要は、技術を盗み取ることだろう。


 というのも、ライムミードの評判がメルヘン王国内でも広まっているようで、何とか自分たちでも作れないかということらしい。もちろんメルヘン王国でもミードは生産されているようだけど、ライムミードと比べると味が数段落ちる、というか勝負にすらなっていないらしい。それ以外にも、ドラゴンを始めとした高級素材を安く手に入れたいようだ。欲しきゃ自分たちでどうにかしなさいって、、、。


 ぶっちゃけ、メルヘン王国と友好的になるメリットが存在しない。いい方は悪いけど、トリトン帝国は建国以来、何処とも交流関係を築いていなかったので、今更友好国を増やす必要もないしな、とトリトン陛下が言ってた。リトン公爵もメルヘン王国とは友好関係を築く必要性を感じていないらしく、使者が来る度に、自領にいる長男に、軍備を増強するように伝えている。で、その軍備を増強するに当たって、リトン公爵から話があった。


「そんなわけで、フロスト侯爵、こっちで手に入れた素材を、我が領に送って欲しいのだが。もちろん代金は支払う。」


「他ならぬリトン公爵からの頼みですから、もちろん構いませんけど、どのレベルの素材を所望していますかね? ドラゴン素材でも構いませんけど、加工できる人って御領内にいますか?」


「そこなんだよな。侯爵も知っての通り、我が帝国は去年までは世界最貧国と言われるくらい貧しかったからなぁ。一応、我が領内からも、こっちで修行している職人はおるが、せいぜいワイバーンがいいところだろうなぁ、、、。」


「じゃあ、ワイバーンでよろしいのでは?」


「実用面だけで考えれば、ワイバーンでお釣りは来るだろう。でもな、一応国の防備という他国に対しての名目もあるから、できれば金属系がいいんだけどな。」


「別に金属系でなくてもいいのでは? 余所は余所、うちはうちじゃないですか。」


「確かにそうなんだけどな、一応領内での金属加工技術の向上も兼ねているんだ。いや、正直そっちが主な目的だな。」


「なるほど、確かに金属加工技術の向上は、領内の発展には欠かせませんね。流石はリトン公爵ですね。」


「いや、そこまで感心されると逆に恥ずかしいのだが。」


「リトン公爵の希望はわかりましたけど、金属となると、我が領内でも鉄鉱石がいいところですよ?」


「そうなのか!? てっきりフロスト領内では、ミスリルクラスが当たり前だと思っていたが。別にミスリルでなくてもいいのだ。黑鉱石とかはどうか?」


「黑鉱石ですか、、、。お気持ちはわかりますけど、あれって、硬度や実用性から言うと、鉄鉱石程ではないんですよ。見た目が綺麗だし、多少魔力を込められるので、アクセサリーとしては多少価値はありますけど、領内の軍備とかで考えると、鉄鉱石でしょうね。」


「そうなのか、、、。では、鉄鉱石で頼む。ちなみにどのくらい提供できる?」


「鉄鉱石なら、恐らくトリトン帝国内の全兵士にフルプレートを提供できるくらいには用意できますよ?」


「は? 全兵士、だと!?」


「はい。公爵もご存じだと思いますが、フロストの町の領民や、うち来る冒険者達が、洞穴族を始めとした我が領自慢の職人達の道具を求めて、氷王の訓練場で積極的に鉄鉱石やら銅鉱石を採掘してますからね。それもあって、在庫が豊富にあるんですよ。まあ、鉄やら銅はいくらでも使い途がありますので、鉄鉱石や銅鉱石はいくらあっても問題ありませんからね。我が町の冒険者ギルドや領内にはマーブル特製のマジックボックスが設置されているので、倉庫を圧迫することもありませんしね。」


「なるほどな。で、侯爵に相談なんだが、我が領で軍備を増強するには、訓練の他には装備はどうすればいいと思う?」


「そうですね。公爵の領地では、ワイバーンまでなら加工できる職人がいるんですよね? でしたら、防具はワイバーンで統一するというのはどうですか? その分武器に鉄や鋼にできますし。それと、鏃だけでなく矢そのものを鉄製にするとかは?」


「なるほど、それはいいかもしれん。しかし、メルヘン王国もそうだが、他国からの工作員による盗難とかについてもそうなると考えなければならないな。」


「工作員については、今いる諜報部隊に命じて、それに対する対策なども訓練させればいいでしょう。予算が足りないということは今現在はないでしょうし。」


「そうだな。幸いにも帝都だけではなく、帝国の各都市で人が集まり出してきてるからな。彼らにも仕事を与えるという意味でも良いかもしれんな。」


「それと、フロストの町みたいに、魔獣をペットとして飼うのもありではないかと。」


「魔獣か? なるほど! そういえば、ここで訓練を受けた兵達が、ラビット族を狩れなくなってきたみたいなんだよな。可愛すぎて肉とは見られなくなってきたとかで、、、。」


「なるほど。では、レオ達に頼んで、ペットになりそうなウサギ族を見つけてもらいましょうか? もちろんこちらに攻撃的なラビット族には肉になってもらいますけど。」


「そういえば、ここでは未だに普通にウサギ肉って食されているよな?」


「もちろんですよ。言うまでもなく、ジェミニやレオ達は可愛いですが、それは私達に従順だからです。向こうがこちらを食料として戦いを挑むなら、こちらも相手を食料として戦いを挑むまでです。ジェミニやレオもそうですが、うちにいるペット達はみんなそういう考えでおりますよ。」


「そういうものか、、、。なるほど、わかった。私ではいい案が思い浮かばないから、とりあえず侯爵の意見を参考にさせてもらうか。」


 このような遣り取りをして、メルヘン王国に備えるために、リトン公爵の領地では軍備が増強されていくことになった。それに付随して、レオ達野ウサギ族が中心となって、各領地に人となじめそうな魔物をペット、いや新たな領民として迎え入れることになった。これが功を奏して、トリトン帝国は国力だけでなく防諜力も格段に高くなっていったのである。


 一緒に聞いていたマーブル達は嬉しそうにリトン公爵の周りを走り回っていた。


・・・マーブル達の出番は今回これだけです。


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トリトン陛下「おい! 今回俺の出番なかったぞ!」

リトン宰相「少し台詞があったではないですか。」

トリトン陛下「あんなの、台詞と言えるか!?」

リトン宰相「次に期待ですな。」

トリトン陛下「チッ、ほぼメインだったからって調子に乗りやがって、、、。」

リトン宰相「日頃の行動の差ですかな。」

トリトン陛下「いや、それだとほぼ同じだろうが、、、。」

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