第175話 さてと、また使者ですか、お帰りはあちらですよ。

前回のあらすじ:みんな強くなったと実感していい顔してました。



 待ちに待った夕食でしたが、その内容は省略します。ただ一言大盛り上がりだったということだけは言っておくとします。


 で、その翌日、いつものテシポンで気分良く目覚めたところに、ガブリエルがやってきた。内容は、アバロン帝国の使者が懲りずに、またこちらに来ているようだ。いくら任務とはいえ、いつもお疲れ様です。日頃の感謝の気持ちを込めて、新作のドラゴンジャーキー(まだ試作品の段階だけど、多分これで完成形)を配下の者にも渡すようにと、マジックバック(こちらは引き出す専用、なくなったら普通の袋と同じになるけど、やばいくらいに頑丈につくってある)を渡して、ついでにフェラー族長とカムドさん、それとラヒラスをこっちに来てもらうように頼んだ。程なく3人がこっちに来た。


「ご主人、お呼びと伺いましたが、一体どうしました?」


「一通り報告は受けていると思うけど、懲りずにアバロン帝国の連中がこっちにやってくるそうだ。」


「なるほど、その対策、ということですかな?」


「そうです。それについて意見を聞きたいかな、と思ってね。」


「私はご主人の意見を尊重します。」


「私もアイスさんにお任せしますよ。」


「基本的には、どんな提案も断るつもりだけど、こんなにしょっちゅう来られるのは面倒だから、今後一切来たくなくなるようにするにはどうすればいいかを聞きたかったんだけどね。」


「アイス様、今後一切来させなくするのは、アバロン帝国を完全に滅ぼさない限りは無理だね。あいつら、他人の足の引っ張り合いに夢中だから、現実ってものがわかってないみたいだし。現に今これから来る連中もそうじゃないかな?」


「そうだと思う。で、今度来るのが誰かはわからないし、正直どうでもいいんだけど、恐らく、コーメの役職を追い落とした人間じゃないかな? 多分、コーメは弱腰だから失敗した、強気で行けば自分なら上手く出来るとか抜かして、この役目に就いたんじゃないかな?」


「なるほど。ガブリエル、今回の使者について何か知ってるかな?」


「ハッ、今回の使者ですが、サイ侯爵が大使となっているようです。彼の者は、謀略を得意としており、数々の帝国貴族を追い落として今の地位にいるようです。言うまでもなく、評判は悪いです。」


「ガブリエル殿、ありがとう、それだけで十分だよ。」


「そうなんだ。ガブリエル、ありがとう、下がっていいよ。袋の中身だけど、味見はしていいけど、みんなにしっかりと分けてあげてね。」


「ハッ、それでは失礼します。」


 ガブリエルは下がりながらも嬉しそうにしていた。味見という言葉で、袋の中身を期待してしまったのだろう。もちろん、期待に応える味にはなっているはずだから、喜んでくれるだろう。今のところ、彼女たちの働きに応えられるのは、ああいったものでしかないけど。


「じゃあ、どう対応すればいいかな?」


「そうだね、・・・。」


「了解、そんな感じでやっていくよ。では、フェラー族長、陛下とリトン公爵に報告よろ。」


「かしこまりました。」


 ドラゴンの襲撃から3日ほど経過し、領民始め、帝国の精鋭達はもちろんのこと、冒険者ギルドもようやくお祭り騒ぎの状態からすっかり平常運転に切り替わっていた。といっても、陛下のお伴でいっしょにこの町に来ている帝国民や冒険者ギルドでは、活動が活発化しているようだ。特に冒険者達はすっかり大人しくなり、ギルド員の話にも耳を傾けたり、先輩冒険者の助言をしっかりと聞いたりするようになったそうだ。ギルド長が嬉しそうに話してくれたっけな。今まで以上に、フロスト領を優先するって言ってもいたな。


 こうやってすっかりと落ち着いてきた頃、ようやくアバロン帝国の大使ご一行がこの町にやってきたようだ。会場はアマデウス教会にしようと思ったけど、予定変更してフロスト城(言うまでもなく未完成)の謁見の間で行うことになった、というのも、復興中ということをアピールするためだそうだ。でも実は、薄汚い連中にはアマデウス教会へ足を踏み入れて欲しくないから、という本来の理由があるみたいだけど、知らない振りをしておきましょうかね。


 実は、私もここは初めてである、というのも、まだお見せできる段階ではないと反対されていたので、見たくても見られなかったのだ。今回は、嫌が、、いや作戦のために途中の段階ではあるけど、お披露目である。訓練所と酒造りの場所以外は全く未完成の状態ではあったけど、流石に各部屋が目的に応じて作られているようで、間取りはそれぞれ取れているようだ。謁見の間は、入り口入ってすぐの広い場所だった。用件があるなら、この辺境ではなく、さっさと帝都へ行けやゴラァ、という私の意見を取り入れてくれたようだ。作りについても基本的にはアマデウス教会を使うので、一番最後でいいということも伝えてある。一番最後でいい、ということは、それだけ作りがいい加減の状態でもあり、初めて見た印象だけど、まさに復興途中という感じで非常によろしかった。ちなみに、他の場所については立ち入りを禁止された。私が領主なんだけど、、、。


 折角なので、もう少し詳しく聞いてみると、私の部屋はもちろんのこと、マーブル達の部屋と他のモフモフ達の部屋も用意しているらしい、それプラスモフモフ達の室内での遊び場も鋭意制作中らしい。他には、陛下の部屋と謁見室、リトン公爵の部屋というか宰相部屋とか、戦姫の部屋も作っているとか、それ以外にもかなりの部屋が必要だし、それに応じた施設を作っているそうだ。って、何で陛下とその謁見室を作るわけ!?

それと宰相部屋だっけ? まさかここに遷都するつもりか!? それだけは勘弁してくれよ? ってか、ここに遷都したらこの国から離れよう、そうしよう。


 そんなこんなで、使者達がこっちに来たようだ。もちろん、着替えも済んでおり準備は整っている。流石に新品ではなく、先日コーメ達が来たときと同じ衣装である。これだけのために一々新品とか面倒だし勘弁してくれ。そうそう、服で思い出したけど、ヴィエネッタは最近ちょくちょくこっちに顔を出しているけど、その度にいろいろと呼ばれるらしい。糸の紬方から布の織り方だけでなく、服のデザインやらコーディネートにも優れているらしくいろいろと聞かれているそうだ。


 また、ヴィエネッタに慣れた領民達も、シルクスパイダーに対しても嫌悪感を出さなくなり、たまに恵みのダンジョンへと行き、物々交換で糸をもらってきては、何か作り出しているらしい。うんうん、非常にいい傾向だ。魔物だろうと何だろうと、友好的であれば積極的に受け入れるのは大事。何故人じゃないからとかの下らない理由で差別するのかわからない。逆に仮に同じ人間であっても、こちらの邪魔になるのであれば、無理して仲良くする必要は全く無い。いつも私が思っていることだし、その考えは領民達も同じようだし、陛下やリトン公爵も同意見らしい。その甲斐あってか、帝国内でも少しずつその考えは広まっているようだ。


 おっと、それよりも今は使者だったな。どうせ、彼らは私達とは逆の考えしか持ち合わせていないだろうから友好的にする必要は全く無い。ちなみに、現在この部屋には、私とマーブル達、ウルヴ、アイン、ラヒラスと、あとは何故か知らないけどグレイルもいた。今回のゲストとして、コーメ達にも来てもらっている。


「アバロン帝国大使、サイ侯爵ご一行が見えられました。」


 フェラー族長(現在セバスチャンモードに切り替わっております。)の声のあと、大きな扉が開く。これ、実はジェミニの土魔法で扉の下に動かすものが出現して開くように動いているのだ。使者一同は、まさか人無しで自動的に開いた扉を見て驚いていた。我に返った後、ボロボロな状態の謁見の間を見て気を取り直したらしい。


「ようこそ、フロストの町へ。お初にお目に掛かる。私はこのフロスト領の領主であるアイス・フロスト侯爵です。このような場所でしかお迎えできる場所がなかったこと非常に申し訳ない。生憎我が町は現在ドラゴンの襲撃に遭ったばかりで、復興もままならない状態ですので、、、。」


「ほう、侯爵自らが対応されるか。こちらこそお初にお目に掛かる。ワシはサイ・フリード侯爵である。ワシのそばに控えておるのは、ヴァイカー子爵、パイロレクス男爵、、、、。」


 長ぇ、、、。こんな場所にこんなに沢山引き連れて来るなよ、、、。ってか、サイ・フリードだと!? しかもヴァイカーとかパイロレクスとか、どこの世界だよ。はっ!? まさか、アバロン帝国の名前もそうだけどひょっとしてそういった名前の連中が目白押し!? こいつらパート2の連中だよな? 1とか3とかの名前は出てこないのか!? 仮に2だけだとすると、流○斬りが決まった!! とかそういうキャラもいるのだろうか!? 興味は尽きないけど、正直関わり合いたくないのも事実だから、ここらでストップさせないと面倒だからな。


「それにしても、今回は災難でしたな。復興であれば、我らも少しは協力できると思うがいかがか?」


「お気持ちだけ頂いておくとしましょう。貴公ほどの人物です、その協力にお返しできるものがこちらには用意できそうもないので。」


「何、それほど大したものではない。我らが出兵する際に兵を出してくれるだけでも十分だ。」


「現在領民が100名ちょいしかいない我が領での出兵で?」


「貴殿の率いる兵はかなり精強と聞いておる。貴殿らが先陣となって戦ってくれればそれで十分ということだ。」


「まあ、どちらにせよ断るつもりだし、どうせ協力とか言っても、大して復興に貢献できないだろうし、もう少し気の利いた言葉が欲しかったけど、無理か。」


「ええ、サイ侯爵は地位と後ろ盾を使って、力の弱い者達を後ろでコキ使うだけのものですからね。」


 コーメが私の発言に付け足すように話した。その発言で私の後ろで控えている1人がコーメと気づき、一瞬顔を赤くしたが、我に返ったようで返答する。


「ほう、我が提案を受けないと? おお、そこにいるのはコーメ伯爵ではないか! 常日頃より伝えてくれるここの情報、我らとしては非常に助かっているぞ。」


 なるほど、こうやって疑心暗鬼となる状況を作り出して優位に展開させていくやり方か。いい手段だ。このフロスト領でないのならな!! あ、コーメが少し慌てた。


「ご領主! 私はここに来て以来そのようなことをした覚えはありませんぞ!」


「あ、うん、わかってるよ。だって、考えてみ。コーメだって、ここに来る前の情報ってほとんど入ってきてなかったでしょ? それとここを探りに来た諜報部隊がどうなったかも知ってるよね? そんな中で、情報部隊を雇う余裕がない君にそんなこと出来るはずないじゃん。それに、ここは誰も君の足を引っ張ってないから仕事に専念できているよね?」


「もちろんです! 仮に向こうに行けと命じられても行きませんよ!! こんなに楽しく過ごせる毎日手放したくないですからね!」


 コーメがそう力説すると、控えていたメンバーがその通りだとばかりに頷いていた。そうか、みんな楽しんで暮らしてくれているんだ、よかった。


「ということで、サイ侯爵、得意のやり方が通じなくて申し訳ない。」


「ほう、我らの行為を受け取らないと? まあ、いいだろう。それと一応忠告しておくが、我には龍族とのツテがあり、それを使って貴公の領を再び攻めるよう頼むこともできるのだが。」


 ふむ、ここでカードを切ってきたか。もちろんこれが嘘だとはわかっている。そのためのグレイルだ。グレイルには、護衛の魔術師さながらにフード付きのローブを纏ってもらい、顔などの姿が見えないようにしてもらっていた。


「グレイル、龍族で人族と仲良くしている集落って知ってる?」


「いや、聞いたことはないな。フロスト殿ほどの力をもっている人族に対してであれば、そういった者達もいるのだろうが、少なくとも、こいつらのような弱き者共に力を貸すような者どもはいないだろう。」


 グレイルはそう言って、フード付きのローブを脱ぎ捨て、人状態の姿を表す。やはり角の生えたリザードマンだよな、これ。


「折角だから、本来の姿を表してあげて。あ、全力は勘弁して、この部屋に入りきる程度で。」


「承知している。ここ以上にしてしまうと我が潰れてしまうからな。どうせ、ここも不壊なのだろう?」


 そう言いながら、グレイルは私達と距離を離してドラゴン化する。最近はちょくちょく集落の龍族を連れてはここでメシを食べたりしていたから、栄養状態もバッチリなようで、全身が黄金に輝いており、その姿は威厳に満ちていた。流石はエンシェントドラゴンである。


「ということで、龍族のグレイルは知らないそうだけど、サイ侯爵、これについては? あ、ちなみにここにいるグレイルはエンシェントドラゴンだから、変な嘘は通じないと思うよ。」


「・・・・・。」


 まさか本物の龍族、しかもエンシェントドラゴンがそばに控えているとは思わなかったらしく、しかも、そのエンシェントドラゴンを見て誰も動けない状態になっていた。こちら側は見慣れているから何とも思ってないけどね。


「しかし、グレイル様も以前より輝きが増してますね。」


「うむ、ここではいい食事を頂いているからな。集落の連中もここに来るのを楽しみにしておってな。」


 こんな暢気な会話をする始末。


「グレイル、ありがとう。元に戻っていいよ。」


「フ、フロスト侯爵。そ、そなたほどの力をもって、トリトン帝国を支配して我らに協力してはどうかな? 今よりもいい生活を保障してやれるぞ!」


 この期に及んで何を言っているんだこいつは?


「これよりいい生活? ということは、食事は常にオークキング以上の肉が食べられるということですか? 最低でもワイバーンクラスの肉でないと満足しませんよ。そうですね、週に一度はギガントワームではなく、しっかりとした龍族の肉も食べてみたいですね。・・・実現できます? 一応言って置くけど、この町って私とここにいる3名が本当の意味で0から作り上げた町なんだよね。要は完全に自分の嗜好が存分に含まれているわけ。あと帝位? そんなものいらないよ。この侯爵という地位だって、無理矢理押しつけられた地位だから返上しろと言われたら喜んで返上するからね。」


「な!!」


「欲まみれの貴族相手だったら、貴方の言うことに応じる人がいると思うけどさ、この帝国で権力握っている貴族ってさ、私もそうだけど、その上位にいる陛下や宰相をされているリトン公爵も権力を手放したくて仕方がないんだよね。もちろん、帝国民のために今の役職を頑張って務めているから簡単には手放せないけど、本心では手放したくてしょうがないとおもっているんだよね。そんなところで、貴方のやり方なんて一切通じないよ、悪いけど。」


 サイ侯爵ご一行は言葉を失っている。次の一手が打てないようだ。ということで助け船を出した。


「あ、それと、今回のドラゴンの襲撃では、町には一切被害出てないから。」


「な、、、。」


「でさ、サイ侯爵、とある龍族と親しいって言ってたよね? 正直物足りなかったから、こっちに攻めてくるように言ってよ。自分が侮辱されたんだけど、悔しくて復讐したいから協力して、とか言えば乗ってくれるんじゃないかな? あ、1体だけとかそういったショボいのは無しね。最低でもワイバーンが100体くらいは呼んで欲しいね、できれば緑龍以上のドラゴンで100体くらいは呼んでね。それくらい呼んでくれないとさ、こっちも訓練にならなくて領民達の不満が溜まるんだよね。ということで、そちらの要求を呑ませたかったら、最低でもそれくらいの誠意は見せてね。」


 サイ侯爵達は顔を青ざめさせて、全身から汗が出まくっている。


「あ、忘れてた。ドラゴン襲撃のドサクサに紛れて騒ぎを起こさせようとしてきた連中がいたから、ついでに連れ帰って。」


 そう言うと、開いたままの扉から荷台を引いたニワトリ達、いやコカトリス達が「コケーッ」と鳴きながら来た。荷台を引くための装具を外すと、私に飛びついてきた。こちらもなかなかのモフモフだった。マーブル達も負けじとこちらに飛びついて来た。やはりいいモフモフだったけど、場所が場所なだけになんとかなだめて離れてもらった。心の中では短時間で終了したモフモフタイムが残念でならなかったけど。


「これってそっちが雇った冒険者だよね? しっかりと連れ帰ってね。その荷台は進呈するから。もう一度言うけど、こちらの協力が必要だったら、それなりの誠意を見せてね。ちなみに、アバロン帝国とは敵対関係になってもこちらは全く問題ないと思っているからそのつもりで。じゃあ、会見はここまでね。ウルヴ、ラヒラス、アイン、見送りお願いね。」


「「「ははっ!!」」」


 サイ侯爵ご一行様は憔悴しきった表情でこの場を去って行った。さてと、途中で打ち切ったモフモフタイムを再開しますかね。


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ハンニバ「サイ侯爵がここに来たそうだ。」

ベーア「無駄なことを。ここは他とは違うからな、、、。」

ハンニバ「そうだな、、、。でも、それがいいんだよな。」

ベーア「全くだ。存分に訓練できるし、何よりメシが美味い! 我はここに骨を埋める!!」

ハンニバ「俺も同じ思いだよ。」

ベーア、ハンニバ「「ワッハッハ!! カンパーイ!!!」」


冒険者ギルドの食堂兼酒場でのやりとり、、、。

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