第151話 さてと、防衛戦です。

前回のあらすじ:グリフォンがこちらを攻めてくるそうなので、作戦を立てた。



 戦闘準備が完了して、鳥肉、いや、グリフォンの到着を待っているが、正直手持ち無沙汰なところはある。とはいえ、他のメンバーは緊張感で一杯の様子。あの戦姫でもそうなのだから、領民達もかなり緊張していると思う。レオ達、野ウサギ族やコカトリスのメンバーは別かも知れないけど。そんなことを考えていてふと思いついたので、試してもらうことにした。



「マーブル、殺気を前方に放ちながらでも、魔法って通常通りに撃てる?」



「ミャア!」



 マーブルはそんなの当然! と言わんばかりに元気に鳴いた。うむ、非常に可愛らしくて結構。



「了解。では、少し作戦変更して、ジェミニが土魔法で砂塵を発生させるのは同じだけど、マーブルが殺気を相手に放ったら作戦開始とします。後は特に変更はありません。これで間違いなく殲滅できそうです。」



 全員が敬礼のポーズで応えた。よし、これで準備完了かな。後は、オニジョロウを念入りに準備して戦闘開始といったところかな。



 待つこと約10分くらい、マーブルからグリフォンの集団があと5分くらいの距離まで近づいたという合図が届いた。それを聞いたジェミニが前方に広範囲で砂塵をまき散らす。まき散らした後にジェミニが聞いて来た。



「アイスさん、この程度では目眩ましにもならないですよ。これで本当にいいです?」



「ありがとう、ジェミニ。思った以上に砂塵が出てるね。でも、大丈夫。これ目眩ましじゃないから。」



「アイスさん、目眩ましじゃないとしたら、一体?」



「アンジェリカさん、グリフォンではなくても、砂塵で分断できることはないですよね?」



「ええ、精々進軍速度を遅らせる程度ですわ。」



「今回は分断が肝ですので、結論から言いますと、氷の壁を作る際に向こう側を見えなくするためですよ。」



 アンジェリカさん達はわかったようなわかっていないような、そんな表情だった。実際にやってみればわかるし、知ろうが知るまいが、作戦に影響は全く無いので問題なし。



 ジェミニが発生させた砂塵は、見事に漂ったままである。ジェミニ、頑張ったね。あともう少しだから。そんなことを思いつつ、鳥肉がやって来るのを今や遅しと待っていると、マーブルから「ミャウ!」という声が聞こえた。恐らく戦闘開始の合図だろう。ずんぐりとした鳥が近づいているかな、という感じな見た目の魔物は、最初こそ米粒くらいの大きさで、数もまばらであったが、こちらに近づくにつれて、視界に占める割合が大きくなってきたところで、マーブルが殺気を放ったのであろう、しかも逃げ出さない程度に加減をして。



 グリフォンの群れは、マーブルの殺気に当てられて、飛行速度がかなり落ちた。よし、次は私の出番である。私は水術でジェミニが用意した砂塵を巻き込んで氷の壁を作り、この集団を2手に分けた。いくら空の覇者とはいえ、突然現れた壁に対応できるはずもなく、そのまま進んでいくしか道はない。私の目論見通りに、40体ちょっと程を、迎撃準備を整えている本隊へと送ることに成功した。あとは、残りの80体を捌くだけとなった。



 壁で鳥肉の群れが分断できたのを確認したマーブルが、風魔法を放った。いや、正確には風魔法をノコギリ状の形にして、重力魔法で重さを付けた状態で放っていた。先日のヒドラ戦で使いこなせるようになったようだ。



 マーブルの風魔法を見たグリフォン達は、自分たちには風魔法は通じないと思っていたのだろうか、避けることなくそのまま進もうとした。しかし、結果はグリフォン達の考えとは全く異なるものであった。マーブルの放った風魔法+@は、狙いを違えることなくグリフォンの翼の付け根に命中し、それを喰らったグリフォン達は1体の例外なく、自慢の翼を失い地上に落ちてきた。



 もちろん、本来であれば、風魔法ではグリフォンに傷1つ付かなかったであろう。しかし、今回は相手が悪かった。今のマーブルとグリフォンのレベル差は恐らく1桁近く違っている。余り知られていないが、どれだけ耐性があろうとも、レベル差が大きければ耐性など関係がなくなる。増して、マーブルの放ったのは風魔法だけではなく、重力魔法まで加わっている状態のものだ。哀れ、グリフォン達はマーブルによって次々に撃ち落とされていった。



 マーブルの魔法で翼を失ったグリフォン達は、地上に落ちてきた。ここからは、私達の出番である。私は落ちてきたグリフォンに近づいては眉間を狙って矢を放っていく。もちろん、矢は芯が勿体ないので、水術で作成したもののみを使用している。鏃はドリル状にはしてあるので大丈夫。どれだけ強かろうと、得意のフィールドでなければ相手ではない。しかも、体が大きいの上に、至近距離であるので、外しようがないのだ。眉間から頭部を射貫かれて、瞬時に息絶えていくグリフォン達。他のメンバーがどうなっているか気になるので、周りを確認しつつ、グリフォン達に矢を放っていった。



 ジェミニであるが、問題なく落ちたグリフォンを見つけては首を刎ねていた。ってか、この世界のヴォーパルバニーってこんなに強いのかと、今更ながらに驚いていた。私も負けていられないな。



 ライムとオニキスは2手に別れて、仕留めたグリフォンの回収作業に動き回っていた。プヨプヨと動くその姿は非常に可愛らしくホッコリしてしまった。ちなみに、回収については、マーブル印の革袋をそれぞれに何枚か渡してあるので、問題なく回収してくれるだろう。しかも、今回は贅沢にもヒドラの皮を使って作成している。マーブルの空間魔法による付与であるが、袋の素材がいいものほど、容量も大きくなるらしいので、今回のヒドラ皮を使った革袋はもの凄い容量だそうだ。ってラヒラスが言ってたな。



 戦姫の3人も順調にグリフォンを仕留めていた。アンジェリカさんは愛用の槍(名前を言うと嫌がるので割愛、詳しくは前作をご覧下さい)で頭部を次々に突き刺し、倒して廻っていた。セイラさんとルカさんはヒドラの時と同様に、ルカさんが矢に付与魔法をかけては、セイラさんがそれを放ってグリフォンの眉間を射貫く、という感じで次々に倒していた。



 結局、釣果であるが、私達が67体、戦姫が18体の計85体だった。内訳は、私が26体、ジェミニが24体、マーブルが17体のようだ。最後の方はマーブルが面倒だと言わんばかりに撃ち落とすことなく直接仕留めていたようだ。マーブルが倒した分は、首だけがなかったのでわかりやすかった。



 さて、こちらでは戦闘が終了しているけど、向こうでは本隊がまだ頑張っていると思うので、もう少し待ってから向かうとしますか。では、試しに1体を解体してみましょうかね。と思い、倒した1体を出してもらうことにした。



「アイスさん、今解体するんですの?」



「とりあえず1体だけですかね。本隊がまだ戦闘終了してなければ、あと数体解体してもいいと思いますが、何せ初めてですからね、使えるものと使えないものを確認しておきませんと。」



「なるほどですわ。ワタクシ達も見学してよろしいでしょうか?」



「もちろん、かまいませんよ。まずは鑑定ですね、アマさん、よろ。」



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『グリフォン(素材)』・・・ほう、グリフォンか、珍しいのう。久しく食べておらんから、すっかり忘れそうじゃったわい。肉は言うまでもなく美味であるぞ。と、お主が知りたいのは、そっちではないようじゃな。先に言っておくと、使い途があるのは、肉と羽毛、あとは羽根じゃな、おお、それと爪とクチバシも用途はあるかの。それと、残念じゃが、グリフォンはグリフォンであって、ドラゴンではないから、内臓や血については用途はないのう。内臓は苦みが強いから、鳥モツも無理じゃぞ。おっと、言い忘れておったが、アイスよ、わかっておるな?


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 はいはい、肉をよこせと、そういうことですね、わかってますよ、ええ。と、まあ、それはおいといて、羽根と羽毛とそれぞれあるんだな、、、。羽毛、か、布団が作れるか。袋は、と、ああ、シルクスパイダーを使えば大丈夫だな。藁の布団もなかなかいいけど、掛け布団はこれで作るとしましょうか。うん、羽毛はこれでいいな。羽根は、矢羽根で使うのは勿体ないから、羽根ペンにしますかね。ここではボールペンなんて素晴らしいものはないし、構造はある程度わかってても、無理だ。鳥モツも無理かあ、、、。まあ、その分肉は沢山ありそうだから、それで手を打ちますかね。



 さて、肝心の解体作業であるが、正直、羽毛と羽根については、こんなにあっさりと取れるとは思わなかった。これは嬉しい誤算である。誰にも使っていない櫛を使ってみたところ、面白いように、羽毛や羽根が取れたのだ。途中で戦姫の3人も面白そうに取っていた。マーブル達は周りを走り回って喜んでいたので、こちらのテンションも上がってしまい、夢中になってしまったのだ。



 空の王者として恐れられていたグリフォンだったが、羽を完全にむしられてしまった今、その姿はただの巨大な鶏肉でしかなかった。これから肉の取り出し作業であるが、最初に行うことは、血抜きもそうであるが、処理用に穴を掘ることだった。これには、ジェミニの土魔法やマーブルの各種魔法が役に立った。今回はそれほど大量に解体するわけではないので、それほど大きな穴を必要ないので結構早かった。血を水術で吹き飛ばして、ジェミニが腹の部分を裂いて、ライムが中をキレイにする、という流れ作業であっという間に完了してしまった。穴に入れた内臓は、マーブルが火魔法で燃やして、土を軽く埋めて完了。なんか、魔素やら栄養やらもの凄そうなので、残りを解体するのは、現在土を休ませている畑か、新たに開発予定の畑でやるのもいいかとも思った。



 結局今回は5羽分だけ解体して、残りは私の空間収納にしまっておいた。ちなみに、戦姫が自分たちで仕留めた分については、戦姫の好きにして構わないと伝えたけど、素材以外は使い途がない、ということだったので、肉だけはこちらで頂いておいた。



 そろそろ本隊でも決着は付いているはずだから、私達はフロストの町へと戻っていった。もちろん、歩きではなく、マーブルとジェミニが引くソリに乗って、、、。



 私達がフロストの町へと着くと、まだ慌ただしさこそあったけど、無事に戦いも終わっている様子で安心した。フェラー族長とカムドさんがこちらに気づいて出迎えてくれた。出迎えには、ウサギ族やコカトリス達も一緒に付いてきたみたいだ。



「ご主人、ご無事で何よりです。」



「アイスさん、並びに皆さん、お帰りなさい。」



「フェラー族長、カムドさん、お出迎えありがとうございます。レオもみんなも、出迎えありがとう。」



 私がそう言うと、ウサギ達は嬉しそうにマーブルとジェミニに並ぶと、同じ速度で進み出した。コカトリス達は、ソリの周りに並んで同じような速度で進んだ。その気持ちが非常に嬉しかったと同時にもの凄く可愛かった。マーブルとジェミニが引いているソリはそのまま進んで、領主館へとたどり着くと、その前には見慣れた3人の姿があり、ソリ、というか、マーブルとジェミニはもちろん、一緒に移動していたウサギ達やコカトリス達も同時に止まった。別に練習したわけでもないのに、なんでこんなに息が合っているのだろうと不思議に思っていたら、ライムが種明かしをした。何でも、こういうときのために、私が寝ているときに密かに練習していたそうだ。これも遊びの一種らしい。メンバーを替えつつ練習していたらしい。気持ちは嬉しいけど、それって遊びなの? とは思った。あと、我が領に住んでからは強くなったとはいえ、元は草食系のファーラビットやホーンラビット、ベリーラビットのみんなは寝なくても平気なんだろうかと、いらぬ心配をしてしまった。



 っと、それはそうと、目の前にいる3人に挨拶しないとね。



「陛下、ご報告申し上げます。我が領を襲ってきたグリフォンの集団を殲滅いたしました。」



「おう、侯爵ご苦労さん。これだけのグリフォンの集団が攻めてきたってのに、怪我人こそでても死者ゼロって、、、。お前さんが帝国所属でほんっとよかったぜ。」



「ですな。こうしてほぼ無傷であのグリフォンを倒してしまうなんてことは、我が国はおろか、他国でも無理でしょうからな。」



「で、だ。フロスト侯爵よ、もちろん、アレは用意できるんだろうな?」



 トリトン陛下は嬉しそうに聞いてくる。アレとは言うまでもなく、グリフォンの肉で間違いないだろう。



「もちろん、準備できますけど、何か最近、いろいろと献上してはおりますけど、何も見返りがないんですが、それについては?」



「んあ? 見返りだと? いいぜ、公爵の位でも、宰相の位でも、お前さんが望むなら皇帝の座、喜んで譲るけど、それでいいんなら、こちらも喜んで渡すぜ。」



「ですな。私も公爵並びに宰相職は、いささか手に余りますからなあ。フロスト侯爵と交代できるならしてほしいものですな。」



「なぜ爵位限定なんですかね、、、。他にもあるでしょうに、、、。」



「何言ってるんだ? ここはトリトン帝国だぜ!? 他にくれるもんなんてねぇよ。」



「そこは威張って言うところではないと思うんですがね、、、。」



「まあ、その辺は後で考えてやる。とはいえ、侯爵よ、本当は何もいらねぇんだろ?」



「まあ、そうなんですけどね。それを前提にたかりに来てる時点で勘弁して欲しいんですがね。」



「何を言っているんだ、侯爵? ここに通うことによって、我が帝国をどうやって発展させていくかのヒントが得られるんじゃねえか。そうだよな、宰相?」



「ええ、まことに陛下の仰るとおりですな。フロスト領での食事、この褒美目当てに、今帝都では恐ろしいほどに変わっておりますからな。数年でこの世界有数の大都市に成長することも夢ではありますまい。」



「だよな! ということで、侯爵よ、後日帝都にも顔を出してみろよ。お前さんが最後に来たときとは比べものにならないくらい変わったからな。」



「はい、機会があれば是非。」



 思いっきり論点のすり替えが行われてしまったが、まあいいか。これがトリトン陛下の空気であり方針なんだろう。くだらない横やりが入らないのはかなり大きいからね。



 まあ、とりあえず無事に大量の鳥肉も確保できたことですし、領民のみんなも怪我人こそ出はしたものの全員生きているんだから、張り切って作るとしますかね。


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領民A「必死だったとはいえ、これ食えるのか?」


領民B「トリトン陛下は美味いって言ってたから食えるんじゃねえのか?」


領民C「ご領主に聞けばいいんじゃね?」


領民A、B「「それだ!!」」

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