第122話 さてと、試しに依頼を受けてみましょうか。

前回のあらすじ:道中何もなくてキツかった。






 とりあえずサムタン公国内へと入ることができたのだけど、何も得られなかった、、、。未知なる魔物や植物はおろか、人にすら出会わなかった。出会ったのは、身分やランクなどで態度を変えるどこにでもいる人種の人達だけという、何か徒労に終わりそうな予感がしてしまうほどの出だしであった。



 暗くなってきたので、マーブルに転送ポイントを設置してもらってから、フロストの町へと戻る。夕食の時間となったけど、何か消化不良に終わってしまい、やる気が起きずどうしようかをダラダラと考えていたときに、ふと大声が聞こえてきた。あ、これは面倒な方が来たな。案の定トリトン陛下だった。ズカズカと領主館に入ってきてこちらに話しかける。



「おう、来たぜ、って、どうした? 元気がないぞ侯爵。何か向こうで嫌がらせされたのか?」



「あ、陛下。いえね、今日ここを出発してサムタン公国までは入国できたんですよ。」



「おお、1日で到着できるとは流石だな。俺の別荘は役に立ったか?」



「はい、大いに。あそこから出発できたおかげで、道中がかなり移動距離が短縮されました。」



「それはよかったじゃねえか。で、途中で何かあったのか? 全部侯爵に任せたから、どんな結果になってもかまわねえから好きにしてくれよ!!」



「ありがとうございます。実はですね、ここを出発してから逆に何もなかったんですよ。」



「何もない? どういうことだ?」



「言葉通りですよ。新しい魔物とか植物とかがなかった以前の話で、道中、魔物はおろか、食べられそうな植物、人ですら会わなかったんですよ、、、。会ったのは国境の警備兵だけでしたので、、、。」



「お、おう、そいつは残念だったな。そうか、食べられそうな植物すらなかったのか、、、。お前鑑定持ってるだろ? アマデウス謹製のやつを。それを使ってもダメだったのか?」



「え? アイスさんの鑑定って、アマデウス神から授かったものですの?」



「そうです。以前アンジェリカさん達には話しましたよね? 私とアマデウス神との関係を。私はスキルの数こそショボいのですが、それ以外に称号で『アマデウス神の加護』がありまして、その中に鑑定と隠蔽(神)が含まれているんですよ。」



「なるほど、では、ひょっとして、あの化け物じみた空間収納もそうなんですの?」



「化け物じみたって、、、いえ、それは職業スキルですよ。」



「まあ、話がこれ以上逸れても仕方がないから戻すぞ。その鑑定でも新たな植物には出会えなかったのか?」



「出てませんでしたね。アマさん印の鑑定って、結構いい加減な部分もありまして、どれも完全に鑑定出来るわけではないのです。とはいえ、名前はともかく、どんな植物でも、食べられるか食べられないかは表記されるんですよ。」



「何か興味深いですわね。どんな感じで鑑定が出るのですか? もしよろしければ、その結果を見てみたいのですが、、、。」



 アンジェリカさんがそう言うと、セイラさんやルカさんはもちろん、マーブル達まで興味深そうにこちらを見ていた。トリトン陛下もどんな感じなのか知りたがっている様子だった。ってか、陛下は知っていると思ったけど違ったのね、、、。じゃあ、やってみますか、って、どれを鑑定してみましょうかね、、、。ふむ、領民に丸投げしようと考えていたけど、投げっぱなしでは申し訳ないから、一応用意しておいたアレで確かめてみますか。鑑定するものを決めて、それを空間収納から出して鑑定する。さあ、アマさん張り切ってよろ。



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「オークのモツ煮込み」・・・おお、モツ煮じゃな、これはワシも気に入っておる。ん? な、何? オークジェネラルのモツじゃと? それはワシもまだ食べてないやつじゃな。いつでもいいから、供えてくれてもいいのじゃぞ? チラッ


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「と、まあ、こんな感じですかね。」



 全員、この鑑定結果に言葉が詰まる。少ししてから、この中で一番アマさんを知っているであろう陛下がこの空気を断ち切ろうと鑑定結果に突っ込んだ。



「って、オイ! 何でさり気なく催促してるんだよ!! しかも何だあの内容は!! おい、侯爵よ、この鑑定結果ってお前さんの主観とか入れてないよな?」



「主観を入れて何になるんです? 私は結果をそのまま文字にしただけですが、何か?」



「ア、アマデウス神って結構お茶目な方なのですね、、、。お会いしたことがないのでわかりませんが。それで、アイスさん、アマデウス神のお姿ってあそこの教会にある像の方ですわよね?」



「ああ、あれはまんまアマデウスだな。けど、あんな優しげな表情は俺も見たことないぜ。」



「こう言っては何ですが、陛下の普段の行動を見ると致し方ないかと、、、。」



「ガッハッハッ! そりゃ、そうだな!」



「それはそうと、フロスト侯爵よ、その鑑定用で出したモツ煮というやつだけど、もちろん、夕食で出してくれる奴だよな?」



「あ、ハイ。」



「おう、それならもらっていくぜ! 侯爵、邪魔したな!!」



 そう言って、トリトン陛下は鍋ごと持っていってしまった、、、。いや、私達の分は別にあるからいいんだけど、フリーダム過ぎるぞ、、、。そんなことを思っていると、アンジェリカさんが申し訳なさそうにこちらに言ってきた。



「あ、あの、アイスさん、その、申し訳ありませんが、あのオークジェネラルのモツ煮って、私達は頂けませんのでしょうか、、、。」



「ああ、安心してください。あれは今回の陛下達の夕食用に用意したものなので、私達の分は別に用意してありますから。・・・ジェネラルじゃなくて、エンペラーのやつをね。」



 そう言うと、アンジェリカさん達はおろか、マーブル達も喜んでいた。



「ミャア!!」



「流石はアイスさんです!!」



「さすがは、あるじー!!」



 当然でしょう、まだ、あの陛下にはエンペラーは早い。というか、通常種とジェネラル種の味の違いって分かるのかな、、、。まあ、どれを出しても「うめえうめえ」と食べてもらえるのは作った方としては嬉しいのだけどね。



 オークは豚肉としては高級ランクの味である。恵みのダンジョンで手に入るグレイト種の肉も高級品であるが、オークは脂身が多めで、グレイト種はやや少なめが特徴だ。ただ、どちらも美味いことは間違いない。しかも今回はエンペラー種を使ってのモツ煮なので、美味くないわけがない。



 こうして、美味しい食事と楽しい会話のおかげで、先程沈んでいた気分も落ち着き、いつものテンションに戻ってくれた。



 夕食が終わって、ねぐらに転送して、風呂と洗濯をしっかり済ませて今日は終了。あの食事以外では、こちらに転生してから一番不毛な日だと思った。



 次の朝、マーブル達にいつも通り起こしてもらって朝食を食べて、早速サムタン公国へと転送魔法を使って移動する。今日は、とりあえずサムイの町へと行く予定である。



 サムイの町までは転送ポイントから街道に合流、そこから歩いて1時間程度の距離だった。町の入り口では守衛が入場確認を行っていたので、冒険者カードを守衛に提出した。守衛さんは戦姫の3人の魅力にやられつつカードを確認して驚く。当然私は蚊帳の外です、ハイ。



「おお、貴方達が有名な戦姫の3人でしたか! サムイの町へようこそいらっしゃいました!!」



「お役目ご苦労様ですわ。しかし、後ろの方達も控えておりますので、、、。」



「こ、これは失礼しました!! では、この町でごゆっくりなさってください!!」



 守衛さんは慌てて敬礼した後、私の対応をする。



「ほう、Cランクの冒険者か、職業はテイマーとな? なるほど、で、そこにいる猫とウサギとスライムがお主の従魔か。その従魔でCランクとは、お主はなかなかの手練れだな。・・・あまり大きな声では言えないが、ここの冒険者ギルドでは面倒な依頼が溜まっておってな、お主のような手練れの冒険者にいくつか依頼をこなしてもらうとありがたい。」



 戦姫を見た後、私のギルドカードを確認したときには、国境の守備兵と同じ対応をしてくるんだろうな、と思っていたら、意外にも少しはマシな評価を下していたのにはこちらも少し驚いた。



「まあ、私にできる内容であれば、依頼を受けさせてもらいますよ。」



「ところで、お主、見たところ、戦姫の3人と一緒に行動しているようだな。」



「そうですね。私の役目は荷物持ちと従魔による癒やしを彼女たちに与えることですかね。」



「なるほど、と言いたいところだが、それは嘘だな? いや、それだけの理由ではないはず。そんな理由であの3人がお主と一緒に行動しているわけではあるまい。恐らく、お主が手練れというのあるからだろう。」



 そう言うと、守衛はニヤリと笑った。ありゃ、この人侮れないな、、、。でも、荷物持ちと癒やし担当は嘘ではないんだよね。実際、そういった役割もあるしね。



「おっと、これ以上彼女たちや後ろに控えている者達を待たせるわけにはいかんな。よかったらゆっくりとこの町を過ごしてくれ。あ、冒険者ギルドはこの道を真っ直ぐ進めば着く。盾と武器の看板が目印だ、ってそのくらいはわかるよな。」



「ありがとうございます。まずは冒険者ギルドに顔を出すとしますよ。」



「ああ、そうしてくれ。」



 そう言って、サムイの町へと入ることが出来た。



「アイスさん、遅かったですね。一体何か問題でも起こりましたか?」



「あ、皆さんご心配おかけしました。問題とかではないのですが、よかったら冒険者ギルドでいくつか依頼を受けてくれと頼まれましてね。」



「なるほど。そうですわね。別に急ぎの旅ではございませんので、ここで依頼をいくつかこなすのも悪くありませんわね。」



「正直、外交の仕事もあるけど、あまり公都には行きたくないですから、私も賛成です。」



「久しぶりのまともな依頼、、、。」



 ルカさんの発言で、アンジェリカさんは「なるほど、確かに!」とか言ってたけど、一応フロストの町でこなした依頼だって、あれも冒険者ギルドから出された正式な依頼ですからね、、、。あと、公都についてはそちらの国で行かなきゃならない確定事項でしょうに、、、。一応私達も文句の一つを言いにきたから無関係ではないけど、、、。いや、正直面倒だというのは同意しますけどね、ここまで何もないと、もうこの国のことは放っておいてもいいんじゃね? とか少し思い始めたりしております、ハイ。



 まあ、そんなことより、まずは依頼だ依頼、依頼を受けるぞー、ということでサムイの冒険者ギルドへと到着。規模の違いこそあれど、冒険者ギルドの建物はどこも基本的に変わってないんだなあと思いつつ扉を開けて中に入る。



 私達が中に入ると、案の定私ではなく一緒にいる3人に視線が集まる。私の方に集まる視線は嫉妬と憎しみの感情しか向けられていない。女冒険者に関しても同様で、男冒険者とは違い、その視線はマーブル達に向かっている。どちらにしても、私に向けられる視線にはいい感情というものが含まれていない、私にまともな視線を向けてくれるところは、トリニトかフロストのギルドのみというのが悲しい、もういい加減慣れたけれども、悲しいものは悲しいのだ。



 そんな視線を感じつつ受付の窓口へと向かう。ここでの受付も人族であった。ラノベ定番の獣人の受付嬢はここでも見ることはかなわなかった。まあ、可愛い獣人なら我が領にいるから間に合っているといえばそうなのだが、ここはギルドの定番であるエルフ、あるいは獣人これは猫耳でも犬耳でもウサ耳でもかまわないから一度はお目にかかりたい。



「冒険者ギルドへようこそ! 見かけない顔ですね、違う国から来られた冒険者さんですか? まず、ギルドカードを確認しますので、ご提出ください。」



 言われた通りにギルドカードを受付嬢へと手渡す。



「はい、確認致しました。改めて冒険者ギルドへようこそ! こちらに来られたということは依頼を受けて頂けるんですか?」



「はい、そのつもりで来ました。何か未解決で私達にもできる依頼があれば受けようと思いまして。」



「わざわざありがとうございます! 戦姫の方達もご一緒なんですね。では、こちらはどうでしょうか?」



 戦姫と受付嬢が言った瞬間に、周りが騒ぎ出した。けど、そんなのももう慣れっこだから、私達は依頼の内容を確認する。・・・ふむふむ、オーガの集落ね、最低でも確認で、できたら討伐か。



「オーガの集落だそうですが、どうしましょうか?」



「オーガなら問題無さそうですね。」



「そうだね、オーガは討伐が大変な上に実入りが少ないから敬遠される傾向があるけど、ここも例外じゃなかったんだね。でも、オーガということは、久しぶりにアレを期待してもいいのかな?」



「・・・アレは、私も久しぶりに食べたい気がする、、、。」



「ですわね、アイスさん! 是非受けましょう!! そしてアレをたくさん作って下さい!!」



 アンジェリカさんが詰め寄ってくる。気持ちはわかるけど、近いです。ほら、周りの視線が敵意から殺意に変わってるし。慣れているとはいえ、こういう不可抗力的な流れで恨みを買うのは勘弁して欲しい。



 そして、アレという言葉で反応したのは戦姫だけではなかった。



「ミャア!!」



「ワタシもアレは久しぶりですね! 腕がなるですよ!!」



「ピー!」



 はい、マーブル達もですね。わかりましたよ、どちらにしろこれにするでしょうからね。



「賛成多数なので、その依頼を受けることにしますので、お願いします。」



「はい、ありがとうございます! しかし、この依頼はAランクの依頼ですが、フロストさんはCランクですが大丈夫ですか?」



「ええ、大丈夫ですわ。フロストさんはランクこそCですが、その実力はワタクシ達が保証いたしますわ。」



「戦姫のアンジェリカさんがそう仰るなら、これで依頼を受注致します。」



 依頼を受けて、具体的な説明を聞く。オーガは南に出現しているらしく、一応こまめに討伐されているが、ここ最近は出現報告も増えてきたらしく、ひょっとしたら集落が出来ているかもしれないそうだ。単体ならともかく、集団、ましてや集落単位となってしまうと、サムイの町がまずいということで、依頼を出しているけど、流石に割に合わないので受ける人は皆無だったらしい。一応単体討伐でも依頼を出しているようだけど、できれば集落の確認も含めたこちらの依頼を受けて欲しいとのこと。



 普通の冒険者なら危険性に対しての心配であろうが、このメンバーは違う。心配なのは集団程度の数しかいないかもしれないということ。数が少ないとアレがたくさん作れない。ちなみにアレとはオーガジャーキーのことである。ジャーキーについては、オークなどの豚さんや牛さんなどでも美味しく作れはするのだけど、これにかんしてはオーガが一番美味しく出来上がる。



 ということで、できるだけ多く存在して欲しいと願いつつ、私達は冒険者ギルドを後にした。


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トリトン陛下「ん? アイスがまた何か新しいものを作りそうな気がするな。」


料理長「勉学のため、わたくしめもお伴致します。」



リトン宰相(あれって、トリニトの町の特産品だったような。作ったのは侯爵でしたか。)

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