第113話 さてと、報告のはずですが、どうしてこうなった、、、。

前回のあらすじ:帝都に入って宮殿に到着した。



 テシテシ、テシテシ、ポンポン。はい、いつものやつです。しかし、いつものやつとはいえ、これ以上気分良く目覚める方法なぞあるわけがないので、、、とか思っていたら、予想通り来ましたよ。2つの衝撃が。流石に今回は寝る前からこうなるだろうと予測はしていたので、備えは万全である。もちろん被害は最小限にとどまった。けど、苦しいものは苦しいです。



「フロストしゃま、おはよー!」



「おはよー!」



「ああ、2人ともお早う。今日も元気だね。でも、ウサギさん達が一緒にいないから少しつまんないよね?」



「ううん、おうちにかえったら、たくさんあそぶのー。」



「あそぶのー。」



 見事な会話のコンビネーションですねえ。これ、メインの内容を交互に話しているんですよね。声聞こえていないからわからないでしょうけど。まあ、それはいいか。



 とりあえず目が覚めたので、朝の支度というか、顔を洗うだけですがね。いつも通り水術を駆使して顔を洗い、洗い終わったらそこら辺に散らして終了。それを見ていた2人は面白がってリクエストしてきたので、それぞれに用意して上げると、2人は喜んで顔を洗い出した。



 フロスト領内では、顔を洗う習慣は定着しつつあるけど、朝顔を洗わない領民ももちろんいる。基本的にそういった領民は水が苦手なので、公衆衛生上、風呂に入る習慣は身についているけど、好きこのんで入っているわけではない。この2人は顔を洗う習慣もあるし、風呂も大好きなのだそうだ。クレオ君はわかるけど、パトラちゃんは猫系なので正直意外だった。いや、マーブルもそうか。そう考えると納得だ。



 2人が顔を洗い終わったので、水術で洗うように用意した水と、顔に付いている水分ををとばすと、2人はおーー、と驚いていた。まあ、普通は驚くよね。マーブル達は見慣れているから何の反応もないけどね。



 普段であれば、これから朝食の準備にとりかかるけど、残念ながらここは帝国の宮殿内なので、向こうが用意してくれる。本来であれば、宮殿の料理なので豪華なんだけど、ここはトリトン帝国だからねえ、、、。昨日の夕飯も頑張っている感はあったけど、やはり、味がねえ、、、。ちなみに、クレオ君とパトラちゃんはどういう反応だったかというと、「あまり美味しくない、、、。」のだそうだ。それでも、折角作ってくれたのだからと頑張って最低限食べきったのは偉いと思う。



 というわけで、食事が終わってこの部屋にもどってから頑張ったご褒美として、大量にストックの残っているコカトリスの卵をゆで卵にして2人にそれぞれあげた。ゆで卵は水術で簡単に作れるからね、水術だから火も使わないし。ゆで卵は固ゆでで作ったよ。味付けはもちろん無し。飲み物は大量に空間収納にストックしてある湧き水ですよ。2人は大喜びで食べていましたね。マーブル達もそれを見て食べたそうにしていたから、もちろん追加で用意したね。



 そういうことがあったので、朝食とはいえ2人ともそれほど嬉しそうではなく、どちらかというと覚悟を決めた感じの表情だったのは少し笑えた。



 朝食の呼び出しが来るまで、2人はマーブル達と遊んでいて、私はそれを見てほっこりしていた。ちなみにアンジェリカさん達にはお付きのメイドがついているけど、私達にはそういったものはつかなかった。というのも、トリトン帝国では、臣下が宮殿内に泊まるとき、基本的にはお付きの者については自分で用意するものであり、宮殿側からは用意しない。呼び出しとかそういった役目を持ったものが来るくらいである。そのために、こちらでコカトリスのゆで卵を作ったりと、ある程度好き勝手出来るのだ。だって、ここはトリトン帝国だからね。国ができたのが一番古い歴史ある国とはいえ、経済的には恐らく国別ランキングで見ると、圧倒的最下位に位置しているはず。その分、自領で好き勝手できるのはありがたいけどね。



 宮殿内に常駐している近衛兵が朝食の呼び出しをしにやって来たので、食堂というか、朝食を用意している部屋へ近衛兵に案内してもらう。一応、案内してくれた近衛兵には、チップではないけど、日持ちのするオーガジャーキーを渡しているが、これがもの凄い好評で、今回来た近衛兵いわく、このオーガジャーキー目当てでこちらに来る担当を決める際に多少もめるそうだ。で、今回はこの人がその権利を勝ち取ったようで、嬉しそうにしていた。一応人数で分けているそうだが、余った分はもらった人がゲットできるそうです。・・・機会があったら、作り方教えてやるかな、、、。いや、あれはトリニトで作れるはずだから、トリニトから取り寄せればいいじゃん。やったね、アッシュ、収入が増えるよ。問題はこっちに金があるかどうかだけど。



 朝食のある部屋へと到着すると、アンジェリカさん達はすでに来ていたので挨拶を交わす。いや、客人を先に来させるなよ、、、。しかも身分は向こうの方が圧倒的に上なんだけど、、、。ただ、アンジェリカさん達はそんなことは全く気にしていないようだった。



 朝食は白パンではなく黒パンであった。基本的に貴族は白パンを常食しているので、宮殿の食事で出されるパンも白パンが普通である。しかし、何度も言うけど、ここはトリトン帝国である。外交上相手を馬鹿にしているのではなく、リアルで白パンという贅沢品を用意できないほど貧しいのだ。しかし、実は私はこの黒パンの方が好きだったりする。というのも、白パンは比較的柔らかいというだけで、味というものはほとんどしない。まあ、小麦粉が原材料というだけで、白パンとは言われているけど、形成されたナン以下の存在でしかない。一方黒パンは硬いけど、いろいろなものが入っているので、実は結構良い味なのである。硬いのは水術でどうとでもなるし。



 実はアンジェリカさん達もそのことを理解しており、白パンよりはむしろ黒パンの方を好んだりする。というわけで、水術でみんなの食べるパンを柔らかくしてから、食事を頂く。アンジェリカさん達が私達が来るのを待っていたのはそういった理由もある。けど、待たせていい相手ではないんだけどね、、、。



 そんな感じで朝食が終わり、部屋に戻って謁見の準備をする。今回の謁見ではクレオ君とパトラちゃんは残念ながらお留守番ということで、ライムに護衛兼遊び相手として2人と一緒に留守番をしてもらう。戦姫の方でも、同じ理由でオニキスをこちらに預けてくれた。こういった心意気に感謝である。とはいえ、護衛というよりも遊び相手の意味あいが強い。こう見えて2人とも強いし。



 準備やらモフモフタイムやらで時間が過ぎ、近衛兵が私達を呼びに来たので部屋を出る。



「フロストしゃま、いってらっしゃい!」



「いってらっしゃい!」



「「ピー!!」」



 2人+2匹の見送りを受けて、近衛兵の後を付いていくと、アンジェリカさん達と合流した。アンジェリカさん達と一緒に近衛兵の案内に従って付いていくと、大きな扉の前に到着する。



「アイス・フロスト伯爵、並びに、タンヌ王国アンジェリーナ・デリカ・タンヌ王女殿下とお付きの方達がご到着です!!」



 1人の近衛兵が大きな声で私達の到着を告げると、大きな扉が自動的に開いた。ん? 自動的に? しかも返事とか無いんですけど、、、。いつもなら、少なくとも返事があるはずなのに、、、。まあ、考えてもしょうがないか。



「このままお進みください、皇帝陛下がお待ちです。では、我らはこれにて!」



 2人の近衛兵はそう言うと、その場を離れていく。私達は促されるままに扉をくぐって真っ直ぐ進む。トリトン帝国とはいえ、流石は歴史のある国である。謁見の間はかなり広い。その謁見の間に入ると、正面に皇帝陛下がいらっしゃるのは確認できたけど、それ以外に人の気配は全く無い。罠があるかもしれないと少し思ったけど、それすらもなさそうであった。そのまま進んで入り口と皇帝陛下との距離の半分ぐらいまで進むと、扉が勝手に閉まったようだ。バタンと結構でかい音がしたからね。



 更に進んでいくと、何と皇帝陛下の方から声をかけてきた。



「おう、フロスト伯爵来たな。それに、マーブルとジェミニも。」



 あ、あの、以前会ったとき、こんな口調でしたっけ? 中の人変わった? そんなことを思っていたけど、そのまま話しは続く。



「おう、お前さん達がAランク冒険者にしてタンヌ王国王族のアンジェリーナ嬢達か! 俺がこのトリトン帝国で皇帝をやらされているハイドゥヒドゥ・ヒドゥン・トリトンだ。以後よろしく頼むぜ!」



「こ、皇帝陛下、お初にお目にかかれて光栄です。ワタクシ、タンヌ王国第3王女、アンジェリーナ・デリカ・タンヌと申します。」



「フロスト伯爵よ、俺の口調が変わっていることに驚いたようだが、これが素だ。別に中の人が変わったとかそういったことはないから安心してくれ。それと、堅苦しいのは嫌いだからな。ここには俺1人しかいねえから、普段の口調で話してくれればいい。」



「い、いえ、流石にそれは、、、。」



「流石に無理か? そういえば、お前さん、鑑定技能持っていたよな? じゃあ、今回は特別だ。俺を鑑定してみろ。普通なら、鑑定しようとした奴は発狂して廃人になっちまうが、お前さんなら大丈夫だろ。」



 中の人が変わったとか、ある程度読める方なのか、、、。まあ、鑑定しろと言われてしまったら、鑑定するしかないか、、、。じゃあ、アマさんよろ。



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『名前』 トリトン  年齢 29858歳



『性別』 ♂



『種族』 海神


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 は? 海神? え? 何で神様が普通にここにいるの? てか、ここ内陸国だよね? 何で内陸国に海神が普通にいるの?



「おっ、その表情を見ると、鑑定したようだな。改めて自己紹介するぜ。俺はトリトン、鑑定結果も出たように海神と呼ばれる存在だ。フロスト伯爵、いや、アイスよ、お前さんのことはアマデウスから聞いているぜ。」



「え? アマさん、いや、アマデウス神とお知り合いで?」



「おう、アマデウスと俺は親友みたいなもんだぜ。だから、お前さんの話はよく聞くんだ。まあ、たまに神界目線で確認したりするけどな、ガハハッ!!」



「え? 海神? そ、それは誠ですの? そ、それにアマデウス神って、、、え?」



 あ、ここに私以上に混乱している人達が。



「まあ、驚くのも無理はねえな。アンジェリ-ナ嬢達よ、お前さん達のことはアイス達を通じてある程度知っている。アマデウスお気に入りのアイスが珍しく信用する人間だということもな。」



「え? ワタクシ達がアイスさんに信用されている数少ない人間ですの? それは光栄ですわ!!」



「ん? 私、アマさんにアンジェリカさんの話ってあまりしたことないのですが。」



「おう、そりゃ、神界は基本的に暇だからな。ちょくちょく下界の様子を見たりするんだよ。」



「いや、そんなことより、この国の内政をして欲しいんですけど、、、。」



「ん? そんなもん無理に決まっているじゃねえか。だから、あいつらに政治任せておいたんだけどよ、結果この通りさ!」



「いや、さも当然とばかりに言わないでくださいよ、、、。」



「今話したとおり、俺は海神だからな、海のことはわかってても陸のことはさっぱりだからな。おお、そうだ! アイスよ、お前、この国の皇帝やるか? お前さんならこの国を発展させられるだろ!」



「皇帝陛下、いえ、トリトン様、それは賛成ですわ!!」



 何か話しが変な方向に進んでいるのですが、、、。何かセイラさんやルカさんも同じように頷いているし、何でマーブルやジェミニも頷いているんですかね、、、。いや、マジで勘弁してくれよ、、、。



「謹んでお断りさせていただきます。もしごり押しするようであれば、私はこの国を出ますので。」



「うわ、そんなに嫌か? お前さんにこの国を去られると大打撃だからなあ、いかに俺でもそのくらいは理解できる。仕方ない、今回は諦めるか。」



「いや、今回ばかりではなく、未来永劫諦めてくださいよ、、、。」



「チッ、釘刺してきやがって、、、。まあいいや。」



「舌打ちしないでくださいよ、嫌なものは嫌なんですから。今だってフロスト領の開発に精一杯なんですからね。」



「ほう、そう言う割りにはお前さん、結構この猫達といろいろ遊び回っているじゃねえか。俺なんかこんな面倒な地位になっているばかりにここからほとんど出られねえんだぜ、、、。しかも、お前んとこの領地でアマデウスの教会なんて作りやがって。」



「いえ、あの教会は名前こそアマデウス教会にしてますし、像もアマさんにしてはいますけど、別にアマさんだけの信仰ではないんですがね、、、。」



「それだよ! そこで美味いもん供えているらしいじゃねえか!! たまに神界に行ってみれば、他の連中なんかその供え物の自慢をわざわざ俺にしてくるんだぜ? こっちとしてはいい迷惑だ!!」



「陛下がトリトン神ということはわかりましたので、これからはトリトン神にもお供えしますから、それでよろしいですかね?」



「それなら、それで我慢するか、、、。いや、ダメだな。」



「えぇー、何でダメなんですかね、、、。」



「そりゃ、そうだろ。俺だけ人間界にいるのに何でわざわざ神界まで行って取りにいかにゃなんねえんだよ、、、。お、そうだ!!」



 あ、何か悪い顔してるな、こりゃ、面倒事だな、、、。でも、一応聞かないとまずいか、、、。



「お前さん達、というか、マーブルが転送魔法使えたよな? じゃあ、こうしようか。宮殿内にお前達の部屋を与えるから、そこに転送ポイントつけろ。そのついでに、俺に部屋にも転送ポイントつけて、お前の領地に転送できるようにしてくれ。そうすれば、俺も気軽にお前さん達の美味いメシが食えるってもんだ!!」



 何を言っているんだ、このオッサンは?



「おい、考えていることがハッキリわかるくらいあからさまに嫌な顔するのはやめろ、これは皇帝命令だからな!!」



「変なことで皇帝命令出さないでくださいよ、、、。まあ、皇帝命令なら仕方ないですね、マーブル、頼めるかな?」



「ミ、ミャア?」



 ありゃ、マーブルも「お、おう。」みたいな感じで戸惑ってるよ、、、。一応了解はしてくれたみたいだけど、、、。



「お、そうだ。アンジェリーナ嬢達。ついでで悪ぃが、アイスと同じ部屋をお前さん達の部屋として用意するけどいいか? 今後、ここに来ることがあれば、アイス達の部屋をお前さん達も使ってくれればいい。」



「トリトン様、いえ、皇帝陛下。その御下命ありがたく。」



 おいおい、何か勝手に話しが進んでいるぞ、、、。



「よし、これで俺の素晴らしい食事計画は大丈夫だな。アイスよ、ちょくちょくお前さんの領地に行かせてもらうぜ。」



「本当は嫌ですが、承知しましたよ。ただ、皇帝陛下が白昼堂々と帝都以外を歩き回るのはいろいろと問題がありますからね、その辺は考えてくださいよ。」



「あぁ、確かにそうか。じゃあ、こうするか。お前の領地にいるときは、俺の名は『トリン』ということにすればいいな。アイス、それでいくからな。アンジェリーナ嬢達もそれで頼むな!」



 おかしい、、、。ただ報告に来ただけだというのに、何でこんな事になっているのだろうか、、、。

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