第112話 さてと、ようやく帝都に着きましたね。

前回のあらすじ:トリニトに着いたけど、住民がウザかったのでそのまま帝都へと向かった。




 私達一行は帝都トリトンの城門が見える場所まで進んでいた。今回は馬車を使っての移動なので、前回のような門前払いはなさそうだけど、はてさてどうなることやら。


 貴族というものは、自らが御者をすることはない。で、今回は御者的役割を果たせるのはクレオ君とパトラちゃんのみである、というのも、セイラさんとルカさんは一応そういった役目を果たすことはできても、それはあくまでタンヌ王国、いや、アンジェリカさんの馬車である場合だ。残念ながら今乗っているのは私の馬車であり、アンジェリカさん達がメインではないのだ。当人達は乗り気ではあったが、流石にまずい。だから、消去法でクレオ君とパトラちゃんとなる。ということで、移動中に口上の練習などをしていたが、別の意味でダメだったのだ、可愛すぎて。


 また、私以外ではアウグストは命令を聞かないのも理由の1つである。道中だったら、ある程度のペースで進むだけなので問題ないけど、細かい命令が必要なときは残念ながら他の人達では無理である。一応、マーブル達の言うことなら聞くけど、いかんせん言葉が通じないからなあ。そんなわけで、私自身が御者を務めることとなった。この方が私らしくていいだろうと思った。


 帝都トリトンには門が2つあり、1つは貴族用、もう1つは一般用となっている。今回もまずは貴族用で試してみて、ダメなら一般用で、ということで話はついている。


 前回帝都に来たときは、皇帝陛下直筆の手紙を持っていただけで、服装はみすぼらしいものだった。まあ、長男とはいえ、貴族の服なんぞ大層なものはそもそも持っていなかったのだから仕方がない。今回はその反省点を踏まえて、フェラー族長が用意していたらしいので、その服を着ることになった。こういった格好は正直勘弁して欲しかったが、着心地については普段着にしたいくらい最高のものであった。


 というのも、フェラー族長が指示して、狩り採集班の領民がヴィエネッタからわざわざ最高級の生地と糸を作成して貰い手に入れたものだそうだ。ヴィエネッタに直接事情を説明したところ、大張り切りで準備したらしい。その最上級の生地を使って我が領の職人達が気合を入れて完成させたらしい。サイズなどは完璧だったのはいうまでもなかった。一度も測ったことないのに、、、。


 そして、その完成品を見たアンジェリカさん達戦姫の3人は、羨ましそうに見ていたそうで、ボソッと自分も欲しいな、的なことをつぶやいたのを聞いて、今現在は3人用の服を用意しているとのことだった。いや、欲しいならボソッと言わなくても作ってもらいますからね。普通に言ってくれれば良かったんですよ。領民達も戦姫がご所望であれば、喜んで作ったでしょうからね。まあ、今現在も職人達が喜んで作成しているところだと思いますよ、ハイ。


 ちなみに、この服の価値についてだが、戦姫の3人いわく、これ1着で小国が買える、とのこと。流石にこの質は無理だけど、多少の劣化版でも十二分に高価値であり、これらを特産品にすれば、一気に我が領が潤うとのことだけど、残念ながら、これでも我が領って商業はそれほど発展してないんだよね。基本的にお金については冒険者ギルトから得られる報酬が基本で、これらのお金は行商人との取引や、屋台などで使われる位のもので、領内での取引は物々交換だしね。アンジェリカさん曰く、それで領内が回っているのがありえないとか言っていたけど、もう少し人が増えないことには、ねえ。


 また、正直言うと、貨幣経済をこの町で今取り入れてしまうと、バランスが崩壊するのは目に見えているから導入しづらいんだよね、、、。何せ、ここで手に入る食料って基本的に外の町から見ると高級品が多いからねえ、肉は最低でもオークだし、木材も魔樹が基本だし、服などに至っては、同じ布生地にしても他の町に比べると質が高すぎるし、糸についてはシルクスパイダーの糸が平気で使われているくらいだからね。自分達で一から作り上げておいて言うのも何だけど、、、。


 まあ、そんな話はさておき、服装については問題無さそうだから、さっさと通れるか確認しましょうかね。


「お止まりください。ここは帝都トリトンです。御用向きを伺います。」


「任務ご苦労様。私はフロスト領領主、アイス・フロスト伯爵である。皇帝陛下に報告するべく参った。」


「フ・フロスト伯爵でございますか!? す、少しお待ちください!」


 そう言うと、門番は急いで後方に下がり、詰め所みたいなところへと走って行った。それほど待つことなく先程の門番が上司であろう人物をつれてこちらにやってきた。その上司であろう人物は見たことあるな、確か前回来たときに私を門前払いした人だったかな。よかった。順調に出世していたんだな。


「フロスト伯爵、お久しぶりでございます。部下が大変失礼致しました。」


「いや、気にしなくても大丈夫。しっかりと役目を果たしているからね。」


「失礼を承知で申し上げますが、前回といい、今回といい、もう少し貴族らしくして頂けますと、我々としても助かるのですが。」


「え? 今回は貴族らしい格好をしてるでしょ。」


「いや、格好はそうかも知れませんが、何で伯爵自らが御者をしているんですか、、、。しかも、お伴は獣人の子供ですし、当たり前のように猫とウサギとスライムが膝の上に座っておりますし、、、。」


 そう、私が御者として御者席の真ん中に座っており、左右にはクレオ君とパトラちゃんが座っている。それぞれの膝の上に、左からライム、マーブル、ジェミニと乗っている状態なのだ。


「可愛らしくて癒やされるでしょ?」


「いえ。可愛らしいのは認めますけど、ここをお通りになるときくらいは自重して頂けますと、、、。って、そうじゃなかった。帝都にいらっしゃった御用向きを伺います!!」


 上司は気を取り直して、任務を遂行してきた。うん、お見事。


「タンヌ王国への援軍出陣においての結果報告並びに、そのお礼としてアンジェリーナ王女殿下がご同行なさっております。それ以外には我が領におけるモンスタートレインの被害その他の報告のために参った次第です。」


「御用向きの件、承知致しました。申し訳ありませんが、馬車の中を改めさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「どうぞ、しっかりと確認して、そのご尊顔を直に堪能してください。」


「フロスト伯爵、、、。」


 上司は軽くため息をつきながら馬車の中を確認する。内心はかなり呆れていたのだろうが、表情を変えることなく対応したのは流石としか言いようがなかった。中を確認した門番達が驚きながらこちらにやってきた。


「馬車の中を確認させて頂きました、、、。フロスト伯爵、失礼ながら申し上げますと、この馬車って一体どうなっているのですか? 中が異常に広い気がするのですが、、、。」


「ああ、そうだね。マーブルの空間魔法で広くしてあるから、ああ見えてもかなり快適なんだよね。」


 私の膝の上に乗っているマーブルを撫でながらそう言うと、マーブルは「ミャア!」とドヤ顔っぽい表情をしながら鳴く。うーん、可愛すぎる。


「話には聞いていましたが、もの凄い高性能な猫ちゃんですな。私も欲しいです。」


「うちの猫(こ)達はそれぞれが優秀だからね。どの猫(こ)も1匹ずつ欲しくなるよ。もちろんあげないけどね。」


「それは承知しております、、、。ところで、フロスト伯爵、馬車を改めたのみでは失礼に値するので、改めてアンジェリーナ王女殿下にご挨拶させていただきたいのですが、よろしいですか?」


「ありゃ、中を検めたときに、挨拶しなかったの?」


「ハッ、中を検めているときですと、何か怪しいものが見つからない限りは声をかけてはいけないきまりとなっておりまして。」


「なるほどね。で、こういうときはどうすればいいのかな?」


「・・・フロスト伯爵、、、。側面にある窓をお開けくださいまして、そこからお声がけして頂けますと。その後は、王女殿下とお付きの方達が心得ていらっしゃいますので。」


「なるほど。じゃあ、そうしてもらうように言ってくるから。」


 私は馬車の中に入って、待機していたアンジェリカさん達に伝える。


「アンジェリカさん、セイラさん、ルカさん、門番さんが3人にご挨拶したいそうです。」


「了解しましたわ。後はワタクシ達が上手くやっておきますので、アイスさんは御者席に戻ってお待ちになってください。」


「わかりました。では。」


 そう言われたので、私は御者席に戻って挨拶が終えるのを待つことにした。門番達が馬車の側面へと移動して少しして窓が開くと、門番達が一斉に跪く。


「頭をお上げください。お役目ご苦労様です。こちらにおわす方が、タンヌ王国アンジェリーナ王女殿下です。」


 セイラさんがアンジェリカさんを紹介する。あ、そうか、こういうときって、お付きの人が話をするんだったな。こういう光景を見ると、アンジェリカさんって王女なんだなと思う。普段が普段なだけに。それにしても、こういう場で切り替えがしっかりとできる3人は流石だなと関心もする。


「初めて御意を得ます。アンジェリーナ王女殿下、並びにセイラ様にルカ様。トリトン帝国にようこそおいでくださいました。」


「帝都の門を守護する皆様、お役目ご苦労様です。タンヌ王国国王の3女アンジェリーナ・デリカ・タンヌと申します、以後お見知りおきを。」


「王女殿下自らお声をかけて頂き光栄の極にございます。タンヌ王国王都と比べますと何も無いところではありますが、ごゆっくりなさってください。」


「ありがとう。」


 挨拶も済んだようで、門番達が一斉にこちらに戻ってきた。


「フロスト伯爵、任務お疲れ様です。それではお通りください!」


「ありがとう、それでは通してもらうよ。」


 こうして私達一行は帝都トリトンへと入った。貧困で有名なトリトン帝国とはいえ、仮にも帝都なので人口や建物の数はそれなりに多い。数だけはね、、、。そんなことを考えていると、クレオ君とパトラちゃんが思っていたとおりのことを口に出した。


「おうちがおおいけど、わたちのおうちのほうがきれい。」


「ひともいっぱいいるけど、なんかこわいな。」


 そんなことを話すと、アンジェリカさんがフォローするかのように話した。


「2人の住んでいるフロストの町が綺麗すぎるのであって、他の所はどこも似たようなもんですわよ。」


「そうなの? アンジェリカおねえちゃん。」


「おねえちゃんたちのおうこくも、こんなかんじなの?」


「そうよ、ほとんど似たようなものだよ。」


「わたち、フロストしゃまといっしょでよかったー!」


「ボクもー!」


 ああ、2人とも嬉しいことを言ってくれる。さっきも大人しくしていたし、思わず2人の頭を撫でてしまう自分がいた。うん、いいモフモフである。


「「えへへー。」」


 2人の頭を撫でていると、膝の上に乗っていたマーブルがスリスリしてきたので、こちらもナデナデ攻撃をお見舞いする。それを見ていたジェミニとライムもスリスリ攻撃をしてきたので、こちらもモフモフで迎撃していく。帝都の住民はその光景を見て驚いたり、羨ましそうに見ていた。何故か戦姫の3人も同じように見ていたのは気のせいかな。貴方達にもオニキスがいるでしょうに、、、。


 そんな感じで馬車を進めて、市民街を通過して貴族街への門へと到着する。門に到着したけど、話は通っているようで、先程と同じく門番達がアンジェリカさん達に挨拶をして門を通過する。


 貴族街は市民街よりも建物自体は綺麗だけど、それでもフロストの町と比べてしまうと劣っているようだ。まあ、建築素材の質が段違いだからそれは仕方がないんだよ、2人とも。


 貴族街には特にこれといって特筆するべきものはないので、そのまま王宮へと進んでいく。先触れとして帝都に行ってきたウルヴの話だと、リトン伯爵は自領に戻ってしまったようで、不在ということだった。


 貴族街を通過して宮殿の門へと近づいていく。宮殿はかなり巨大ではあったが、2人はこんなことを言ってきた。


「あのたてものおっきーよね。」


「うん、おっきーけど、フロストしゃまのおしろよりちいさい、、、。」


 は? フロスト城(張り切って建築中)より小さいだと? ってか、フロスト城ってまだ未完成だよね? そんな未完成の状態の城よりも小さい? 領民達は一体何を目指しているのだろうか、、、。正直領主館でも十分だぞ、私は、、、。


 そんなことを思いつつも宮殿の門へと到着する。


「フロスト伯爵、お話は伺っております。これより馬車を降りて移動願います。そして、アンジェリーナ王女殿下、ならびにセイラ様、ルカ様、トリトン帝国の宮殿へようこそ!」


 定番の遣り取りの後、アウグストと馬車を厩舎に預けて宮殿内に入る。宮殿に入ると、私達とアンジェリカさん達はそれぞれ別の部屋に案内された。クレオ君とパトラちゃんは私達と同じ部屋に入った。名目上は私のお付きとなっているからね。


 この後の予定を聞くと、とりあえず謁見は明日ということになり、今日は特にこれといった予定はないとのこと。というのも、明日じっくりと話をしたいとの事だったので、明日こなす業務を今日中に仕上げないとならないらしい。


 そういうわけで、与えられた部屋で私達はノンビリと過ごすことになったけど、そこはお子様2人がいる部屋である。ガマンできなくなったのか、クレオ君とパトラちゃんはマーブル達と部屋内ではあるが遊び回っていた。本当はよろしくないけど、別にいいかと思って、その楽しそうな姿にホッコリしながらその日は過ぎていった。

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