第110話 さてと、これよりトリニトの町へと出発です。

前回のあらすじ:トリニトの町へと持っていく差し入れの準備をした。




 テシテシ、テシテシ、ポンポン、ツンツン、ああ、今日はコカトリスさんも参加なんだな、と思いつつもいつもの朝起こしを堪能する。さて、そろそろ目を開けようと思ったら、思わぬ衝撃が襲った。



「ぐえっ、、。」



 な、何が起きているんだ、一体? びっくりして目を開けると、そこには普段いないはずのクレオ君とパトラちゃんの姿が。格好もいつもの格好ではなく何故かよそ行きの格好っぽくおめかししている感じだった。



「あ、起きた-、フロストしゃま、おはよー!」



「おはよー!」



 2人はここにいるのが当然と言わんばかりに普通に挨拶してきた。



「ああ、クレオ君とパトラちゃん、おはよう。今日はおめかしして、どこかにでかけるのかな?」



「うんっ、今日はみんなといっしょに、とりにと、っていうまちにいくんだって!!」



 はゐ? 今何て言ったの? みんなと一緒? ってか、君達も一緒に行くんかい、、、。意味もわからずに困惑していると、カムドさんが入ってきたので事情を聞いてみた。



「アイスさん、おはようございます。」



「カムドさん、おはようございます。クレオ君とパトラちゃんがトリニトの町へと一緒に行くと聞いたのだけど、その件については全く聞いてないんだけど、、、。」



「ああ、そのことですか。実はですね、アイスさん達一行が、皇帝陛下への拝謁にいく途中でトリニトの町へと寄る旨を向こうに伝えたところ、アッシュ様がですね、それなら援軍で来てくれた人達にもお礼がしたいから一緒に連れてきてくれと頼まれましてね。」



「なるほど、そういうことでしたか。まあ、トリニトの町までは普通に移動していく予定でしたから問題ないかな。」



「そういうことですので、この子達も是非一緒に連れて行って上げてください。近くとはいえ、この子達はここ以外の町はほどんど行ったことないですしね。」



「それを言ってしまうと、この町に最初から住んでいる人達はみんなそうなんだけどね、、、。」



「それもそうですね、確かに。おっと、アイスさん達は朝食がまだでしたね、早速準備させましょう。」



「いや、朝食はいつも通り自分たちで用意するから大丈夫。で、他にも朝食まだ食べてない人達っているのかな?」



「いえ、恐らくアイスさん達以外は全員済ませてあると思いますよ。」



 念のため聞いてみたところ、私達以外は朝食は済ませているとのことだったので、みんなには一旦出てもらってから朝食の準備をすることにした。その前に、顔を洗ったりもしておかないと、何せ起きてからしたことっていえば、ビックリして状況を把握するのが精一杯だったからね。



 朝食を終えて、支度を調えて、差し入れとして用意したものを確認してから、領主館を出ると、今回行くであろうメンバーが全員揃っていた。ってか、アンジェリカさん達まで混じってるし、、、。あの、貴方達は身分的にも上ですし、何よりゲストなのですから、、、。え? ここにいるときは住人の1人だからこれでいいんだって? あ、ハイ、ソウデスネ、、、。何か本当にそう思って行動しているのが理解できるからこれ以上は申し上げませんよ、、、。



 さてと、気を取り直して、今回はどの馬車を使って移動するのかな、と辺りを見る。いや、空間収納があるから手ぶらでも余裕なんだけどね、でもさ、一応体裁ってものがあるじゃん? 一応差し入れという名の救援物資を用意しての移動だからね、荷物たくさん用意したよってアピール必要じゃん? そういう訳で馬車とか用意したみたいです、ハイ。ええ、私個人的には手ぶらでよかったんですよ。空間収納使えば良いじゃんと思っていてね。でもね、カムドさんやらフェラー族長始め、アンジェリカさん達までもが体裁は必要だと、そう仰ったわけですよ、もうね、数の暴力には逆らえませんよ。というわけで馬車を利用するんです。



 馬車は合計で3台、どれもゴブリンさん達職人の技が光る一品ですよ。それで何だか知らないけど、その3台はそれぞれ合体と分離が可能のようで、どういう構造をしているんだろうと気になったりはする。というか、合体する意味あるのか? 1台1台がかなり重そうなんだけど。



 まあ、どれだけ重くても木騎馬が引っ張ることになるだろうから問題ないかな、と思ったりしてたんだんだけど、何と、アウグスト1頭で引くらしい。いや、流石にアウグストとはいえこれを1頭で引くのはどうかと思っていたら、アウグストが自ら志願したらしく、試しに3台に荷物満載の状態で引かせてみたところ、何の問題もなく引けていたというから驚きでしかない。スピードだけでなくパワーも凄いんだね、スレイプニルって、、、。とりあえず、引くのが大変になったら、水術でどうにかしますかね。



 それと、馬車の他には小型のソリが3つ用意されていた。そのソリは、2人が乗れそうな感じの大きさや構造であった。実物は見たことないけど、以前の世界でのトナカイが引いていたソリを思い出した。これは誰が引くのかと思っていると、何とウサギ達が引くとのことだった。何でもアウグストが馬車を引いているのを見て、ウサギ達が自分たちもやってみたいと言ったらしく、それを聞いてゴブリンの職人達が張り切って作成したらしい。



 もちろん魔樹でつくられた超高級品で、耐久性もバッチリという代物。冒険者のギルド長に聞いてみると、これらの馬車1台1台はもちろん、ウサギ達が引くソリ1台だけでも、へたな国の上級貴族が所有している馬車よりも高価なものになるらしい、、、。まあ、全て魔樹が材料だからそれだけ高くなるか。我が領では魔樹が基本だけど、他の領地では通常の木だからね。これでエイシャントオークが加工可能になったら、どの位の値段になってしまうのだろうか、、、。



 ちなみに、今回同行するウサギ達は全員で10体(言うまでもなくジェミニはノーカン)。1台につき2体で引くらしい。こちらについても厳しくなったら、水術でどうにかする予定だ。



 説明し忘れていたが、馬車についてだけど、真ん中の1台は乗る用で、左右の2台は荷物用とのこと。どれも一応、マーブルの空間魔法が付与されていて、見た目よりも容量が大きい。とはいえ、体裁のために作られたようなので、それほど広くはしていないようだけど、それでも、トリニトの町へと行くメンバー全員を1台の馬車だけで乗せることはできるみたいだけど。



 念のために、参加者が揃っているかを確認した後、既に合体してある馬車の左右に荷物を入れていく。重量バランスを考えて、道中で必要な分と、差し入れの分を半分ずつに分けて、それぞれ左右の馬車に1つずつ入れた。また、それとは別に、ウサギ用のソリには備中グワみたいな形のものと、金属のローラーみたいなものがそれぞれ入れられ、馬車にはソリに入れたものより大きいローラーみたいなものがいくつか入れられたけど、一体これ何に使うんだろうか?



 アウグストを馬車に繋いで、その後でウサギ達をソリに繋ぐ。馬車などに繋ぐ作業ってかなり面倒そうなイメージがあったけど、全くそんなことはなく、あっさりと繋がれていたのには驚いた。何か工夫がされているんだろうなと思ったけど、その工夫が何であるのかわからないので割愛。



 私達はソリに繋がれていないウサギ達と馬車に乗り込んで、出発準備は完了した。ただ、レオだけは、ウサギが引くソリの1台に乗り込んだ。



 今回、トリニトの町へと行くメンバーは、陛下に謁見する私、マーブル、ジェミニ、ライム、それに戦姫の3人と、トリニトの町へと招待された援軍のメンバーである、フェラー族長にエーリッヒさん他領民達やウサギ族に加えて、クレオ君とパトラちゃん、それと何故かレオが同行している。



 さて、これから出発である。交代で御者を務めるらしいけど、最初はフェラー族長が務めるようだ。私は一応領主であるので、御者の後ろの場所に座ることになった。右隣にはアンジェリカさんが座っている。マーブル達は私の左隣に座り、セイラさんとルカさんはアンジェリカさんの右隣に座った。何故かクレオ君がアンジェリカさんの上に、パトラちゃんは私の上に座っていた。うん、モフモフ。



 領民達の見送りを受けて、フロストの町を出発した。フロストの町と街道をつないでいる道を通っているが、日に日に馬車用の道も完成に近づいてきている、とはいえ、まだまだ時間はかかりそうだ。まあ、慌てていないからゆっくりでもいいから、その分しっかりと作って欲しいと思う。作業員として頑張っている領民達に手を振りながら街道を目指して進む。



 しばらく進んで、ようやく街道との合流点に到達。これから街道を進もうというときに、馬車が停止する。そして、ウサギ達が引いていたソリが馬車の前に出て停止する。それから、馬車から数人が出てきたかと思うと、ソリに置いてあった備中グワみたいなやつをソリの後方に設置して突き刺していく。また、別の数人は馬車からローラーを取りだして馬車の下に設置していく。



 それぞれ設置が完了したら、レオが「よし、出発!!」とウサギ語で号令をかけると、ソリに繋がれていたウサギ達が「キュキュー!!」と応えて、再び進み出す。不思議に思ってフェラー族長に聞く。



「族長、いきなりでわからないんだけど、これって何してるの?」



「ご主人、これはですね、フロストの町とトリニトの町をつなぐ街道の拡張工事です。」



「拡張工事?」



「そうです。ただ行くのはつまらないから、どうしようかと話し合っているときに、「街道」って言ってるけど、道は狭いし不便だ、という意見が出てきましたので、折角だから行くついでに整備してしまおうという話になりまして。」



「なるほど。拡張工事をするというのはわかったけど、なんでウサギ達に引いてもらっているの? 傍目から見ていると、ウサギ達を酷使しているようで可哀相に見えるんだけど、、、。」



「正直、私も悩みましたよ。でもね、ご主人、これはウサギ達が自分たちで言い出したんですよ。しかも、希望者募ったら全員でしたし、、、。ほら、ご覧下さい。ウサギ達は楽しそうに引いているじゃないですか。」



「うん、そうなんだよね。何か、レオの号令に元気よく応えていたし、、、。でも、無理はさせないでね。」



「もちろんですよ。今回の進行速度はウサギ達に完全に合わせていきますので、もちろん、休憩はこまめに取っていくつもりです。」



「是非そうして。」



「実は、今回のメンバーもこの作業やりたがっている者が結構おりますので、ウサギ達ばかりではなく他の者達にも参加してもらう予定ですので。」



「そうなの?」



「ええ、何か、これで筋力と体力をつける! とか言ってますので。」



「なるほど。納得したよ。」



 最初はウサギ達に無理させているんじゃないかと心配してたけど、族長が話していた内容に嘘はなかった。というのも、交代するのをウサギ達が嫌がったのだ。自分たちが通った後に広い綺麗な道ができていることが楽しかったようで。



 そういうことだったので、基本的にはウサギ達に頑張ってもらうことにした。引くのに飽きたらいつでも交代するよ、ということを確認して。



 こんな感じで道中は進んでいたので、予想以上に進むのに時間はかかっていた、とはいえ、アンジェリカさん曰く、これでも、「商人達の移動速度はおろか、共同馬車での移動速度より早い」とのこと。こちらとしても、座りっぱなしは暇だし、尻が痛くなるしできついので、降りては徒歩で移動したり、水術で移動したりもしていた。



 マーブル達はというと、私とずっと一緒ではなく、クレオ君とパトラちゃんと遊び回っては、途中で眠ったりしていた。そういえば、マーブル達がグッスリ眠っているのを見るのは初めてかもしれない。うん、寝顔も可愛くてたまらない。



 日中は特に問題なく進み、夕食も済ませて今日は野営である。見張りなど役割も決まっていたようで、夜の見張り担当は日中はぐっすり眠っていたようだ。もちろん、念のために水術で氷の結界を張っておくことは忘れない。まあ、マーブル達もいるし、問題はなさそうである。



 こうやって、ある程度警戒していた甲斐があったのか、特に問題はなかったようだ。残念、いや、幸運にもこれといった遭遇はせずに道を拡張しながらトリニトの町へ進む道まで到着した。ここからは、ソリや馬車につけていた道具をそれぞれ外してしまい、ついでにウサギ達の引いていたソリもしまうことにした。流石にいくら広くしたとはいえ、馬車にしまうと嵩張ってしまうので、これらは空間収納にしまっておいた。



 こうして、フロストの町から街道を拡張していくこと数日、特にこれといったこともなく無事にトリニトの町へと到着した。


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