第106話 さてと、ウチに帰りますよ。

前回のあらすじ:領民達へのお土産確保に頑張った。




 テシテシ、テシテシ、ポンポン、いつもの朝起こしである。今日は、しばらくの間お世話になった国境砦を後にして、フロストの町へと戻る。戻ってやらなければならないことは結構多い。まずは、モフ櫛の作成である。素材は黒鉱石、ミスリル、エイシャントオークと、あとは練習用に魔樹かな。これらの素材でまずはマーブルとジェミニ用のモフ櫛を作ってもらうことにする。水術で凍らせて作った見本も用意しておかないとね。



 おっと、領民達への土産も忘れてはならない。基本的には少し良い武器を渡すことにする。かなり上質な武器も手に入ったが、それだとあのダンジョンでの旨味が少なくなると思う。現状の装備でも何とかなるくらいの腕はあると思うけど、お土産は必要だ。そういえば、我が領のコカトリス達はどんなものを好むのかさっぱりわからない。我が領で上質な卵を提供してくれている彼らにも何か渡したいのだけど、、、。



 昨日の夜にある程度考えてはいたけど、喜んでくれるかはわからないのが正直なところ。とりあえず櫛で確認してみますか。羽毛にはよろしくないかもしれないけど、こればかりはやってみないことにはね、、、。



 今日出発ということで、朝食とはいえ結構豪華なものだったのは驚いた。何でも現時点での集大成を披露したいそうで、嬉しいけど、この内容はちと重くないかな? まあ、ありがたくいただきますけどね。



 食事も終わり、片付けを済ませてから出発の最終準備をして、他のメンバーの支度が終わるのをモフプヨしながら待っていたが、それほど待たなかった。



 準備を終えてメンバーが揃い、これよりフロスト領へと戻ることになった。守備兵のみんなは全員で見送ってくれるようだ。



「アンジェリーナ王女殿下、そして、セイラ様、ルカ様、どうかご無事に任務を終えることを願います。」



「皆さんにはお世話になりました。そして、これからも度々お世話になると思いますが、よしなに。」



「「「ははっ!! 我ら、いつでもお待ち申し上げております!!」」」



 守備兵さん達が戦姫の3人に見送りの挨拶を済ませると、今度は私達に向けて声をかけてきた。



「アイス・フロスト伯爵、並びにお伴の皆様、この度は我が領への援軍、まことにありがとうございました!!」



「そういえば、援軍としてこっちに来たんだっけ。」



「ハハハ、フロスト伯爵らしいですな。我ら、更に精進して武芸だけではなく、食事の腕も磨いていく所存です。今度お越しになったときには、さらに美味しくなったと言ってもらえるように励みます。」



「うん、楽しみにしているよ。守備兵のみなさんには本当に世話になったよ。お礼と餞別を兼ねて、このお肉を渡すから、みんなで食べてね。」



 そう言って、グリーンドラゴンの肉を守備兵長に渡した。



「具体的には言わないけど、緑色の大きなトカゲみたいな生き物の肉だよ。自分たちでもこの肉が手に入るように精進してみて。」



「はっ、有り難く頂戴致します!!」



 守備兵のみんなは驚いていたけど、すぐに真顔になって気を引き締めていた。



「アンジェリーナ王女殿下および戦姫の方達、並びに、アイス・フロスト伯爵とそのご一行の方達の無事を願い敬礼!!」



 守備兵の皆さんが、守備兵長の号令と共に敬礼をする。その姿はかなり様になっており、流石は国境を任された兵士だと感心しつつ、こちらも敬礼で返す。もちろんマーブル達も敬礼で応えている。



 こうして、守備兵さん達の見送りを受けて、フロストの町へと向かう。今回は先行部隊としてウルヴが向かうことになった。本来ならカムイちゃんがその任務に当たるのだけど、なぜウルヴなのかというと、原因はアウグストである。全力で疾走したくてたまらないアウグストはウルヴを急かしたのだ。



「アウグストがこんなに好き勝手に動こうとしてますが、フロスト領に行ってもこう好き勝手に動かれると困りますね、、、。」



「ああ、それは大丈夫だよ。フロストの町へ戻ったら、アウグストも大人しくなると思うよ。」



「そんなに気楽に構えていて大丈夫ですか?」



「問題ないよ。よく考えてごらん? フロストの町へと戻ったら、一体誰が待ち構えているのかをね?」



「あっ、なるほど! 確かに、あの町へと戻ったら、自分が現在どの地位にいるのか思い知りますね。」



「そういうこと。だから気にせず先触れの任務頼むね。私達はノンビリと戻るから。」



「そこは、できるだけ早く戻る、くらい言って欲しかったのですがね。」



「しばらくは徒歩で向かうよ。もちろん木騎馬は利用するよ。」



 ウルヴは先触れとしてこの場から離れていった。アウグストが大張り切りで駆けだしたのだ。2人の姿が見えなくなるのに時間はかからなかった。



「アイスさん、フロストの町へと戻ったときのアウグストの地位って?」



「ああ、それですか。アンジェリカさん、フロストの町には誰がいるのか思い出して下さい。」



「ええっと、領民のみなさんといえば、人族に獣人、あとはゴブリンのみなさん、、、あっ、なるほど!!」



「そういうことです。あの町に行ってしまうと、戦闘力というか力関係だけで考えると間違いなく最下層なんですよね。」



「そう考えますと、あの町っておかしいですわよ。あのスレイプニルが力関係で最下層なんですもの。」



「ですよね。恐らく、あの町のファーラビットちゃんよりも下になるかと、、、。」



「・・・あの町のウサちゃん達、いろいろとおかしい、、、。可愛いからいいけど、、、。」



「鍛錬のたまものですよ。これからも、城壁無しでも余裕で守り切れるだけの防衛戦力を養成していかないとなりませんからね。」



「いや、城壁なしの前提自体がおかしいですからね!!」



「確かに城壁は必要かもしれませんが、それだと街割りが自由にできませんからね。まずはある程度町を大きくしていかないと。もともとフロストの町は私達が本当にゼロから作り始めた町ですからね、交通の要衝というわけでもなく、これといった特徴もない所から作り上げた町ですので、特に重要拠点というわけでもないですし、そう考えると、防御施設を整えるより前にやることは山積みなんですよね。しかも町とはいえ、領民の数って100人前後しかいないんですよ、ハハハッ。」



「・・・そうは言っても、あそこの防衛戦力って一国の軍隊以上の戦力規模ですよね?」



「ええ、その通りですわね、、、。いえ、戦力的には恐らくあの都市だけで複数国以上の戦力があると思いますわ。考えてご覧なさいな、あの町にドラゴンを倒せる存在がどれだけいるのかを、、、。」



「ああ、確かに。中には1対1でも倒せるものもいますからね。そう考えると、あの町いろいろと変ですよね。皆さんいい方達ばかりですけど。」



「ですわね、あそこに永住したくなるほどに。」



「・・・ウサちゃん達と一緒、理想の生活、、、。」



 戦姫の3人が何か話しているようだけど、細かいところまでは聞こえなかった。まあ、あの3人のことだから別に悪い話をしているわけではないだろう。



 ある程度進んだところで、私達は徒歩から木騎馬での移動に切り替える。とはいえ、私は今回木騎馬には乗らずに水術での移動だ。というのも、タンヌ王国の国境砦にいたときは、水術での移動をほぼ全くといっていいほどしておらず、マーブル達が水術での移動を希望していたからだ。その願いは聞かなくてはならない。



 私は水術で高速移動状態だが、マーブルとジェミニはというと、ちょこちょこ肩から降りては一緒に走ったと思うと、いきなり肩の上に乗ってきたりと結構自由気ままに移動している。ちなみにライムは大人しく腰袋のなかで大人しくしているのが基本である。他のメンバーは木騎馬に騎乗して移動しているのだけど、たまにこっちを見てはホッコリしたり呆れたりしている。ホッコリするのはわかるけど、呆れているのは何でだろうか? 解せぬ、、、。



 高速移動中とはいえ、アウグストほど速くは走れない、というか、アウグスト速すぎる。まあ、ウルヴ以外はアウグストの全速移動には耐えられないけど。何が言いたいのかというと、アウグストに乗ったウルヴはともかく、私達はいくら隣国とはいえフロストの町へは1日では到着できないということだ。



 ということで、今回は初めての野営、というものを体験するべくその準備もしておいてある。風呂や洗濯についてはフロストの町へと到着してから入るようにしますか。その旨を伝えると、全員が賛成してくれた。いや、逆に野営を提案したら、驚かれた。



「そういえば、アイスさんは野営って初めてかしら?」



「そうなんですよ。いつもはマーブルに頼んでねぐらへと転移してもらってますからね。ちなみに戦姫の3人はどうです?」



「ワタクシ達は野営が基本ですわよ。冒険者ですからね。」



「意外に思うかもしれないけど、野営スキルって姫様が一番高いんだよね。」



「・・・うん、私は特に、姫様におんぶにだっこ状態、、、。」



 そこまでとは意外だった。冒険者だから、一通りのことはこなせるとは思っていたけど、まさか侍女の2人を差し置いて一番スキルが高かったとは、、、。それにしても、ちょっとだけドヤ顔だったのは内緒である。



「なるほど。そうなると、野営未経験者は私だけということかな?」



「ミャッ!」



「ワタシも初めてですよ。」



「ボクもはじめてー!」



 ほう、ライムは確かに初めてだったけど、ジェミニも初めてなんだ。マーブルはやっぱり初めてだったか、というのが素直な感想かな。



「まあ、野営とはいえ、そこは、アイスさんですからねぇ、、、。」



「はい、普通の野営じゃなさそうですね、、、。」



「・・・うん、同意。」



「戦姫の3人がここまでアイス様のことを理解されているとは、凄いやら羨ましいやら、、、。」



「・・・そうだな。」



 周りで何か言っているようだけど気にしない。



 ある程度進んで、周りも暗くなってきたので、アドバイスに従って見通しのよい小高い場所を選ぶ。本来なら、見つかりにくい穴とかの方がいいらしいけど、生憎ここら近辺にはそんなものは存在しない。従って、見張りをするときに見やすい場所にした方がいいらしい。ん? 見張り? 必要なの? そんなことを疑問に思って口にしたら、やはり呆れられた。いやいや、マーブル達が暇つぶしに見張りしてくれるそうだから、お願いすればいいじゃん。私の方でも結界張っておくから問題ないし。



「はぁ、やはりアイスさんですわね、、、。」



 アンジェリカさんがそう言うと、周りのメンバーも頷いていた。ちなみに、マーブル達は私の案に大張り切り状態であった。



 最初はテントの設営だ、といっても、ラヒラスがすでにテントの魔道具を用意していたので、それを受け取る。ちなみにテントは3つ。アインとラヒラス用に1つ、戦姫用に1つ、そして私達用に1つ、といった感じである。ちなみに戦姫用のテントはそのまま戦姫用として進呈するそうだ。回収してたら絶対にクンカクンカされそうだよな。また、使用済みということで、もの凄い値が付きそうだ、、、。それでなくても一通りの宿泊設備になっているから普通に売ったらかなりの額で売れそうな気がする。もっとも制作者本人は趣味で作ったようなものだから、進呈はしても売らないだろうけど。



 ちなみにテントの魔道具は基本的には魔石が必要らしいけど、私達用のテントにだけは、魔石は不要のタイプだそうだ。魔石よりもマーブルに維持してもらう方が高性能になるらしい、流石はマーブルだ。



 テントの設置が終わって、夕食を済ませて、明日の出発時間などを打ち合わせてから解散して、各自のテントへと入っていく。そのときに不審者対策として踏み入れたら少なくとも足の部分を凍らせる結界を張ってからテントに入り、今日は寝ることにした。マーブル達には朝起こしだけお願いして、周りを起こさない程度なら好きに過ごしてかまわないことを伝えて寝た。

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