第105話 さてと、お出迎えです、、、ってしてねぇ!!

前回のあらすじ:領民達へのお土産を得るべく、再びダンジョンを周回した。






 昨日はフロスト領での新しいダンジョンの地下3階で、しこたま魔物を倒してお土産を用意できて満足な状態で今日戻ってくるウルヴ達を待っていた。いや、正確にはウルヴだけはこちらの到着してはいたけど、アウグストが張り切ってしまい3往復走り回るという暴走っぷりを見せていた。アウグストの表情は、ダンジョンで魔物を倒していた時以上に幸せそうだった。どれだけ走るのが好きなんだよ、、、。



 カムイちゃんからの報告で、ウルヴ達だけでなく、アンジェリカさん達戦姫の3人も一緒だったのは少し驚いた。いや、あんたら自国の復興が先じゃん、、、。って、タンバラの街って被害なかったんだっけ。タンヌ王国における他の町についてはどうなんだろうか。



 まあ、それは置いといて、ウルヴ達を待つといっても、やることはお土産の整理と、彼らが戻ってきたときに出す肉の種類をどうしようかといった程度しかない。マーブル達は魔法の練習をするとかで、久方ぶりに私一人である。いや、正確には交代で担当している守備兵さんが一緒な訳だけど。



 ちなみに守備兵さんは、マーブル達をモフりたがっていたようだが、残念ながらここにはいなかったので、ほんの少しではあるが不満そうである。いや、それ私に言われてもね、、、。最近の守備兵さんたちは、私が伯爵であっても平気で話してくる。最初は遠慮して話しかけすらしてこなかったのが、慣れてきたものだ。当人達いわく、貴族という感じが全くしないそうだ。それで良いと思う。私自身も貴族という実感が全くわかないのだ。



 守備兵さん達は主にアンジェリカさん達戦姫について聞いてくることが多い。やれ、好みのタイプとか、どうすれば好感度が上がるかとか、そういったものが圧倒的に多い。何しろ、あの3人は他国の王族であろうと、どんなに高いランクの冒険者であろうとも、一緒にパーティを組むことはないにも関わらず、私達とは積極的にパーティを組んで出かけたがるのが不思議でしょうがないらしい。それで、その秘訣を探ろうとしているようだ。



 ぶっちゃけ、そんなことを考えている時点で、あの3人の好感度が上がることはあまりないだろう。正直にあの3人は全員美女であり、美人と一緒に冒険できてラッキー程度にしか考えていないことを言っても、あまり信じてもらえていない様子なので、何度こう言っても、「またまたー、本当は伯爵も狙っているんでしょ? どの子がタイプですか?」としか言ってこない。まあ、仮に納得してもらったところで、そっち系の趣味としか認識されないのであろう。まあ、勘違いされるよりマシかな。何度言っても聞き入れてもらえないので、職務を忠実にこなせば、顔と名前は覚えてもらえるから頑張れ、とも伝えている。そっちに関してはある程度納得しているらしい。



 端から見ていると、どうでも良い内容の話ではあるが、暇つぶしにはなった。守備兵さんと話をしている間に、もうすぐこちらに到着するらしい、という報告を聞いたので、出迎える準備をしようとしたら止められた。伯爵自身が出迎えるのはおかしいと言われたので、この国はそういうものかと割り切って大人しく待つことにした。結局、昼食はこの部屋で摂ることになってしまったけど、昼食前にマーブル達が戻ってきたので、マーブル達と昼食を摂り、その後まったりと過ごしている時に、ウルヴ達がこちらにやって来た。



「アイス様、改めまして我ら3人、任務を終えこちらに戻りました。」



「3人とも、お疲れ様。タンバラの街はどうだった?」



「ハッ、トリニトの町と比べものにならないほど発展しておりました。」



「なるほど。でもね、トリニトと比べてしまうと、どの町も基本的には発展しているからねえ、、、。」



「そう言われましても、我らはトリニトとフロストの町しか行ったことがほとんど無いので。」



「確かに、そう言われてみればそうか。タンバラの街の様子はどうだった?」



「そうですね。戦の後ということで、皆興奮状態でしたので、通常時がどんな感じであるかはわかりかねる状況でしたけどね。」



「それで、街の復興状況はどうだった?」



「街自体にはほとんど被害はありませんでしたが、いかんせん籠城戦であることに変わりはないので、食料の残りが心許ない状況でしたので、私達が提供した食料は大変喜ばれましたね。」



「おお、喜んでくれたのなら、こちらとしても提供した甲斐があったというもの。」



 そんな感じで話は進み、3人が向こうで普段どう過ごしていたのか聞くと、ウルヴは騎乗技術を買われて、騎馬隊の一員として街の様子を見て回っていたようだ。



 アインは元教会の者として、戦争時の混乱で怪我をした人の治療や、戦ということで、素材として提供された家などを建て直す際の運び要員として動いて回っていたようだ。



 ラヒラスについては、作戦能力を買われて、今後どう対応していけばいいかを、いろいろ聞かれていたそうだ。一番やつれていたのはラヒラスであった。



「なるほどね。3人ともありがとう。ところで、こっちには3人だけで戻る予定だったんだよね? それがどうして戦姫の3人も一緒に戻ることになったの?」



「うん、それなんだけどね。この後、サムタン公国へと詰問の使者を送ることになったんだけど、その前に我が国の皇帝陛下に拝謁して、援軍のお礼の使者として向かうそうだよ。」



「そういう使者って、普通は別々に送らないかい?」



「普通はそうなんだけど、「みんなは国の復興で忙しいから、手の空いているワタクシ達が両方をこなせばいいのですわ!」とか言って、勝手に決まったよ。」



「アンジェリカさん達、いや、アンジェリカさん個人か、どうやっても領内で大人しくしているのは嫌みたいだねえ。」



「それだけではないと思うよ。」



「それだけではない?」



「はぁ、わかると思うけど、、、。」



「そうだよな、、、。」



「私もそう思います、、、。」



 何故か知らないけど、マーブル達までやれやれ、という表情だった。解せぬ、、、。



「ん? 何を察せばいいのかわからないけど、まあ、いいか。どちらにせよ、私も皇帝陛下に拝謁しに行かないといけないわけだし、、、。」



「アイス様が、皇帝陛下に拝謁? ああ、なるほど、俺たちがいない間に起こった、モンスタートレインの件か?」



「そういうこと。こっちもサムタン公国にいた勇者(笑)達が起こしたやつだから、ついでに詰問の使者として行こうかと思ってね。その時に敵対関係になってもいいかどうかを伺ってこないとね。」



「なるほど。戦姫は詰問の使者としても一緒に向かうつもりだったのか。でも、それはおまけだよね。」



「ああ、どう考えてもおまけだな。普通はこっちがメインだろうけど。」



「まあ、それはそうと、フロストの町へは明日出発するけど、それでいいかな?」



「ハッ、その旨をアンジェリーナ王女殿下、並びにこちらの守備兵長にも伝えて参ります。」



「うん、頼むね。夕食までそこそこ時間があるから、ゆっくり休んで。」



 報告を終えた3人はここで与えられている部屋へと戻っていった。ついでに肉を厨房に運んでもらうように伝えて、肉の入った包みを渡した。ちなみに、その肉は一昨日手に入れたオークエンペラーの肉で、結構大量に渡してはいるが、それでも1頭分でしかない位、たくさんの肉を落としてくれた。



 夕食までの時間では、目的の鉱石が手に入ったので、折角だからひな形を作ることにした。何のひな形かというと、もちろん、モフ櫛である。思わず強敵と戦える鉱石も採取可能なダンジョンではあるけど、目的は肉達ではなく、モフ櫛用の素材を探すためのダンジョン探索なのである。



 そんなわけで、ひな形は水術で作った氷で試しに作ってみて、どんな櫛が使いやすいのかを確認してみることにした。まあ、私の水術で作ったものなので、氷が溶けてマーブル達が濡れることはないけど、氷は氷なので冷たいことには変わらないから、そんなに時間はかけられないかな、と思っていたけど、櫛によるブラッシングが案外気持ちよかった上に、見た目とは違い、マーブルもジェミニも冷たいと感じなかったようなので、思っていた以上に形について詰めることができたので、それを素にして設計図というか、紙にある程度の形を書くことができた。



 ちなみにマーブルは櫛の間隔が広めなのを、ジェミニは比較的狭いのを好んだ。マーブルはともかく、ジェミニも案外毛が抜けるんだね、初めて知ったよ。ライムはいつも使用した風呂場の掃除をお願いしているから、そのことは知っていたみたいだけど。



 そんな感じで過ごしていたら、守備兵さんから夕食の準備ができたと報告があったので、食堂へと向かうことにした。



 全員が揃ったところで、アンジェリカさんの音頭で夕食を摂り始めたのだけど、予想だにしなかった出来事が起こってしまった。それは、肉を食べたときだった。全員が肉の美味さに驚いていた。オークエンペラーの肉だから、美味しいにきまっている。しかも調理したのは、最近料理に目覚めて気合をいれて作った守備兵達が作ったのだから。誰もがオークエンペラーの肉の味に感動しているときに、突如、アンジェリカさんが私の方に詰め寄ったのだ。



「アイスさん!! 一体これはどういうことですの!!」



 一体全体、何がどういうことなのかさっぱりわからないのだけど、、、。



「え? いきなりどうしましたか?」



「ワタクシが聞いているのは、この肉をどこで手に入れたかです! この肉は、オークですが、これって普通のオークの肉ではありませんわよね? 恐らく、オークジェネラル、いや、この肉質はキングクラスかそれ以上のはず、、、。」



 はい? 何で食べただけでわかるんですかね、、、。詰め寄っているアンジェリカさんの姿にそういった趣味が目覚める人が続出するかもしれないな、何て考えている場合ではなかった。こ、怖え、、、。これは正直に答えないとやばい、、、。



「え、えーとですね、この肉は我が領で新たに見つかったダンジョンで手に入れた肉です。」



「ダンジョンですの? アイスさん! あなたはいつもそうやって、ワタクシ達の知らない間にとんでもないことをなさいます!」



「ああ、それについては安心して下さい。このダンジョンは戻ったら冒険者ギルドへと報告しますから、アンジェリカさん達戦姫も探索できるようになりますよ。」



「なるほど、そういうことでしたの。わかりましたわ。ただ、アイスさん、そのダンジョンへはワタクシ達を案内してくださるんでしょうね?」



「ハ、ハイ、モチロンデス。」



「ならば、いいでしょう。これは楽しみが増えましたわね。」



「まあ、案内はしますけど、別件の仕事が片付いてからですからね。」



「くうぅ、そうでしたわね。面倒な仕事が残っておりましたわね、、、。セイラにルカ。さっさと片付けてダンジョンに潜りますわよ!」



「もちろん、そのつもりです。王女殿下。細かいことは私達にお任せ下さい!」



「・・・うん、任せて!」



 あ、あのう、セイラさんとルカさんまでやる気になっておりますが、、、。



「そ、それで、アイスさん! フロストの町へはいつ出発なさるのです? これからすぐですか!?」



「い、いや、流石にそれはいきなりすぎませんかね、、、。一応予定では明日ですが。」



「明日ですわね? 承知しましたわ! セイラ、ルカ、そのつもりで準備を進めて欲しいのです。」



 セイラさんもルカさんもやる気に満ちているのか、任せろといわんばかりに頷いていた。



 その遣り取りに周りは唖然としていたけど、結構いつもの光景扱いで済んでいる部分もあり、すぐに気を取り直すと、再び肉の味を堪能し始めたのだった。

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