第97話 さてと、この場所って見覚えがありますね。

前回のあらすじ:地下3階に潜ったはいいが、何か見覚えのありそうな場所だった。



 さて、現在は地下3階におります。地下2階への上り階段より南へと進んだけど、通路が行き止まりで、途中には部屋が1つあるだけという状態だったので、戻って西へと進むことにした。西へ進むと右方向、つまり南へと進む道があり、少し進むと右側、つまり東へ進む道とそのまま南へと進む道に分かれていた。



 東へと進む道の先には扉があった。うん、これ思いっきり記憶にあるやつだ。おいおいマジかよ、と思う反面、流石に同じではないだろう、という気持ちも少なからずある。そっちは願望かもしれない。私の中では恐らく間違いなく勝手知ったる迷宮じゃないかと思っている。まあ、あれこれ考えずに探索してみればいいだけの話だ。



 予測が正しければ、東に進んで突き当たりの扉には魔物が潜んでいることは間違いない。ということで、東に進路を変更して突き当たりにある扉を目指す。扉の前へ到着したので、みんなに戦闘態勢に入ってもらう。準備が完了したのを見て、扉を蹴りつけて部屋に入ると、予想通り魔物? がいたので、鑑定してみると、「這いずる物体」と出たが、∇があったので、更に読み進めると「泡スライム」と出てきた。これでほぼ確定した。ってこれ大丈夫か?



 もちろん、この程度の魔物? ならば相手にならない、と思っていた時期が私にもありました。流石に記憶通りの地形や魔物に似た存在とはいえ、このダンジョンに出現する地下3階の魔物だった。もの凄いタフなんだよね、こいつら。倒したには倒したけど、面倒臭かった。どうにか倒しきると、やはり宝箱が置いてあったので、そちらも鑑定してみると、やはり罠が仕掛けられていた。「毒針」だそうです、、、。しかも、この毒って地下2階より上の階層に登れば消えるそうです、はい、思いっきりシステムまで私の記憶している通りでした。



 毒針ということをカムイちゃんに伝えると、カムイちゃんは箱をいじりだしてアッサリと罠を解除した。なかなかやるね、カムイちゃん。ちなみに、泡スライムからは何も出てこなかった。魔石も落とさないとはどれだけ不親切な魔物だろうか、、、。とりあえず、箱の中身を確認すると、金貨が入っていた。でも、これ金貨が手に入ったとはいえ、使えるのかな? まあ、最悪鋳直して金などの塊に帰るとしましょうかね。どうせ全部が金であるはずがないからね。後で手に入れた金貨は鑑定してみる予定。



 部屋を後にして、先程の通路へと戻り、今度は南へと進むと、行き止まり、というか、突き当たった西側に扉があったので、扉を蹴り開けて中に入ると、部屋というか、空間といった方がいいのか、そこには存在した。正面は暗くなっており、ライムの光魔法でも効果がなかった。もう、方角とか面倒なのでここからは右とかそういった言葉を使っていく。



 この時点で確信した。この階層って、以前いた世界でさんざんプレイした某3DダンジョンのRPGのマップである。そのRPGは特に初代のものが世界中でプレイされているほどの人気であり、私が嵌まっていたのは、有名なコンシューマー機のやつである。それがわかってしまえば、ここの地図は下手をするとフロストの町よりも把握しているので、探索がもの凄いラクである。まあ、あとは魔物次第といったところか。



 先程とは違って躊躇いもなく進んでいく私に、カムイちゃんが不思議な表情で聞いて来た。まあ、無理もないだろう。マーブル達も普段方向音痴で移動方向に気を配っている私が、こうしてフロスト領内でもないほぼ初見であろう場所をすんなりと進んでいることに違和感を感じているようだ。



「アイスさん、ひょっとして、この場所って知っているの?」



「ああ、この場所自体は初めての場所だけど、この地図は記憶にあってね。」



「いや、それ、意味わかんないんですけど、、、。」



「まあ、普通はそうだよね。ここにいるメンバーなら話しても問題ないか。ここはね、私が以前いた世界のとある場所にそっくりなんだよね。」



「以前いた世界? だとすると、エーリッヒ達もこの場所のことは知っているの?」



「いや、エーリッヒさん達も知らないよ。何せ、この場所みたいな地図というか地形? は彼らが亡くなった後に作られたものだからね。」



「そうなんだ。じゃあ、道案内はお願いしてもいいかな?」



「もちろん、そのつもりだよ。マーブル達もそれでいいよね?」



「ミャア!」



「了解です!」



「あるじについてくー!」



 3人の同意も得たので、そのまま進むことにした。このゲームは馬鹿みたいにやり尽くしたので、マップに関しては大丈夫である、とはいえ、ぶっちゃけ、地下1階と2階、あとは4階と6階、それと最下層の10階くらいかな、把握しているのは。地下9階に関しては、4歩で地下10階にたどり着けたから、その周辺を理解していれば十分だし。今日は少なくとも地下1階部分だけだろうし問題はないはず。



 その後もいろいろと探索しては、魔物を倒して宝箱を開けたりして、ダンジョン探索に相応しい内容となりみんな満足そうである。しかも、これはゲームではないので、魔物によっては宝箱の他に素材が手に入るのもありがたかった。特にオークが多めに出てきてくれたのは嬉しかった。また、このダンジョンのコボルトは武器を持っていたので、その武器も回収できたのは大きかった。スケルトンも結構な数出現したが、ライムの光魔法で瞬殺だったので、ひょっとしたらスケルトンが一番楽な相手だったかもしれなかった。



 ただ、魔物に関してはそれでいいかもしれなかったが、宝箱の罠がひどかった。罠がえげつないという意味のひどさではなく、そのネーミングだ。また、アマさんの鑑定って普段から結構ノリがよかったりするのだけど、今回は思いっきり悪のりしてた感があったなあ、、、。



 記憶だと、この階層で出現する罠って、4種類しか存在しない。先程出てきた「スタンナー」やら「毒針」はもちろん存在するが、その他には矢が飛び出るものや、箱だけが爆発してダメージを受けたりするものだったりする。罠を調べたときに他の種類が出てきた場合は、罠の鑑定ミスの場合だ。どんな鑑定ミスがあるかというと、魔術師系の魔法を使える者達を毒や石化の状態にしてしまう「メイジバスター」や神職系の魔法を使える者達版である「プリーストバスター」や、どこか別の場所へと転送させてくる「転送装置」という鑑定結果が出た場合だ。



 アマさん鑑定は、そういったミスも平気で鑑定結果として出しやがった、、、。おい、ジジイ、そういうところで茶目っ気だすんじゃねえよ、、、。



 アマさん鑑定の暴走はそれにとどまらなかった。わざと鑑定ミスさせても全く引っかからなかった私達に対して、やけくそになったのかどうかわからないけど、こんなものまで出てきてしまった。



 どちらも、「メイジバスター」をもじったものであろう事は想像できたが、正直意味がわからなかった。



 具体的に、最初の罠名ですが、「エイジバスター」とか出てきやがった。・・・エイジバスターって、そもそもエイジって誰だよ!? それとも、年齢が関係しているのか!? 意味わかんねえよ、、、。



 次ですが、「レイジバスター」だそうです、、、。レイジって誰だよ!? ひょっとしたらアレか? 手品が得意なやつ専用なのか!? そもそも手品できるやつなんてこの世界にいねえよ!! ハッ? まさか、存在しているのか!? だとしたら、見てみたい気もする、、、。



 あ、念のために言っておきますと、「レイジ」も「エイジ」もでたらめだそうです。ただの思いつきだそうです。一応念のため、カムイちゃんではなく、マーブルの空間魔法に「見えない手」のようなものがありましたので、その「手」を使って強引に開けてもらったところ、罠が存在していなかったようで、普通に中のものが手に入りましたよ。ええ、金貨だけですがね。



 そういったツッコミをしつつも、探索は進み、とりあえず「銅の鍵」と「銀の鍵」という鍵を手に入れました。一応鑑定をかけましたが、このダンジョン専用らしいです。まあ、ひょっとしたら、この階層もダンジョンの中身が変わってゴミアイテムになるかも知れませんが、その時はその時で。



 そんなこんなで探索していますが、この配置の迷宮に関して、実は名物となる存在がいるのですよ。経験値が高い上に、それほど強くないので、序盤のレベルアップでここのお世話になる方も多かったはず。私もその1人である。そこで金属の壺みたいな魔物を連想した方、残念でした。そこまで経験値高くないですし、そもそも、倒したらその魔物、生き返らせないといけませんよね。違います。そのキャラはある部屋にいらっしゃいまして、倒しても、部屋を入り直せば何度でも戦える存在なんですよね。ここではどんな名前になっているのか、正直気になっております。



 ということで、その場所の手前の扉に到着しました。何でしょうかね、看板が貼ってあるんですよ。しかも日本語ですよ、日本語。こちらの世界の住人ではわからない文字ですよ。ちなみにどんな内容かと言いますとね、『ポーラ・マーシィ出張所』『営業時間8:00~18:00』『営業中』とそれぞれセンタリング機能を使って書かれておりました。・・・お前かよ、マーシィさん、、、。せめて違うキャラにしてもらいたかったよ、、、。



「アイスさん、この看板、何か文字が書いてあるみたいだけど、何て書いてあるの?」



 やはり、流石のゴブリンでも読めなかったか。まあ、異世界の文字だし、それは仕方がないかな。そういう訳で、書いてある内容を説明すると、驚いた表情でこちらを見ていた。マーブル達も同様だ。



「ここの書かれている字ってね、以前私がいた世界の国で使われていた字なんだよね。だから、この字は真ん中の行の一部以外は読める人は少ないね。エーリッヒさん達がいた国と私がいた国って違うから、ひょっとしたらエルヴィンさんがひょっとしたら読めるか読めないか、といったところかな。」



「なるほど。アイスさんのいた世界、しかもアイスさんのいた国で使われていた文字か。ちなみに、アイスさんのいた世界の文字って、この世界と比べたらどうなのかな?」



「んー、そうだね、文字の数でいうと、この世界で使われている文字数と、エーリッヒさん達のいた国の文字数とはそれほど変わらないんじゃないかな。ただ、私のいた国の文字は種類だけでも3種類あって、特にある1種類の文字数がかなり多くあるんだよね。ちなみに、その文字は私でも全部でいくつあるのかもわからないくらい多いよ。ただ、そのおかげで、書かれた文字の内容がわかりやすいんだけどね。でも、この世界の文字だけでも特に不便は感じたことはないかな。」



「そうなんだ、、、。アイスさん、今でも元いた世界に戻りたいってあの文字見て思わなかった?」



「いや、全く。どちらかといったら、この世界でこの文字を使うなよ!! ってツッコミたい気持ち?」



「そ、そうなんだ、、、。」



 そう私が言うと、マーブル達がこちらに飛びついてくる。やはりこのモフモフ達最高です!



 当たり前じゃないか。向こうの世界に戻ってしまうと、マーブル達と一緒に過ごせなくなるんだぞ! 仮に元いた世界に戻って、何もせずにノンビリと過ごせるようになったとしても、戻る気はこれっぽっちも起こらないんだよね。



「まあ、それはそうと、この部屋はマーシィさんの出張所らしいので、マーシィさんが出てきますが、はてさて、どんな状態で現れてくれるのでしょうかね。」



「本当にマーシィ教官なの?」



「多分、、、。マーシィ違い、ということも考えられるけど、恐らくあのマーシィさんで間違いないと思う。」



「ふーん。とりあえず入ってみないことにはわからない、と。」



「そういうこと。じゃあ、入りますかね。」



 そう言って、扉を蹴り開けて中に入ると、扉がバタンとしまり、その後で煙が吹き出てきた。いや、煙じゃなくて水蒸気、いや、加湿器から出てくる水? そんな感じのものが吹き出ており、しばらく吹き出たと思ったら止まった。止まると視界がクリアになり、その視界から1人の人物が現れた。よく見た姿だった。



「よお、よく来たな! 久しぶりの客だ、歓迎するぜ!! って、お前らかよ!!」



「いや、それ、こっちの台詞だから。って、何でこんなところにいるの?」



 はい、フロスト領で領民達を鍛えてくれているマーシィさんでした。ここにも現れるとは思わなかったよ。



「いや、俺の出張所ってダンジョンの各地にあったりするんだよ。他にもあと100以上くらいはあると思うぜ。」



「そうなんだ。でも、本体はフロスト領にいるアレだよね?」



「本人を目の前にして、アレって言うなよ、、、。まあ、そうなんだけどよ。」



「ところで、何でこんなところにいるの?」



「知らん。気がついたらあちこちに出張所が出来てた、ってだけだぜ。別に俺が好きこのんで用意したわけじゃないぜ。それはともかくよ、折角ここに来たんだから一戦交えようぜ!!」



「そうだね。じゃあ、お手合わせ願うとしますか。」



「おっと、フロストとマーブルとジェミニは除外な。俺本体でも勝てない相手なのに、出張所の分体では余計に敵うはずがないからな。ということで、カムイ、お前さんだけでかかってきな。分体だから、致命傷にはならねえから安心しな。」



「確かに、それもそうね。じゃあ、マーシィ教官、ご指導よろしくお願いします!!」



「よし、準備が整ったら、いつでも来な!!」



 こうして、マーシィズ・ブートキャンプ(略してMBC)、イン新ダンジョンがカムイちゃんに対して行われた。カムイちゃんは夢中になってMBCを行っており、私達はただ見てただけ、という感じになってしまった。残念ながら、このMBCが終わらないと扉が開かないようで、特にやることが無くなった私達はモフモフタイムを堪能していた。うむ、これはこれでいいものだ。



 MBCを行って、そこそこの時間が経ち、ようやくこちらに気付いたカムイちゃんが気まずそうにしていたのは笑えた。MBCが終わったカムイちゃんの手にはかなりの枚数の金貨があった。



 時間も時間なので、私達は探索を終了して戻ることにする。とはいえ、1カ所気になるところがあったので、探索を続行することにした。マーシィ出張所の近くには扉祭り的な位、馬鹿みたいに扉が設置されているところがあり、そこは方角を間違えると迷ってしまう可能性があるが、この場所は思いっきり把握しているので、問題なく進む。



 進んだ先は真っ暗闇の空間であるが、実はメンバーみんな暗視できるので、そこも全く問題なかった。



 暗闇のなかに部屋がぽつんとあった。そこが気になる1カ所だったので、そこに入ると、変なじいさんが1人で佇んでいたとおもったら、こちらに目を向けて変な呪文を口走っていた。



「ここは、お前のいていい場所ではない、立ち去るが良い、『間広、間破魔、出路的!!』」



 じいさんが変な呪文を唱え終えると、景色が一変した。さっきの場所も同じような感じか、と思いながら辺りを見回すと、そこはダンジョンの入り口であった。私以外の全員が驚いた表情をしていたが、私が普段通りにしていたのを見て、あれはそういうものかと何故か納得されてしまった。



 この後は砦に戻って、いつも通りに過ごして今日は終了となった。

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