第89話 さてと、怒られてしまいました。ご褒美ではありませんよ。

前回のあらすじ:追加のおかわりを平らげた。



 公国軍が禁断の術らしきものを駆使してまでも呼び出した魔物達は、私達の合体攻撃で生み出された1体の光り輝く像によって瞬殺された。それだけでなく、その光り輝く像はタンバラの街を攻めていた公国軍にまで攻撃、というか雷を繰り出した。とはいえ、流石に距離が離れすぎているので大したダメージにはならないはずであるが、それは物理的なダメージであり、精神的なダメージは計り知れないだろう。



 また、その大きな動揺を見過ごす守備隊ではないはず。少なくとも、守将となっているモウキさんを始め、ランバラルさんやオルステッドさんが密かに1兵卒として参陣しているのだ。タンバラの攻防戦も今日明日には決着は付くはず。



 タンバラ防衛戦はタンヌ王国側の大勝利で終わるだろうけど、それよりも私、いや、私達は目の前にある脅威についてどうにかしないとならなかった。



「アイスさん、これは一体どういうことか説明していただけますよね?」



 そう、合体攻撃で生み出した像のモデルとなっている人物、アンジェリカさんが私を中心、というかほぼ私に集中して問い詰めている感じである。その美貌からもたらされる笑顔は、人々に安心を与えるほどであるが、今回は少し異なっている。というのも、笑顔ではあるけど、その目は笑っていない。ぶっちゃけ恐怖以外の何者でもないのだ。こういう趣味のある人にとってはこれ以上ないご褒美といえるかもしれないが、生憎私はそういった趣味を持ち合わせていない、ただ、ただ恐怖である。



 密かに周りを確認すると、流石のマーブル達も伏せの状態で大人しくしている。本心では腹を見せた降伏までしてしまう状況かもしれないが、その恐怖の視線が私に集中しているらしく、かろうじて伏せにとどまっている感じのようだ。でも、これだけは言える。こういうマーブル達も可愛い。



 ちなみに、セイラさんとルカさんは正座の状態で平伏していた。



「アイスさんっ! 聞いておりますの!!」



 やべっ、周りを確認しているのがバレた。バレないように視線を動かさずに水術で探知の濃度を強くし過ぎたのがまずかったのか、、、。



「ハイッ、もちろん、聞いております、、、。」



「では、改めてお聞きしますが、どうして、あのような姿にしたのか、ということです。別にワタクシでなくとも良いでしょうに。」



 あまり馴染みの無い人が聞いていれば、通常の会話にしか聞こえないが、ある程度アンジェリカさん達と親しくしている者達には、トーンやその他でいつもと違うことがありありと理解できる。とはいえ、普段つきあいのない者達から見ても、今纏っているオーラがやばいものであることは理解できるので、どちらにしても恐怖でしかない。下手に取り繕うとどうなるかわからないので、素直に応えることにした。これだってかなり勇気を振り絞っているんですがね、、、。



「答える前に、私が援軍にここまで来たときに、今回の防衛戦の目的、というか、私が考えていることを話しましたよね? 覚えていますか?」



「ええ。誰に喧嘩を売っているか、ということを内外に見せつけ、二度と戦う気を起こさせないように圧倒的な力の差を見せつける、でしたよね?」



「はい、それで重要なのは、誰に喧嘩を売ってしまったのかを相手に理解してもらう、ということです。ここはタンヌ王国です。公国軍が喧嘩を売ったのは、私ではなく、アンジェリカさんに対してです。ということは、アンジェリカさんを前面に押し出す必要があったためです!」



「そ、それはそうなのですが、、、。で、でも、あんなに大っぴらにワタクシを前面に押し出さなくても。」



「いえ、前面に押し出す必要があったのです。恐らくアンジェリカさんの光り輝く像の一部始終を、タンバラの街からは一応見えるくらいの大きさでしたから、住民の一部はしっかりと見ていたと思います。それが広まれば、タンヌ王国内外に、誰がタンヌ王国を護っているのかを知ることになります。そして、それがタンヌ王国へ手を出そうとする連中に対して大きな抑止力となるのです。」



 よし、どうにかなりそうだな。正直、最初はただの好奇心でアンジェリカさんの像にしたに過ぎなかった。けど、ここまで追い詰められて、周りを整理しているうちに今の考えが思いついたのだ。とはいえ、嘘をいっているつもりは全く無い。後付けとはいえ、本心で話している。そうでないと、アンジェリカさんクラスの人間には通用しない、というか、逆に怒りを増幅されてしまう。今後を考えるとそれはマイナスでしかない。下手をすると、マーブル達にも嫌われてしまうかも知れないのだ。これだけは避けないと。



 何とかアンジェリカさんの怒りレベルを下げることに成功はしたが、本人は納得がいかないらしく、その後説教は一時間以上続いた。説教が終わった後、私達は足が痺れてしばらく動けなかった位だ。



 一通りの説教が終わった後、ようやくいつも通りに戻ったアンジェリカさんが、私達の今後の行動について聞いて来た。



「ところで、アイスさん、この後はどうなさるおつもりかしら?」



「とりあえず、国境まで戻りますよ。カムイちゃんとも合流しないと。」



「タンバラの街には行かないのですか?」



「以前のおっさんの状態でしたらともかく、今の状態では正直いろいろ面倒臭いことが起こりそうなので、できれば遠慮しておきたいかな、と。とはいえ、外交的にそれはまずそうなので、ウルヴ達を私の代理、いや、今回の援軍を率いてきた、ということにして私はフロストの町へと戻りますよ。」



「そうですか。アイスさんには是非タンバラの街へ来て欲しかったのですが、確かにそういう事情もおありでしたね。」



「そういうことです。もう少ししたら、公国軍の魔物使いの連中をウルヴ達が連れてくると思いますので、とりあえずここで少し待つとしましょう。時間的にも昼飯の時間を少し過ぎておりますので、彼らを待って昼食としましょう。」



「そうでしたわね。そろそろ昼食でしたわ。ところで、アイスさんは昼食はご用意されているのかしら?」



「当然用意してますよ。もちろん、アンジェリカさん達の分も用意しておりますのでご安心を。」




 ウルヴ達はというと、巨大なアンジェリカ像に驚いていたが、その像が悪魔達を一蹴していた様子にさらに驚きを隠せなかった。



「おい、あの巨大な女神みたいな像って、どう見てもアンジェリカ様だよな?」



「ああ、間違いないな。しかも、一瞬で悪魔達を消滅させているし、、、。」



「何か、あの像、別の領域にも魔法放ってるよ、あの方向はタンバラの街だね。合体攻撃にしても、あれは尋常じゃないよね。」



「そうだな、あれ考えたのは間違いなくアイス様だよね。」



「間違いなくそうだろうな。しかし、よくもまあ、あそこまでアンジェリカ様そっくりにできたな。」



「アンジェリカ様を形造ったのはジェミニ君かな、多分。」



「ジェミニ君が? あのウサギ、どれだけ有能なんだよ、、、。」



「確か、うちのアマデウス教会にあるアマデウス神の像も、ジェミニ君が造ったんだよね。」



「そういえば、そうだったな。ジェミニが造ったとアイス様は言ってたな。」



「今更だけど、アイス様って、アマデウス神を見たことあるのかな?」



「あるんじゃないかな。アイス様だったら会ってもおかしく無さそう、、、。」



「俺もそう思う。アイス様、アマデウス神の像が出来上がったとき、ジェミニをかなりモフってたしな。」



「しかし、普段のアンジェリカ様もかなり綺麗な方だけど、あの像はさらに神々しくなってるな。」



「そうだな。しかも動いてるしな、あの像。」



「まあ、その話はこのくらいにしておこう。俺らにはまだ任務が残っているからね。」



「そういえばそうか、ところでラヒラス、敵さんの様子はどうなってる?」



「全員倒れているね。恐らく魔力を使い果たした感じかな。これなら全員バッチリ捕縛できるね。」



「了解。全員捕まえたら、アイス様の所へと行こう。」



 こうして、ウルヴ達別働隊は公国軍の別働隊を労せず全員捕らえて、アイス達の元へと移動した。



「アイス様、ウルヴ、アイン、ラヒラスの3人共、無事に任務を終えて戻って参りました。」



 ウルヴを先頭に左右に控える感じでアインとラヒラスも馬から下りて、こちらに報告してきた。



「3人ともお疲れ様。よくやってくれたね。君達の被害はどうなっているの?」



「ハッ、我々3人ともほぼ無傷です。」



「それは何よりだね。では、報告を聞きましょうか。」



「ハッ、我ら3人は、80名ほどの盗賊達を殲滅、並びに約20名の公国軍の者達を捕縛して参りました。ちなみに逃亡者は一人もおりません。」



「おお、それは大手柄だね。公国軍の連中はこっちで預かるよ。堅苦しい話はここまでにして、これから昼食にしよう。3人の分もしっかり用意しているから一緒に食べよう。」



「「「ハッ!!」」」



 3人は私に敬礼してきたので、私も敬礼でもって応える。マーブル達も一緒に敬礼していたのは少し笑えた。



 昼食後は、今後の予定を軽く話した。



「・・・というわけで、この防衛戦が終わったら、3人にはタンバラの街へと行ってもらいたい。」



「また、面倒なこと押しつけられたよ、、、。」



「ラヒラス、まあ、そう言わないでくれ。タンヌ王国ではいろいろとあってね、あまり大っぴらに私の存在は知られたくないんだよ。実際、3人が別働隊に突撃するだけで十分あの連中は倒せたからね。」



「主命ですから、お引き受けしますが、私も個人的には気乗りしません。」



「ウルヴもそう言わないで。ひょっとしたら褒美で馬がもらえるかもしれないから。」



「馬ですか!? しかし、私達だけというのは、、、。」



「いいんだよ。私はそういったものは興味ないから、私の代わりに君達が褒美をもらってくれれば。そのための代理でもあるんだから。」



「そういうことで納得しておきます。ただし条件があります。これは3人の総意でもあります。」



「ほう、珍しいね。何の条件かはわからないけど、私で叶えられるのなら聞くよ。言ってみて。」



 私がそう言うと、3人はニヤリと笑った。何だか怖いな。特にラヒラスのあの笑みは黒さが際立ってかなり怖い。



「国境の砦に戻ったら、先程狩ったドラゴンの肉料理を所望します!!」



「ワタクシ達もそれを希望しますわ!!」



 アインが代表して条件を言うと、アンジェリカさんもそれに呼応した。セイラさんもルカさんも頷いていた。まじか、、、。まだ細かく分けてないから面倒臭いんだよね。いや、みんなに提供するのは問題ないんだけどね、、、。とにかく面倒なんだよね。大事なことだから二回言ったけど。



 とはいえ、これだけ期待されているんだから、準備しないわけにはいかないよね。面倒臭そうな表情をしていると、3人ばかりでなくアンジェリカさん達も「手伝う」と言ってきた。これはますます用意しなければならないかな。マーブル達を見ると、マーブル達もやる気になっているのがわかった。それでは大いに頼りにさせてもらいますかね。



 さてと、何を作りましょうかね、、、。砦に戻る道中でマーブル達のモフモフを堪能しながらそんなことを考えていた。

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