第88話 さてと、追加の大物です。



前回のあらすじ:いいお肉が手に入った。



 アイス達がワイバーンの集団+ドラゴンを遠巻きから偵察用の魔導具で観察していたラヒラスが思わず呟く。



「あの人達、人間辞めてるよね、、、。」



 いきなりの呟きに驚きながらも、黒一色の一人の騎士っぽい格好の男が聞いてくる。もちろんウルヴの戦闘状態の格好である。



「どうした、ラヒラス? そんなことは言わずともわかると思うけど。」



「いや、今更なのはわかっているけど、さっきの戦闘を見てたら、呟かずにはいられなかったんだよ。」



「ふむ。どんな感じだった? 俺らからよく見えないからな。ワイバーンの集団とドラゴンらしきものは確認できたが、それらがどうなった?」



 アインも会話に入る。盗賊達を殲滅したあとは、公国軍の連中を逃がさないように様子見をしている状態なので、今はどちらかといえば暇である。それでも、公国軍が駆使する魔物達の中には、ラヒラス達の気配がわかる者もいるらしく、ごく少数ではあるが、こちらにも押し寄せてくる魔物はいたが、問題なく武器の錆にしている状態だ。



 公国軍はあっさりと殲滅されていく魔物達に驚きながら召喚などをしているせいか、ラヒラス達の存在には気付いていないようだ。彼らの方へ向かった一部については、大量召喚したせいで、一部命令を聞かない存在程度の認識だった。



「それがさ、公国軍の連中がほぼ全員で青い顔をしながら頑張って召喚した、虎の子であろうワイバーンの集団にしろ、これも虎の子であっただろうテイムしたドラゴンだよ? どう考えてもやばい存在だよね? それらがさ、俺らが盗賊達を殲滅したときよりもあっさりと倒してるんだよ。」



「まじか? あれらの集団、もう殲滅したのか?」



「そうなんだよ。大体さ、これらを全部倒すのにだって、通常なら早くても数日はかかる存在なんだよ。それがさ、ここまで倒しているにも関わらず、まだ昼飯前なんだよ?」



「そうだよな。たまに冒険者ギルドで依頼をこなすけど、出てきた魔物の種類や数を確認すると、余計にそう感じるよな、、、。」



「更にさ、普通に戦っても余裕なくせに、わざわざ合体攻撃とかで仕留めているんだよ。あれ、どう考えても遊んでいるよね。」



「それはそうとして、あの合体攻撃なんか良くない?」



「ああ、俺もそう思った。あの戦姫達と合体攻撃とか羨ましいというのもあるけど、俺らでもああいうのしてみたいよな。」



「合体攻撃か、いいとは思うけど、俺らだと何かいいものってあるのか? 俺らはラヒラス以外は1対1特化みたいなものだし。」



「別に対集団にこだわる必要はないんじゃないのか? アイス様達はアイス様達、俺らは俺らで。」



「そうだね。1体に特化した合体攻撃というのもアリではないかな。」



「そういうことだ。というわけで、ラヒラス、何か考えておいてくれ。」



「結局そうなるのね、、、。まあ、考えておくよ。」



「完成したら教えて。練習必要だろうから。アイス様達みたいにいきなりぶっつけ本番は無理だろうしね。」



 と、暇をもてあましている3人がのほほんと会話を続けていたが、3人はいきなりの気配を感じた。



「!!」



「ラヒラス、何かわかるか? いきなりやばそうな気配を感じたのだが。」



「何か、周りが少し暗くなっている気がするが気のせいか?」



「いや、気のせいじゃないね。公国軍の連中がアイス様達の方に憎悪を向けてるよ。多分、虎の子をあっさりと潰されて怒りで我を忘れてる感じかな。」



「おい、あれって、かなりマズい状況だよな? ・・・俺らだけの場合だけど。」



「うん、そうだね。俺らメインの部隊だったら、かなりマズい状況だけど、相手が相手だからねぇ。」



「こればかりは相手に同情してしまう自分がいる、、、。」



「偶然だな、俺もだ。」



「そうだね。そう考えると、無知って、それだけでも罪のような気がする。」



 さらなる脅威の出現を感じたが、ウルヴ達3人は、アイス達のことをまったく心配することなく、むしろその脅威の存在に対して同情してしまうのであった。



 アイス達はというと、次なる大物の出現にわくわくしながら待っていた。アイスはこれでも一応は普通の人族である。水術というチートに近いスキル以外は特に何もあるわけではない。にもかかわらず次なる大物が出現することを確信しているのは、以前の世界で読みあさった転生ものでは、ほぼお約束の展開であり、この世界においては、そのお約束全開の世界ということに確信を持っているからだ。



 待っている間、ジェミニを主としてマーブル達は先程倒したドラゴンの解体を楽しんでいた。アマさんの鑑定でも投げやりな位にモブなドラゴンではあったが、ドラゴンはドラゴンである。大きさもかなりのものであり、手に入る素材についてもやはりそこは腐ってもドラゴン、肉については言うまでもなかった。



 そんな巨大なドラゴンでも、ジェミニ達にかかれば、解体するのもそれほど時間はかからなかった。部位毎に解体が終わると、オニキスが嬉しそうにその解体部分を私のところに持ってきて渡してくれるので、それをしっかりと受け取って空間収納にしまっては、オニキスを撫でる、という繰り返しだ。可愛い。



 何度かそれを繰り返していると、マーブル達が羨ましそうにオニキスを見ていた。もちろん、マーブル達にも後でモフモフタイムが待っているから、もう少しガマンしてね。



 それほど時間がかからずに解体が終わると、マーブル達は私に飛びついてきた。もちろん私はしっかりと受け止めてモフモフタイムを堪能する。まだ出番がなく準備をしているだけの輝いているアンジェリカさんを筆頭に戦姫が羨ましそうにこちらを見ていたが、気にしない。このモフモフタイムは誰にも邪魔させないぞ。



 などと思ってモフモフを堪能していると、私達の目の前に魔方陣が現れた。普通、魔方陣は光り輝くものであるが、この魔方陣については何かドロドロしたものを感じた。ようやく大物が現れたのだろう。とりあえず思ったのは、解体が終わってからでよかった、ということである。



 見たこともない種類の魔方陣だったので、残念ながらモフモフタイムは終了、後でじっくりと堪能するとして、何が出てくるのかワクワクしながら観察する。



「・・・これ、禁断の術と呼ばれている儀式のやつ。」



 普段は先陣を切って話さないルカさんが呟いた。



「禁断の術? というと?」



 何のことかさっぱりわからないので、ルカさんに聞いてみる。



「召喚師を抱えている国は、その国独自の技術があるの。その中には、国毎で禁止されているものもある。これはその1つ。」



「国って公国だよね? ルカさんは王国だけど、公国のことってわかるの?」



「・・・正確にはわからない。けど、この手のやつは間違いなく禁断のもの。魔方陣の術式はともかく、色がそれを物語っている。」



「ほう、なるほどね。ということは、かなりの大物を期待してもいいということですね?」



「・・・そうかも知れないし、そうでないかも知れない。一つ言えるのは、こういうのって少し時間がかかるということ。」



「なるほど。まあ、どちらにしても少し期待してもいいかもしれないね。ということで、アンジェリカさん、この戦いの仕上げをお願いしますよ。でも、まだ発動しないでくださいね。気持ちはわかりますけど。」



「ええ、もう少しですからガマンしますけど、できればさっさと出てきてもらいたいものですわ。」



「ですね。それには同感します。で、アンジェリカさんに仕上げはお願いしますが、今のうちに希望を聞いておきたいと思います。」



「希望、とは、何ですの?」



「いや、簡単な話です。最後の一撃についてです。単独で無双なさるか、みんなで合体攻撃する際の仕上げでの出番かのどちらになさるかです。」



「そんなもの、言うまでもありませんわ。合体攻撃に決まってます! みんなばかり合体攻撃して、ワタクシだけ仲間はずれは許されませんわよ!!」



「そう言ってくれると信じておりました。では、全員での合体攻撃ということで決定ですが、相手は禁断の術を使ってまでも呼び出した存在です。恐らく勿体つけての登場だと思いますが、全体が現れたらさっさと攻撃開始することにします。・・・あ、予定変更します。少しくらいは口上を聞いてもいいかな、って、ちょっと思ってしまいましたので、少し聞くことにします。でも、恐らくすぐに攻撃開始すると思いますので、そのつもりでいてください。少し興味あるな、とは思いますが、どうせ大したことは言っていない感じになりそうなので、、、。」



「そうですわね。ワタクシもさっさと放出したいので、アイスさん、できるだけ早く攻撃開始してくださると嬉しいですわ。」



「まあ、そこは相手次第でしょうね。で、話を戻しますが、アンジェリカさんと同じくらい重要な役目をもっているのはジェミニです。準備は大丈夫ですか?」



「ワタシにお任せです!! きっとみなさん満足してくれると思うです!」



「うん、期待しているよ。では、改めて、相手が出終わったら、戦闘準備開始です。攻撃開始は私が水術で氷の結界を張ってからになります。みんな、段取りは大丈夫ですね? 恐らく、これが見事に決まれば、公国軍主力も戦意喪失して、タンバラの守備隊のみんなにとって狩り場に変わります。タンバラの守備隊のみなさんにタップリと武功を稼いでもらうために、ここは気合をいれていきましょう。」



「「「了解!!」」」



 全員が敬礼で応える。では、出現を待ちますかね。



 しばらく待っていると、魔方陣のドロドロ具合が増して、ようやくその魔方陣から魔物が現れだしていた。それに合わせるかのように辺りが暗くなっていった。いや、正確には黒いオーラが一体を包み込んでいる感じなのだろう。これが魔物のオーラなのかもしれない。しかし、それに恐怖を抱くような私達ではなかった。



 魔方陣からは、先程のドラゴンと同じくらいの大きさの悪魔だろうか? そんな感じのものがゆっくりと現れていた。それと同時に周りには悪魔の群れが大小で10体くらいだろうか、現れていた。折角なので、鑑定をかけるとする。アマさんよろ。



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『マイルフィック』・・・古代の魔神と呼ばれる存在じゃな。とはいっても、その影響は受けておるが、どちらかといえばレプリカみたいな感じじゃの。残念ながらこやつは魔剣グラムの素材になりそうなものはないのう。って、お主グラムを全く使っておらんな。まあ、それはいいか。お主にはお主のやり方ってもんがあるんじゃろうしのう。少しランクダウンして不満じゃろうが、残念ながら、あのクラスの召喚技術程度ではこれが精一杯じゃ。いや、むしろここまでのものを召喚できたことを褒めてやるレベルじゃぞい。



『グレイトデーモン』・・・悪魔の上位種じゃな。これは本物じゃぞ。といっても、お主達の相手にはちと荷が重いかもしれんがの。しかし、数がそろえば脅威となる存在じゃ。油断は禁物じゃぞ。一応念を押しておくが、「ぐーたれ」じゃないぞ。



『レッサーデーモン』・・・悪魔の兵隊的存在じゃな。こやつらも数が揃うと十分脅威となる。


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 なるほど、これがマイルフィックね。ってレプリカかよ! あ、そうか、グラムの存在忘れてた。でも、あれって今後使う機会来るのかなあ、、、。それぞれ鑑定してみたが、大きいのがグレイトデーモン、小さめのやつがレッサーデーモンだった。って、「ぐーたれ」はまずいだろう、、、。いっぱい出てきて守備力強化されるのはもっと嫌だけどね。



 マイルフィックが少しずつせり上がっていく感じで出現するのと同時に、取り巻きの悪魔たちの数も増えていってる感じだった。最初は10体くらいだったのが、どんどん数が増えていき、マイルフィックの巨体が全部現れた頃には、その数も多分100を超えた感じであった。



 そのマイルフィックも最初はぼんやりとした存在であったが、ようやくはっきりとその姿が現れていた。これがマイルフィックか、と感心しながら見ていると、そのマイルフィックが話してきた。その動きはちょっとぎこちない。やはり召喚師のレベルが低いせいだろう。でも、そんなことはこっちは知ったことじゃない。



「我を、呼び出したのは、貴様か。」



「いや、あんたの後ろにいるであろう連中かな。まあ、戦うのは私達だけどね。」



「ほう、貴様達が我の生け贄になる存在か。ふむ、貴様達は全員それなりの力は持っているようだな。我の生け贄に相応しい、、、。」



 あ、これ面倒なやつだ。周りにいるメンバー達を見てもうんざりしているようだ。一応会話にはなっているが、恐らく話は通じないだろうし、通じても今までと同じようなもの、つまり、テンプレだろう。さっさと攻撃開始しますか。



「では、戦闘開始します!!」



 私がそう告げ、マイルフィックを含んだ、悪魔達の周囲に氷の結界を張った。



「ほう、さっさと生け贄になりたいのか、下等生物にしては殊勝な心構えだ。」



 何か言っているが放っておきますか。周りの悪魔達は集団で結界を破壊しようといろいろしているが、もちろんその程度ではこの結界はびくともしない。チート以上に育った水術なめんなよ。魔法が使えない分の怨念が籠もっているんだからな。



 悪魔達が氷の結界に包まれたのを確認すると、他のメンバーは次々に結界めがけて攻撃を繰り出していく。



 最初はもちろん、マーブルだ。マーブルは、いつもより強めの風魔法を飛ばして結界内にある氷をもの凄い勢いでかき混ぜていく。いつもより強めの風なので、逆に結界が吹き飛んでしまう勢いだったため、改めて気合をいれて結界を強くする。



 次はセイラさんと意外にもライムだった。セイラさんは矢をつがえて上に構えると、ライムが鏃にひっついたと思ったら、その場を離れると、鏃が光り輝いていた。どうやら矢に光り魔法を付与したようだ。ライム、いつの間にそんな高度な技術を? お父さんは嬉しいです!!



 セイラさんが上空に矢を放つ。少しすると、無数の光り輝く矢が結界内に入っていく。結界内が光り輝いたが、それも一色ではなく虹のようにいろんな色があり、その色が動き回っていた。



 今度はオニキスが水を放つと、その輝きが一段と増していった。



 その次は、土魔法でたくさんの石つぶてを出していたジェミニだ。ジェミニは先程よりも速いテンポで石を蹴り込んでいった。



 その石つぶてが全て結界内に入ったのを確認したルカさんが、火属性の魔法を放った。出てきた火の大きさはそれほどでもなかったが、色がヤバかった。何というか、青かったのだ。かなりの魔力がつぎ込まれているのが何となくわかった。



 ルカさんの放った火魔法が結界内に飛び込むと結界の上側にあたかも太陽のようにさらに結界内を照らす。結界内がどうなっているのか確認するのが怖いが、残念ながら確認する手段はない。



 全ての準備が整ったところで、ようやくアンジェリカさんの出番だった。



「ようやく、ワタクシの出番ですわね。これで終わりですわ!! 『ジャッジメント』!!」



 アンジェリカさんから放たれた魔法は一筋のかなりぶっとい雷の柱だった。その雷はルカさんの作った太陽を貫くと、作った氷の結界も破壊され、その雷は何か形を形成していた。



 完成を見守ると、一人の見慣れた槍を持った人物にそっくりな巨大な像が現れた。その像は頭上で槍を振り回すと、その周囲から雷が落ち、悪魔達に一体ずつ刺さっていく。もちろん、悪魔達は全滅、それに耐えたのは一体の巨大な悪魔のみ、しかもその悪魔は瀕死の状況である。



 雷の像は持っている槍でその悪魔を一刀両断したあと、槍を頭上に掲げると、タンバラの街を囲んでいた公国軍に対して雷撃が飛んでいた。



「よし、上手くいった!!」



 その像が予定通りに行動したため、メンバーで喜びを分かち合っていた。約1名を除いては、、、。その約1名はその状況を飲み込めずにアイスに詰め寄っていた。



「ア、アイスさん、あの像は、一体、どういうことですの、、、?」



 その美貌からは笑顔がこぼれていたが、その目は笑っていなかった、、、。

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